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第159話 「成長」

「クロティルド先生、だから2年C組にしたのよ。ただ万が一何かあったら当事者だけの処罰で済むというわけにはいかないわ。学園全体が何らかのペナルティを受けるでしょうね」


 理事長であるアデライド・ドゥメールにそう言われたクロティルド・ボードリエは嘆息した。

 そして同時にアデライドの判断を聞いて、愚かにも食ってかかった自分がとても恥ずかしくなったのである。


「理事長、今から大学のように条件付きで受け入れは出来ないのですか? 魔法発動中の事故・・はつきものですよ」


 双子の妹であるルネ・ボワデフルはそのオッドアイの目で、じっとアデライドを見詰めて言う。


「そうね、いくら国賓と言っても所詮は学生。何かあったら学園、そしてヴァレンタイン王国が一方的に責任を負うなんて事は馬鹿げているわ。だけどこれは国王陛下がお決めになった事なの。もう変更は出来ないわ。あちらがとんでもない失策を犯すか、自ら条件をつけると言い出さない限りはね」


 アデライドの言葉を聞いた双子の姉カサンドラが軽く笑う。


「では理事長。私はそういうつもりは全く無いですけど、そんな面倒な事に関わりたくないから教師を辞めるという選択肢も不可能ですね」


 アデライドは当然とばかりに頷く。


「そうね、これも国から命令として来ているわ。今回の件に関しては、しかるべき理由がなければ辞任・・は認めないと。勝手に辞めたら、それこそ国から罰せられるから」


 辞めるという逃げ場が無い!

 何という横暴な話であろうか。

 一部の教師達に国への非難と動揺の声があがった。

 その時である。


 ぱんぱんぱん!


 乾いた独特の音が鳴り響く。

 教頭のケルトゥリが手を打ち鳴らすあの音である。

 私語を交わしていた教師達は瞬く間に静かになった。


 さすが本家!

 年季が違うわね。


 その様子を見ていたフランは少し可笑しくなったのである。

 しかしそんなフランの思いに反してケルトゥリの口から出た言葉はとても厳しいものであった。


「静かに! こんな時こそ私達は団結しなくてはなりません。異邦人アールヴの私でさえ覚悟を決めているのですよ。しっかりしなさい」


 ケルトゥリはそう言うとアデライドに向き直る。


「理事長! 教員を含めて学園の職員一同でしっかりこの2年間を乗り切りましょう。やり遂げれば学園の格は勿論、個々の責任感と資質もあがりましょう」


 ケルトゥリは鋭い眼差しをアデライドに投げ掛ける。

 まるで猛禽類の目だ。


 ははぁ! この目が伯父様の仰っていた冒険者時代のケリーの2つ名の由来ね。

 確かに『はやぶさ』のような瞳だわ。


 アデライドは伯父の言っていた事に納得すると改めて大きな声で呼び掛けた。


「ありがとう! ケルトゥリ教頭。それでは貴女とシンディ先生。そして2年C組の担任と副担任の、フランシスカ先生、ルウ先生の以上4名を中心に、この度の王女の留学に対応して行きます」


 こうして魔法女子学園はロドニアの王女リーリャ・アレフィエフを受け入れる準備を始めるのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園2年C組教室月曜日午前9時……


「起立! 礼!」


 学級委員長のエステル・ルジュヌの声で朝の挨拶が終わると早速、授業が始まった。

 早速、屋外闘技場に移動して攻撃・防御の魔法習得に向けて訓練するのである。

 午前中、召喚魔法の為の祭儀教室は他のクラスが使用するのでC組は先週と入れ代わりなのだ。


「今日こそは!」


 大きな決意を胸に秘めたアンナ・ブシェは朝から気合が入っている。

 先週は何とか使い魔の『ジョルジュ』召喚に成功したのだ。

 既に親友のルイーズは親に決められた自らの運命に逆らって王家の役所である『工務省』入省を目指している。


 私も頑張る!


 アンナは首から提げたアミュレットのを握り締め、あの日の事を回想した。

 これはあのジョルジュ・ドゥメールからの贈り物である。


 ジョルジュが差し出したのは綺麗な菫青石アイオライトを使った古めかしいアミュレットであった。

 ジョルジュはこれをアンナにプレゼントしたいと言って来たのである。

 勿論、アンナは年頃の男性からそういったプレゼント・・・・・・・・・・を受け取るのは全く初めてだ。

 嬉しくないわけがない。

 しかし自分はいきなりジョルジュからこのような物を貰う理由が無いのだ。

 クラスの友人の中には貰える物は黙って貰っておけば良いという不節操な考えの持ち主も居たが、彼女には到底無理だったのである。


「実は……」


 ジョルジュは魔法鑑定士になりたくて勉強と実地訓練を始めたと言うのだ。

 そして生まれて初めて鑑定出来た物(不完全な鑑定ではあったが)がこのアミュレットだと恥ずかしそうに笑ったのだ。


「君と知り合えて俺は勇気を貰えている。だからこの記念のアミュレットを是非受け取って欲しいんだ」


 照れながらもジョルジュは真剣だった。

 アンナはジョルジュの言った言葉が心に響く。

 

 そんな大事な物を……

 でも嬉しい! 本当に嬉しいわ。

 ありがとう、ジョルジュ。


 そして気がつくとおずおずと差し出す彼の手を確りと握る自分が居たのである。

 アンナはその時、自分のジョルジュに対する気持ちを改めて実感していたのだ。


 もう父に何を言われても関係ないわ。

 この気持ち……貴方が居るから私も頑張ろうって気持ちになれる。

 ……きっと私、貴方が好きなんだ。


 アンナはジョルジュの手をもう1回確りと握り直して、2人で帰ったのであった。


 帰宅するとアンナは早速、菫青石アイオライトについて調べてみる。

 彼女が見た古文書にはこう書いてあった。

 菫青石アイオライトは、理解と解放を意味する宝石であり、周囲の期待から自由になり、人間関係の不和を解消し本来の自分を表現する効果効能がある。

 

 ……そして石の言葉は『初めての愛』


 このアミュレットをジョルジュが自分を少しでも勇気付ける為に贈ってくれたものだと思うとアンナは素直に嬉しかった。

 ……そして石言葉に彼の自分への想いが込められているとしたら……

 どきどきした。

 胸が苦しい……やはり私は彼の事が好きなんだ。


 よしっ! ――アンナはもう1回アミュレットを握り締めて闘技場に向ったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園屋外闘技場、月曜日午前9時30分……


 クラスの皆が目を見張っている。

 オレリーの言霊の詠唱はそれはとても見事なものであった。


「我は知る、水を司る御使いよ。その猛る流れをもって我が王国の拳となり敵を滅せよ。ビナー・ゲブラー・サーキエール・メム・マルクト・カフ」


 朗々とした言葉がはっきり唱えられると周囲に清々しい水の気配が満ちて行ったのだ。


「はっ!」


 短い気合がオレリーの口から発せられると彼女の指先から細いが相当な速さの水流が発射された。

 そして放たれた水流はあっという間には的に命中し、鋭い音を立てた。

 何と的を貫通したようである。

 初心者が使うにしては凄まじい破壊力であった。

 間を置かずにオレリーは水の壁の魔法も詠唱する。


「我は知る、水を司る御使いよ。その自在な流れをもって敵から我が王国を守れ。ビナー・ゲブラー・サーキエール・メム・マルクト・ザイン」


 するとオレリーの周りにあっという間に太い水流が何本も立上り、彼女を守るかの如く囲んだのである。


 こうして授業を開始して直ぐ実地訓練に挑戦したオレリー・ボウがこの攻撃・防御の魔法の課題を軽くクリアしたどころか、初心者と思えないその威力に皆が呆然としたのであった。


 余りにも見事すぎて誰も次の訓練に名乗りを上げないのでフランとルウに許可を得てから、微笑を浮かべたジョゼフィーヌが一礼して皆の前に進み出た。

 オレリー同様、既に精霊の祝福と加護を受けているジョゼフィーヌは息を吸い込んで吐き出すとこれまた朗々と見事な声で言霊を詠唱する。

 相変わらずクラスの皆は目を丸くしたままで声も出ない。


 暫くすると涼やかな魔力波が周囲に満ちた中でジョゼフィーヌの風弾ウインドブリッツが見事に放たれたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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