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第158話 「隼」

 魔法女子学園教頭室月曜日午前6時30分……


 魔法女子学園教頭ケルトゥリ・エイルトヴァーラはいつもより早く出勤して部屋の掃除をしていた。

 学園では掃除専門のスタッフを雇ってはいるが、ケルトゥリは自分の部屋には入れさせず自ら掃除を行う。

 アールヴは元々綺麗好きなのと彼女は几帳面な性格から隅々まで掃除をきっちりとしないと収まらない性質たちなのである。

 そんな彼女の部屋に近付いてくる人間が4人……

 ケルトゥリは魔力波からそれが誰だか分る。

 3人は直ぐ分った。

 この学園の当事者だからだ。

 しかし、残りの1人は……まさか?


 ドアがノックされ理事長のアデライドの声がする。


「ケリー、居る? もう出勤しているって聞いたけど」


「は、はい! 今開けます」


 ケルトゥリが慌ててドアを開けると廊下には彼女の予想通り4人の人物が立っていた。

 そのうちの1人がいかにも親しげに声を掛ける。


「ははは! 久しいな」


「これは大公様、ご無沙汰しております」


「昔通りで良い」


 そのひと言でケルトゥリは冒険者時代の記憶が甦り、懐かしさが込み上げて来たのである。


「では! グランドマスター、お久し振りでございます」


 そのケルトゥリのひと言でグランドマスター=エドモン・ドゥメールは満足そうに頷いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園教頭室午前7時00分……


 エドモン、そしてアデライドからの話がどうやら終わったらしい。

 例のロドニアからの留学生である姫の件のようだ。

 部屋には話を聞いていたケルトゥリは勿論、ルウとフランも居る。


「話はよく分りました。この学園の当事者としてそして大恩あるグランドマスターと理事長の為、不肖ながらこのエイルトヴァーラ、粉骨砕身頑張らせていただきます」


 ケルトゥリの言葉を聞いたルウが笑いを堪えている。

 彼の様子に気付いたケルトゥリが柳眉を逆立てた。


「な、何よ! 文句があるの? ルウ?」


「ああ。俺、この前から思っていたけど、そんな言葉遣いケリーらしくないって」


「ははははは、成る程。それはルウの言う通りかもしれんな」


 それを聞いたエドモンが豪快に笑った。


「もう! グランドマスターまで。ルウの言う事を真に受けられて!」


「ははは、儂はお前がファルクンと呼ばれていた頃の荒々しさ、ぎらぎらした目が忘れられなくてな。今のお前はかつて儂が惚れ込んだ野生の気配が消えておる。残念な事だ」


ファルクン……」


 エドモンに冒険者時代の2つ名を呼ばれたケルトゥリは遠い目をして呟いた。

 ケルトゥリがアールヴの里から出てこの国の第2の都市バートランドに流れついた頃、生活に困っていた彼女をたまたま冒険者ギルドで見初めて拾い上げ、面倒を見たのがエドモンなのである。

 冒険者として才を磨き、名を上げた後にヴァレンタイン魔法大学に入学したケルトゥリ。

 魔法大学を首席で卒業した際にこの学園に就職した時も、伯父であるエドモンから魔法女子学園理事長のアデライドに話が行っていたのがきっかけで、彼女の目に留まったのをケルトゥリは後で人伝に聞いていたのだ。

 アールヴは本来人間とは距離を置いている。

 はっきり言って彼等は人間が好きではない。

 しかしかつてのシュルヴェステル・エイルトヴァーラとこの国を建てた英雄バートクリードの友情のように共感や恩義を感じればそれに殉ずる一途な所もあるのだ。


「その2つ名……懐かしい響きです。私はそんなに変わりましたか?」


「ああ、変わったな。その分優しく、とても美しくなったがな」


 そうエドモンに言われてケルトゥリは、ほんのりと頬を赧めた。


「儂がもう少し若ければお前を絶対に妾にしている所だ。ふん、まあ良い。これ以上詳しい事はルウに聞くといいだろう。後は頼むぞ」


 ―――魔法女子学園正門前午前7時30分


 数台の馬車と数十人の騎士、そして同じくらいの冒険者がエドモンの帰りを待っていた。

 これからエドモンはバートランドに帰還するのである。


「伯父様、お気をつけて!」


 アデライドの声が飛ぶ。


「ははは、この儂には大袈裟過ぎる護衛の数だが、周りの奴等が聞かないのでな」


 エドモンは苦笑してから傍らのルウを一瞥する。

 そこに2人の男が歩いて来た。

 1人は長い金髪をなびかせた碧眼のルウ以上の背丈をしたがっちりとした大男の騎士。

 もう1人は栗色の短い髪をした中肉中背の頬に傷のある鋭い眼をした剣士の風体をした男である。


「この2人は儂の右腕と左腕だ」


 エドモンに紹介された2人のうち、まず大柄な金髪の騎士が右手を差し出す。


「バートランド騎士団団長ナタン・アルベリクだ。宜しくな」


 もう1人の栗色の髪の男も左手を出す。


「バートランド冒険者ギルドマスター、クライヴ・バルバーニーだ」


 2人は以前、ジゼルの父レオナール・カルパンティエ公爵が悪戯したようにて何気に握手する振りをして手に結構な力を入れて握って来た。

 しかしルウは平然としており、逆に2人の表情に苦痛の色が走る。

 暫くして手を離した2人とも吃驚したように僅かに赤くなった自分の手とルウの顔を交互に見た。


「ふ、やるじゃないか。ジェロームから聞いているのとは大違いだ」


 ナタン・アルベリクが手を擦りながら、顔をしかめる。

 ジェロームとはジゼルの兄、ジェローム・カルパンティエであろう。

 この2人とジェロームは親交があるらしい。


「そうだな、ひ弱な魔法使いと聞いていたが、全然真逆だ」


 クライヴ・バルバーニーも相槌を打ち、頷いた。

 そんな2人に対してルウは微笑を絶やさずこう切り返したのであった。


「今後とも宜しく」


 2人はルウに挨拶をした後、意味ありげににやりと笑う。

 そしてエドモンを促すとバートランドに向けて出発したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園職員用会議室、午前8時00分……


「ではこれから職員会議を始めます。今日は通常の連絡以外に重要な連絡がありますので理事長にも同席していただいています」


 進行役のケルトゥリの声が響き渡り、毎週月曜日恒例の職員会議が始まった。

 いくつかの通常連絡が終了後、ケルトゥリがアデライドを指名し、彼女は立ち上がって職員を見渡すと説明を始める。


「皆さん、数週間後に隣国ロドニアから国王ボリス・アレフィエフ陛下の末子で3女であらせられるリーリャ様が当学園に留学されます」


 アデライドがそう言った瞬間、職員達からもどよめきが起こる。

 冷静なのは先程話をしていた面々と、過去にヴァレンタイン王家の要人の護衛をしていたシンディ・ライアンくらいである。


「数週間後というのは警備の関係上、直前にならないとロドニア王家の方で明かす事が出来ないからです。下手をすれば数日前にこちらに連絡が来る事となっています。とりあえず生徒への発表は明後日以降を考えています」


 ここでシンディが挙手をする。


「理事長、リーリャ王女の所属クラスは決まっているのですか?」


「シンディ先生。要人警護の経験のある貴女にもぜひ協力して貰います。彼女は今2年生ですから、2年C組を考えています」


 魔法女子学園は基本A組が成績上位な者のみ、B組が貴族中心、そしてC組は成績や身分の様々な者達で構成されている。

 それを聞いた2年A組担当のクロティルド・ボードリエは当然不満を露にした。


「理事長! それ、おかしくないですか リーリャ姫は類稀なる魔法の才能の持ち主とか……何故、私の担当するA組ではないのでしょうか?」


 プライドを刺激されたのか半分食ってかかるクロティルドをアデライドは優しく諭した。


「クロティルド先生、貴女の気持ちは分るけど万が一何かあった場合、責任を取らされるのよ、それでも良いの?」


「せ、責任……ですか!?」


 いきなり厳しく真剣な話になって戸惑うクロティルド。


「ええ、下手をしたら『死刑』ね」


 アデライドにそう言われたクロティルドは顔面蒼白になり俯いてしまったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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