第161話 「謝罪要求」
魔法女子学園屋外闘技場、午前11時……
エステルが魔力切れで倒れて一旦救護室に運んだのはルウであった。
しかしルウは攻撃魔法の上級指導官という事もあり、フランと入れ替わってまた2年C組の指導にあたっていたのである。
その後、攻撃と防御の両方の魔法発動を行うという課題を完全にクリアした者はオレリー、ジョゼフィーヌに加えて、後はルイーズの計3人のみであった。
2人に比べると魔法のスケールは見劣るものの土属性の魔法使いであるルイーズは地道に岩弾と岩壁を発動させたのである。
親友でもある彼女が課題を成功させるのを見ていたアンナはやはり凄いなあと思うのであった。
今迄親の言う通りの人生を送って来たアンナとルイーズの2人。
人の資質や持って生まれた巡り合わせによっては親の言う通りに生きる事が正しい場合もある。
ただ人が他の動物と違うのは理性があり、何かを変えたり同じ失敗をしないようにしたりと、考える力を持っている所だ。
ルイーズは魔法の発動がきっかけとはいえ自分の将来について真剣に考えた。
その結果、彼女の変わりたいという強い意思に対して魔法の発動に大切な魂の気力が上昇して良い巡り合わせに繋がっているのである。
ここまでにクラスの殆どが課題への挑戦を終え、残りは数人となっていた。
今の所、攻撃と防御の課題の両方はクリア出来なくてもエステルのようにどちらかはクリアしている者が多い。
逆に言うと属性と同様に攻撃と防御両方をこなせる魔法使いの方が稀なのである。
「次は……アンナ、やってみるか?」
ふとルウと目が合って指名されたアンナはまたアミュレットを握り直した。
先程からアンナはずっとアミュレットを握っている。
実はアンナは水属性の言霊を毎夜、少しずつ詠唱して練習はしてはいたのだ。
ただ実際にオレリーが素晴らしい詠唱をし、結果も出してしまうとつい気後れをしてしまったのである。
ルウは既にジョルジュが送ったアミュレットに気付いていたが当然何も言わなかった。
課題に挑戦するようルウに言われたアンナはとうとう覚悟を決める。
ようし! 行こう。
「アンナ・ブシェ……行きます!」
アンナが名乗りを上げ、皆の前に進み出るとルイーズの応援の声が飛んだ。
「アンナ~! 頑張って~」
あんなに大きな声を出して応援してくれてる!
アンナは思い切り手を振り返すと呼吸法を始めた。
他のクラスとは違う。
ルウ直伝の呼吸法だ。
頑張れ、私!
集中するのよ、そして魔力を高めて……
アンナの属性は水属性……つまりオレリーと一緒である。
先程の彼女の見事な詠唱は耳の中にはっきりと残っていた。
……彼女程巧くなくても良い。
アンナは自分に慎重にと、言い聞かせながらゆっくりとはっきりと詠唱を始めたのだ。
「我は知る、水を司る御使いよ。その猛る流れをもって我が王国の拳となり敵を滅せよ。ビナー・ゲブラー・サーキエール・メム・マルクト・カフ」
アンナの口が窄まり、息が吐き出された。
自分でも巧く出来た手応えがあった。
「ひゅっ!」
ぴしゅっ!
すると何という事であろう、アンナの指先から放出された高圧の水流が屋外闘技場の的を見事に捉えたのだ。
放たれた水流は結構な威力だったのであろう、的の中心が大きく陥没している。
「すご~い、アンナァ!」
ああ、ルイーズの声だ。
何、あの子ったら自分の事のように喜んでいるよ。
それに巧くいったのもジョルジュのアミュレットが応援してくれたんだ、きっと。
よ~し、もう一丁!
「アンナ・ブシェ――防御魔法も――続けて行きます!」
アンナは攻撃魔法を発動して余裕が出て、更に発動するコツをお覚えたらしい。
「我は知る、水を司る御使いよ。その自在な流れをもって敵から我が王国を守れ。ビナー・ゲブラー・サーキエール・メム・マルクト・ザイン」
今度はオレリーに比べるとだいぶ勢いは落ちるが、アンナの周りを水流が吹き出て見事に囲んだのである。
「やれた! 私はやれたのよ!」
魔法を解除してから思わず声を出したアンナ。
それを優しく見守りながらルウが言う。
「そうだ、アンナ。どんな事があっても諦めるなよ。お前は他にも隠れた魔法の才能がある。それが開花すれば素晴らしい魔法使いになれる筈さ」
「ほ、本当ですか? ルウ先生」
思わず問い返すアンナにルウは俺が保証するよと頷いたのである。
「但し、今回の魔法発動のように努力を絶やさぬようにして欲しいんだ」
ルウは片目を瞑って笑う。
「オレリーやジョゼも結構な努力をしている。お前もそんな努力をして来たのだろう」
「そ、そんなに大した事は……」
アンナは謙遜するが、やはり詠唱の練習を続けてよかったと顔に表れていた。
努力は形はどうであれ何らかの形で報われる事をアンナは今実感していたのである。
「ははは。謙遜するな、アンナ。皆もよく聞いてくれ。魔法も学問や他の事と同様に努力に比例する。但し魔法の場合は皆が全て同じ才能では無い。どうしても得意、不得意があるんだ」
ルウは努力は大事だが基礎を学んだ後の魔法使いこそ自分の得意分野を探して努力するべきだと強調する。
「それが個性だ。個性を見つけるのはなかなか大変だが逆にそれを楽しむくらいの気持ちで取り組んでくれ。最初は好きなもの、得意と感じる物からで良い。当然俺達教師は全力でバックアップする。見つけたらしめたものだ、それがその魔法の専門家への第一歩だからな」
その時に手を挙げたのがルイーズである。
「は~い、ルウ先生! 私、目標が出来たんです。応援して貰えますよね!」
「おう、ルイーズ。まあ任せろ!」
そこからはクラスの生徒達が堰を切ったようにルウに話しかけて来た。
ルウは後で個別に相談に乗る事を約束し、授業を再開したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園本校舎地下1階学生食堂、午後12時30分……
2年C組は全員が1つのテーブルに陣取って居た。
先程のルウの授業で一気に距離が縮まり、今迄録に話した事の無い者同士も忌憚の無い意見を交わすようになり、一気に打ち解けたのである。
これまでの反動なのか、食事をしながら凄い盛り上がり様である。
ここでルウかフランが居れば彼女達にはブレーキがかかっていただろう。
しかし2人が居ない状況では比較的冷静なエステルやオレリーでさえその盛り上がりに水を差すような真似は出来なかったのである。
しかしそれに対してとうとう我慢出来ない者も出て来るのだ。
「そこの落ちこぼれ達、煩いわ! 静かにしなさいよ!」
一瞬食堂が沈黙に包まれ、2年C組の生徒達の視線は先程の言葉を発した人物に集中した。
2年C組は全部で30人、その人物はその全員の強い視線を受けても身動ぎひとつしないで食事を続けていたのである。
それは茶色の長い髪をした鳶色の瞳を持った長身の少女、2年A組の学級委員長を務める学園でも有名な優等生マノン・カルリエであった。
……確かに悪いのは2年C組の面々である。
しかしマノンの言い方には棘があり、それは2年C組の生徒にとっては触れてはいけない事柄である。
2年C組の中には救護室から戻ったばかりのエステルも混じっていた。
やがてエステルは立ち上がり、マノンの傍に歩いて行く。
「マノン、今の言い方は何?」
「…………」
マノンはエステルを無視して食事を続けている。
「確かに私達は騒ぎ過ぎたわ、謝罪する。だから貴女も謝ってくれない? 私達のクラスには学年の首席も居るのよ」
エステルがそう言うとマノンはやっと食事をするのを中断してまるで虫でも見るようにエステルを見た。
「煩いわね。学年首席と言っても所詮、平民の女でしょう。何故そんなのが私達の学園に居るの?」
その瞬間であった。
乾いた音が響き渡った。
マノンは椅子から転げ落ち、倒れ伏してしまったのである。
エステルの手がマノンの頬に伸び、思い切り張っていたのだ。
「馬鹿ね、貴女がそんな考えなんて。私達の祖バートクリードと11人の円卓騎士達も元々は平民の冒険者なのよ。彼等を貶めるなんて許せないわ」
エステルはマノンにぴしゃりとそう言い放っていたのであった。
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