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第174話 「モーラル舞う!」

 背面で長剣を振るってゴブリン達を斬り捨てて行くジョナサンをちらっと見てモーラルは笑みを浮かべていた。


 ふふふ、結構やるじゃない!

 彼は騎士への階段を一歩登ったって事ね。

 これで旦那様に良い報告が出来る……後は……


 目の前のゴブリンを倒す事!

 そして1匹違う魔力波オーラを発している奴を捕まえる事も必要だ。

 モーラルが感じている違和感の正体――それはゴブリン達の群れの後ろに居たのである。


「ふふふ、ジゼル姉。貴女の技を参考に魔法を使わせてもらうよ」


 モーラルは呟くと言霊を唱え始めた。


「我が主の名において助力を要請する。水の王アリトンよ! 嘆きの川コキュートスの凍れる水にはがねの如き硬さを与えよ」


 ぴしゅっ!


 モーラルの指先から冷たい水が噴出した。

 その時であった。

 ゴブリンが数匹、モーラルに対して一度に襲い掛かって来たのである。


「はっ!」


 モーラルが軽く気合を発し鋭く指を振る。

 すると彼女の指先から噴出している水があっけなくゴブリンの首を刎ね、身体を切り裂いたのだ。

 これは魔法で水の圧力をとことん高めたものである。

 現代で言うウォータージェットを強力にした様な物だ。


「まっずい、魔力ね……旦那様とは大違いだわ。ま、無いよりはましってとこね」


 モーラルはぺろりと舌を出して苦笑した。

 どうやらゴブリンを切り裂いた時に彼女の力の源である魔力も吸収したらしい。


「さあそろそろ行くわよ」


 身体がほぐれたのか、だんだんとモーラルの動きが早くなって来た。


「しゃああああっ!」


 モーラルは気合の入った声で雄叫びをあげ、なおも襲って来るゴブリンを薙ぎ倒して行く。

 それは傍から見たらまるで優雅な舞を踊る踊り子のような華麗さだ。

 どんどん増えて行くゴブリンの死体……それは既に群れの9割以上に達していた。


「☆$#@%£*⊿Ω」 


 いきなり群れの奥から明らかにゴブリンとは違う異質の声がした。

 ゴブリン達は短く吼えると一旦、戦闘をやめて後退したのである。


「ふ~ん、あいつね」


 モーラルは興味深そうに呟く。

 それは奇妙な小鬼だった。

 一緒に居る逞しいほどのゴブリンよりは遥かに小柄だが、その身体に秘められた

 魔力は相当なものがある。


 以前、旦那様がフラン姉を助けた時に襲ったという奴の仲間……かしら?


 その時、背後のジョナサンから声が掛かる。


「こっちは大体倒したけど、残りが急に撤退したぞ……どうしてだ? あいつが親玉か?」


「そうみたいね。あら? ふふふ、生意気にも私達に攻撃魔法を使うみたいよ。言霊の詠唱が始まっているから」


 小鬼の魔力が高まって行くのを感じたモーラルがさも面白そうに笑う。


「えええっ! 何だって? 魔法を使う? って笑っている場合じゃないよ。僕は不完全ながら神聖騎士流の魔法障壁を使えるけど自分自身しか守れないんだ。エミリー達や君を守れない!」


「大丈夫! 心配無用!」


 振り返ったモーラルは赤に近い濃い鳶色の瞳でジョナサンを見詰めた。

 今のモーラルは魔族と分る瞳や肌の色を人間らしく変えている。


「私が出て直ぐにまた、氷柱が貴方達を守る為に覆うから」


「え? 何? う、うわっ! そ、空を飛んだ!?」


 そう言った瞬間、モーラルはふわりと宙に浮く。

 彼女は言霊らしい何かを唱えると氷柱が抜け落ちた場所からまた新たな氷柱が大きな音を立てて突き上がる様に生えたのである。

 そして今度はそれが伸び続け、今迄あった氷柱と合わせてジョナサン達の上部も完全に覆ってしまったのだ。


「☆$#@%£*⊿Ω」


 また小鬼から意味不明の言葉が放たれる。

 どうやら魔法が発動するらしい。


 きしゃ~!


 君の悪い叫び声と共に小鬼の頭上にいくつもの火球が出現した。

 火球は人間の頭ぐらいの大きさだ。


「火属性の魔法――火弾ファイアーブリッツの上位版ね? ふ~ん」


 宙に浮いたモーラルは腕組みをしながらじっくりと観察している。

 どうやら相手の攻撃魔法を見極めている様子であった。

 全く動じていないのである。


 きしゃ~!


 やがて叫び声と共に火球が放たれる!

 1発、2発、3発! 

 まだまだ火球は途切れない。

 それは全部で10発にも達する結構な数であり、モーラル自身とジョナサン達の居る氷柱にそれぞれ向かって行く。


「へえ! あいつ、撃つ方向の振り分けも出来るんだ? やるう!」


 音を立てて迫る火球―――それが分散されて放たれる事に一瞬驚いたモーラルではあったが、目の前に来た火球を表情を変えずにあっさり素手で弾く。

 ジョナサン達を襲った火球も氷柱に当たったが、全く力なく四散した。

 当然モーラルにも氷柱にもひとつの傷も無い。


「☆$#@%£*⊿Ω!」


 小鬼は自分が自信を持って放った渾身の攻撃魔法が全く効かない事に驚愕の表情だ。


「ふふふ、驚いているようね。嘆きの川コキュートスの凍れる水なのよ。あんたのちゃちな・・・・火なんて効かないわ」


 小鬼がモーラルに怯えの波動を発している。

 どうやらモーラルに敵わずと見て逃げる気配だ。


「ふふふ、親玉のあんたを逃がすわけ――ないでしょう?」


 モーラルがくすりと笑うと素晴らしい速度で宙を飛び、一気に小鬼に迫る。

 取り巻きのゴブリン達が小鬼を守ろうとした。


「邪魔!」


 モーラルは指先から迸る高圧水の鞭でゴブリン達を薙ぎ払う。

 たちまちゴブリン達は夥しい肉塊と化した。


束縛リスツリクシェンズ!」


 ゴブリン達を屠ったと同時にモーラルから鋭い口調で言霊が詠唱され、謎の小鬼はそのまま動けなくなったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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