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第176話 「気迫」

「村長の家はこっちよ」


 エミリーは先頭に立ち、足早に歩いて行き、その後を再びカミーユを背負ったジョナサン、そしてモーラルが続く。

 途中、幾つかの建物が点在するが殆どが平屋で屋根裏を備えている造りであり、当然木造だ。

 屋根が少し急なのは雪が上に積もり難くするためとカミーユが教えてくれる。

 思えばエミリーの弟であるこの7歳の少年の態度も随分変わったものだ。

 ジョナサンにおぶって欲しいと自分から言い出し、さっきからずっと笑顔なのである。

 やがて突き当たりに、他の建物よりふた回り程大きい建物が見えてくる。

 これがこの村の長であるアンセルム・バッカスの家であった。

 エミリーは家のドアのノブを勝手知ったる様子で回し、中に入り込む。


「村長、居るの? 報告があるんだけれど?」


 エミリーが玄関から奥に声を掛ける。


「ああ!?」


 すると野太い声の返事があった。

 出て来たのは体重100kg近い巨漢である。

 鋭い目付きで頬に傷跡もあり、一見凶悪そうな面構えだ。


「おう! 村長なんて言わずに爺ちゃんと呼べと言ったろう」


「爺ちゃん?」


 エミリーが眉をひそめながら肩を竦めて言う。


「だって村長はおとうの事を息子じゃないって勘当したままだろう。だったら私やカミーユは孫ではないからね」


「またそれか! ランディはランディ、お前達はお前達じゃないか」


「それは爺ちゃんの論理。私達は違うよ」


 そこでジョナサンがおいおいと声を掛ける。

 実際、エミリー達が村長の孫だったというのも驚きだったが、父を勘当された孫達のこの醒めた態度も ジョナサンには理解出来ないものだったのだ。

 自分と祖父の関係とは大違いである。

 もし、自分がこんな態度を取ったら間違いなく鉄拳が飛んで来るであろう。

 とりあえずジョナサンはエミリーを宥めて、村長であるアンセルムにゴブリンの件を報告させなければならない。

 ジョナサンの言葉に頷いたエミリーはアンセルムにこれまでの事を報告し、ジョナサンとモーラルを紹介したのである。


「ほうほう、これは。孫達の命の恩人とはこれは歓迎せねばなりませんな」


 喜ぶアンセルムに対して口を開いたのはモーラルであった。


「それより村長、もしかしたら今夜襲撃があるかもしれません。村の地形と戦力をお聞きした上で守りを固めましょう」


「でも貴女方と孫で100匹もの奴等を撃退したら、当分は来ないんじゃ……」


 まさかという顔をするアンセルムにモーラルは顔を横に振った。


「野生のゴブリンであればそうでしょうが……あのゴブリン達は普通じゃない。何者かが人為的に作り出した魔物です。我々が油断していると思って奇襲をかけてくる可能性は大です。ゴブリン自体元々夜の方が活発化しますから」


「でも何も無かったら夜通し見張った事が無駄になるんじゃ……」


 アンセルムはモーラルにここまで言われてもまだ煮え切らないようだ。

 万が一何も無かった場合、村人から反発される事を怖れているらしい。


「そんな事を言っているようじゃますます爺ちゃんなんて言えないね。大伯父さんの方がやっぱり器が大きいって思うよ」


「う、煩い! 兄貴の事は言うなぁ!」


 アンセルムには兄が居るらしい。

 昔からずっと比較されていて大変だろうなとジョナサンは思う。

 生まれた時から常に両親と比較されて来た自分もアンセルムの気持ちが少し分った様な気がする。

 しかし底知れない力を持つ魔法使いモーラルの言う事は無視出来ない。

 自分とエミリー達は殆どモーラル1人に命を助けられたと言っても過言では無いのだ。


「僕もモーラル……さんの言う事に賛成です。これから直ぐ仮眠を取って今夜は襲撃に備えようと思います」


「お、俺も兄ちゃんと一緒に今夜起きていて村を守るぞ!」


 カミーユがジョナサンを誇らしげに眺める。

 どうやら侮蔑から完全に憧れの対象に変わったようだ。


「わ、分った。……分ったよ」


 アンセルムもとうとう根負けしたようである。

 漸く重い腰を上げたのだ。


「じゃあ、直ぐに村の連中を集めよう」


 こうして楓村の村人は門の警備に当たっているロドリグを除いて全ての人間が集められたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アンセルムの家の前には小さな広場がある。

 楓村の人間は老若男女合わせて全部で100人足らず……

 その全てが広場に集まった。


「今から大事な話をする。皆良く聞くように!」


 アンセルムは村人を前に声を張り上げた。

 彼等は集められた目的がゴブリンの件だと聞かされており、その表情には恐怖が浮かんでいた。

 凶暴なゴブリンが出現してから余程の事が無い限り、外には出ないので今の所、村人が怪我をしたとか等の被害は出て居ない。

 しかし村に来る商人達が著しく減った事。

 その理由が商人達に人食いゴブリンの犠牲者が出ている為だと聞いて戦々恐々としていたのである。


「今日集まって貰ったのはエミリーとカミーユが村に戻って来る時に襲われたゴブリンの件だ」


 アンセルムが話を切り出すと村人の間からどよめきが起こった。


「2人は100匹以上のゴブリンに襲われた。群れを指揮していたゴブリンは魔法を使ったという。だがここにいらっしゃる騎士様と魔法使い、2人の客人のおかげで生きて戻る事が出来たのだ」


 100匹のゴブリンと聞いて村人の動揺は大きくなる。


「静かに!」


 アンセルムの一喝で漸く静かになった村人だが、怯えた視線は変わらない。


「戦士ランディが不在の中では不安があるが、この2人のお客人はそれを補って余り有る実力の持ち主だ」


 アンセルムがジョナサンとモーラルを褒めちぎる。

 モーラルは平然としていたが、ジョナサンは少々居心地が悪かった。

 自分は未だ半人前なのだから。


「では孫娘のエミリーから事件の詳細の話をさせる」


 アンセルムが退き、エミリーが前に出て自分達の体験を話す。

 村人達もこれで自分達に降りかかる現実の問題として認識したようだ。

 しかし動揺は収まらない。

 どうして良いか分らないのだ。

 その時であった。

 モーラルが前に進み出た。

 そして村人を見渡すと厳かな声で言い放ったのである。


「皆さん、念の為――私は暴力は好きではありません。話し合いで済めばそれに越した事は無いと思っています。しかし相手が最初から悪意を持って襲ったり、本能のままに我々を餌として捕食する場合は話し合いなど一切通じないのです」


 モーラルの話は続く。


「相手は私達を一方的に襲って捕食するゴブリンです。もし家族を乱暴されたり殺されても笑顔で暴力反対などと言っていられますか? 戦うしかありません、私も皆さんと戦います」


 シルバープラチナの髪を持った可憐な少女にしか見えないモーラルからほとばしる凄まじい気迫。

 村人はだんだんとその激しさに圧倒されて行ったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


こちらも連載再開しました。

宜しければお読みください。


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