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第178話 「仕置き」

「たかが人間如きに……許さん、許さんぞぉ!」


「許さんのはこっちだよ。大事な妻の心の傷を抉って、よくも面白がってくれたなぁ」


 メフィストフェレスは怒り心頭のようだが、ルウは平然としている。


「ひゃはっ!」


 いきなりメフィストフェレスは目の前に巨大な火球を出現させ、それをルウとモーラルに投げつけて来た。

 火球は2人に当たって炸裂した灼熱の炎が彼等を火だるまにする筈……であった。

 しかし火球はルウ達の目の前で忽然と消えてしまう。

 これはルウがフランと初めて会った時に使った火属性魔法の無効化である。

 不意を突いたつもりのメフィストフェレスの表情が驚愕に包まれた。

 ルウは何事も無かったかのようにモーラルに言い、彼女を抱き寄せた。


「このままこいつをぶっ倒すと多分村が壊れるな……よし、モーラル、お前は連中に拉致される事はもう無い。半鐘を鳴らしてゴブリン達の所に向え、こいつは俺が仕留めておく」


 こいつを片付けたら俺も行くからとルウは笑う。

 そして自分の魔力をモーラルの糧とするように命じたのである。

 

「俺の魔力を持っていけ、思う存分な」


「はいっ! 旦那様!」


 モーラルは大きな声で返事をすると抱き合ったままルウから充分に魔力を貰う。

 普通の夢魔にとっては単なる食事だが、モーラルにはそれ以上の意味がある。

 暫し抱き合ってモーラルは充分に魔力を吸収すると情感の篭った目でルウを見詰めて頷く。

 そして思いを断ち切るかのように彼から離れて一直線に半鐘に向かい、大きな音で打ち鳴らしたのだ。


 カーン、カーン、カーン


 金属特有の音が響く中、ルウとメフィストフェレスは対峙していたが、急に周りの風景が変わった。

 周りが白く何も無い空間―――ルウが作り出した異界である。


「うおっ!? ここは?」


「ははっ、ここなら誰にも迷惑を掛けずにお前を懲らしめられる。来るが良い、存分に戦って見せよ」


 驚くメフィストフェレス。

 そしていつかの時のように悪魔に対するルウの口調が途中から厳かな深みのあるものに変わっていた。

 まるで違う人間が1つの口から話すような不思議な感覚である。


「なあ~、や、やはりぃ」


 メフィストフェレスは今迄、半信半疑であった。

 しかし彼は今、確信したのである。

 このルウと呼ばれる人間がかつて自分が仕えた大いなる主と何らかの繋がりがある事に。


 ち、畜生!


 メフィストフェレスは口の中で舌打ちをし怨みの言葉を罵ると、またもや火球を呼び寄せた。

 今度は直径2m程もある巨大な物であり、それも一度に3つも浮かんでいる。


「今度はどうだっ!」


 メフィストフェレスは渾身の魔力を込め、火球を再度投げつけた。


「柔いし、温いし、遅い! まるで餓鬼の魔法だ」


 ルウは1つ目を軽く指1本で触れると破砕させ、2つめは素手で掴み放り投げ、最後は顔面ぎりぎり迄引きつけ、あっさりとかわす。


 何なんだ!? こいつは?

 俺の冥界から呼び寄せた煉獄ゲヘナの火球を子供の火遊び扱いだと!?


 メフィストフェレスの表情は屈辱に歪んでいる。


「まあ無効化しても良かったがな……さあ、他には無いのか?」


 糞っ!

 ならばこれはどうだあっ!


 メフィストフェレスは息を思い切り吸い込むと口を窄めてルウに吐き掛けた。

 彼が吐いた息は冥界において地上のどんなに頑健な肉体をも腐らせるという瘴気の一種である。


 しかし……

 ルウは瘴気の中でも全く動じていない。

 逆にその肉体は輝きを増し、魔力が増している。


「ば、馬鹿なぁ! 人間が何故ぇ!?」


「瘴気は今の俺にとって現世うつしよの大気中にある魔力の素マナと一緒さ。ふん、墓穴を掘ったな」


 ルウが全身に浴びた瘴気があっと言う間に魔力に変換されて行く。


「お前はモーラルの心を弄び、触れてはいけない場所に触れた!」


 ルウの言霊が朗々と詠唱される。


「心を弄ぶものよ。約束の地より放たれし嘆きの槍ロンギヌスが汝の肉を喰らい、魂を飲み込むであろう!」


「や、やめてくれ! その魔法はぁ!」


復讐ウルティオー!」


 ルウの気合の入った言霊がメフィストフェレスに投げ掛けられる。

 それは禍々しい漆黒の魔力波オーラとなり、一直線に飛んで行く。


「おわぁ!」


 メフィストフェレスは悲鳴をあげ、魔力波を避けようとしたがその努力も徒労に終わる。

 魔力波がまるで肉食獣の口のように彼を飲み込んでしまったからだ。


「い、痛い、痛い、痛い~っ! や、やめてくれ! 許してくれ~っ!」


 漆黒の魔力波に包まれたメフィストフェレスは身悶えして苦しんでいる。


「人間の心の痛みや妬みを味付けにして魂を貪り食うのがお前達、悪魔の本能だろうが、逆に自分が食われる方になった気分はどうだ?」


 ルウは踵を返すとメフィストフェレスを残して歩いて行く。


「ま、待てっ! こ、このまま置いて行くとは――ほ、本気か?――ぎゃあああああ」


 ルウは後ろ向きのまま、ぴたりと歩みを止めると口を開いた。


「無論、置いて行く。お前達、悪魔は基本不死で未来永劫に存在する事が出来るが、それも魂あっての事」


 ルウの口角は上がり、眼光は鋭い。


「……魂が無くなれば悪魔とて消滅する。それ故お前達は人間の魂に執着する……ちなみにその魔法は悪魔殺しと言われている。魂自体が消滅するからだ……では、さらばだ」


 ルウはそう言い放ち歩き出そうとするが、メフィストフェレスが縋るように言葉を発して来た。


「ま、待て! 俺はっ、使われただけだ。奴は召喚者は――俺の本当の契約者ではない。俺はバエルに使われているだけだぁ!」 


「バエル……だと」


 メフィストフェレスからバエルの名が出たのを聞いて、再び歩き出そうとしたルウの足がぴたっと止まる。


 バエル――またの名を蝿の王ベルゼブブ

 嵐と雨を起し、かつて東方を支配したという大いなる王だ。

 魔法王ルイ・サロモンが使役した72柱の悪魔の序列1位に位置する大悪魔である。

 その彼が……


「奴は――契約者は『アッピンの赤い本』の1部分を所持しているんだぁ! だからバエルも逆らえないんだよぉ」


 メフィストフェレスはもう全て白状する気になっているのであろう。

 ルウは指を鳴らし魔法を停止した。

 そして『復讐』の魔法の代わりに『束縛』の魔法を掛けたのである。


「ヴィネ、バルバトス」


 ルウは従えた2人の悪魔を呼ぶ。

 例の蒼い火球が発生し、あっという間に人間の姿をした2人が現れる。


「こいつを拘束し、見張っていろ。後で話を聞く」


 ルウは床に倒れて半死半生のメフィストフェレスを顎で指し、転移魔法で村に戻ったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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