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第148話 「未来への決意」

「良いか、お前達集まってくれ」


 ルウがフラン達に声を掛ける。

 フランには不安があるのだろうが、ルウを信じたいのとモーラルが全く動じていないので、泣き言を言う訳にはいかないと決心したようだ。

 他の妻達はルウを不安げに見詰めている。


「ここは『高貴なる4界王』に力を借りて作った俺の異界だから、危険は殆ど無い。それに俺のいろいろな制御や意向も反映できる。だからお前達の魔法や体術の訓練には持って来いの場所だ。まあ初めての場所だから無理もないが、そんなに怖いか?」


 ルウの問いにフランは首を振った。

 そこにモーラルからフラン以外の妻へ発破がかかる。


貴女方あなたがたは旦那様を信じているのでしょう。信じていなければまだ遅くはありません。妻をおやめになっていただき、お帰りになって結構です」


 モーラルにぴしりと言われてジゼルの眉間に皺が寄った。


「にゃにおう! 旦那様が作られた場所なのに私が怖いわけないじゃないか! こ、これは武者震いだ、誰が帰るか!」


「そ、そうだよ! さっきの『人外の男』だって旦那様が従えている存在だろう。問題無い! ボクは絶対に帰らないよ」


 大きな声で叫んだジゼルに同調してナディアも帰還を拒否する。

 ナディアには悪魔に対するトラウマがあるが、戦うのならいずれ克服しなければならない道なのだ。

 ジゼルとナディアの言葉を聞いてオレリーも頷く。


「私も先輩方と一緒です。絶対に帰りません、ちょっと吃驚しただけで直ぐ慣れました」


 最後に締め括ったのはジョゼフィーヌである。


「私は誰が何と言おうとルウ・ブランデルの妻ですわ。旦那様を放り出して帰る妻なんて聞いた事がありません。そんな者は妻失格ですわ」


 ルウは妻達の声を聞き終わると彼女達を慈愛の満ちた眼差しで眺め、次々と抱き締めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『高貴なる4界王』とはこの世界を構成する4大元素を司る悪魔の王達だとルウはフラン達に説明した。

 先程現れた兜を被った男は悪魔バルバトスであり、彼と共に現れる『高貴なる4界王』の力を受け、造られたこの異界は他者の干渉を防ぎ術者の意思が反映される、異界の中でも特にランクの高い場所なのであると。


「悪魔? 世界の4大元素を司るのが? 旦那様、一体どういう事?」


 ナディアの疑問は尤もである。

 教会の教えでは世界の4大元素を司るのは精霊達であるからだ。


「確かに4大精霊とはいわばこの世界を形成している存在だ。だが実はその上位に位置する者達が居るのさ」


 火の精霊である火蜥蜴サラマンダー、風の精霊であるシルフ、水の精霊であるウンディーネ、そして土の精霊であるノーミード。

 その上に上位精霊と呼ばれる者達が存在する。

『高貴なる4界王』はその上位精霊にあたるという。

 彼等は元々、殆どが天界の御使いだ。

 堕天使となった彼等は悪魔として怖れられるが、同時に上位の精霊でもあるのだ。

 ルウは元々4大精霊と自由に意思の交換が出来て、その力を引き出す事が可能である。

 当然、4大精霊に依頼すればこの異界に近い物を造りだす事は出来るらしい。

 だが、異界自体のレベルの問題、そして造るのに要する時間と魔力量がこの異界を造った以上に掛かるのであれば熟考の上で彼等に命じたとルウは説明した。

 加えて『高貴なる4界王』を使役すれば、彼等の忠誠心を高められる利点もあると。


「だ、旦那様は……あのヴィネもそうだけど悪魔達を使役する気なの?」


 ナディアの声は震えていた。

 そんな彼女を勇気づけるようにルウは言う。 


「ああ、かつての魔法王ルイ・サロモンが使役した72柱の悪魔のようにな。それがソウェルでもあった爺ちゃんの教えでもある。俺達がどんなに避けようとしても彼等は存在するし、相手をまず知る事が相手を理解する為の第1歩だ。人間の全てが彼等と共存できれば良いが、彼等の怖ろしい風貌、そして性格を考えたらほぼ無理かもしれない。ただ俺は魔法を使う者の権利に伴う『義務』として彼等と共存しようと考えているんだよ」


「魔法を使う者の権利……そして義務」


 いつの間にかナディアとの会話を妻達全員が聞いている。


「ああ、そうさ。この世には魔法の発動も含めて彼等の手を借りなければ解決しない事もゼロではない。この世に意味も無く存在している者は居ないし、それに悪魔と言っても現在の価値観との違いから、神や御使いという立ち位置よりあっけなく悪魔に貶められた存在も多いんだ。結局は我々との価値観の比較やその場の状況から彼等と折り合うか、そうでないかの問題なんだよ」


 それを聞いて、じっと考えていたフランが頷いた。


「旦那様、国と国、そして人種間に置き換えれば良く分るわ。少なくとも相手を知らなければ折り合いなんてつかないわ」


「フランの言う通りさ。そして価値観や状況が違えば、主義主張もあっけなく変わるし、案件もいつも巧く行くかどうかも分らない。教会の教えである『秩序と調和』は確かに理想の概念ではあるが、実際は『混沌と不和』も常に同時に存在するものなんだ」


 でもとナディアが切なそうな顔をする。


「悪魔はボクを害そうとしたよ」


「……ナディア、お前があの時怖かったのは十分理解できる。しかしこの世界は食物連鎖からなっているのは分るな?」


「食物連鎖?」


「ああ、生きとし生けるもの全てが連なるこの世界の仕組みさ。俺達が普段食事の前に行う黙祷を考えれば良い」


 ルウがそう言うとナディアはあっと声に出した。

 何かに気がついたようだ。


「ボクの魂は彼等の食べ物のひとつだったんだね……だけどやはり悪魔は……」


 その時であった。

 ナディアの脳裏を何者かの存在がフラッシュバックした。


 何? この気配……

 清々しさと禍々しさが一緒にある?

 だけど……貴方もボクを助けてくれたの?

 12枚の美しい羽を持つ……貴方はもしや……悪魔?


 眩暈を起したナディアがルウに抱かかえられ、彼女はか細い声で呟いた。


「あは……あの奈落の底プロフォンドゥムで旦那様以外にあの方が居たんだ……」


 ルウは黙って頷いた。

 記憶の封印が一瞬解けてナディアにルシフェルの姿が垣間見えたのである。


「ボク……あの方にも助けられたんだ……そうか、悪魔がボクを助けてくれたのか……ふふふ、御免ね。旦那様の言う事がようやく分ったよ」


 弱々しく笑うナディアをルウは確り抱き締めた。


「怖かったのは無理もない。理屈はその通りでもお前達は皆、普通の女の子なんだ。でもいざとなったら俺が居る。モーラルも居る。それにこれだけは言っておくが、どんな理由があろうとも俺は家族を害する邪なこころを持った奴など容赦しない! お前達をしっかり守るからな」


「ありがとう、旦那様。でもボクも確りするよ。ボクだけじゃない。いずれ生まれてくる旦那様とボクの子やみんなの子供達も守らなきゃいけないものね」


 旦那様とボクの子……ナディアはもう1度そう言ってルウの腕の中で真っ赤になって俯いたのである。

 その様子を見ていたフランも何かを決意したようだ。

 いつもより一層大きな音をたてて手を叩くフランに視線が集中する。


「皆、良い? いずれは私達の子供が生まれるわ。愛する子供達を守る為にも強くならなきゃ! 身もこころもね」


「おお、フラン姉! 良い事を言う。実は私もそれを見越して旦那様に訓練を申し出たのだ」


 得意満面に言うジゼルにルウは苦笑しながらも大きな幸せに包まれていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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