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第147話 「魔族の妻」

 ドゥメール伯爵邸、日曜日午前10時……


 フランの部屋でルウと妻たちの家族会議が行われていた。

 主な買い物を終えた後、誰が財布の管理をするかという話になったのだ。

 まずは各人の財産の提示から始まった。

 普通は個人資産はそれぞれが持つのだが、ルウがぽんと所持金の金貨全て約1,700枚を報告したのを皮切りに皆が抵抗無く、申告して行ったのである。

 1番多かったのはやはりフランで金貨10,000枚、1番所持金が少ないオレリーは金貨20枚程度であった。

 しかしさすが妻の殆どが貴族の令嬢達な事もあって結局、持参金も含め合計で金貨30,000枚近くにもなったのである。

 ただこれだけの金額も屋敷の維持費用や使用人の給料も考えると支出次第であっという間に減ってしまう事をフランは知っていた。

 何せ今、住んでいる屋敷よりも新居は相当広いのである。

 問題は金の管理を誰が行うかだ。

 ルウに少しはやって貰うとしても妻側から最低1名は決めたいと皆の意見は一致した。


「ボクは家計管理なら普段から慣れているオレリーが適任だと思うけどね」


 ナディアがオレリーを推したが、彼女は蒼くなって首を横に振った。


「無理です、そんな大金! 桁が違いますから。でもお手伝いだけはさせてください」


 彼女が強く辞退すると今度はジゼルがフランを推薦した。

 しかし、フランも苦笑して首を横に振った。


「私も母同様に魔法の事しか頭になかったから絶対無理ね……頑張って、これから勉強ってところかしら」


 ではどうしたらという皆の思いが集まった瞬間であった。

 ジョゼフィーヌがこう叫んだのである。


「あの……わたくしはモーラルちゃんが宜しいかと思います!」


「え? 私……ですか?」


 いつもの冷静なモーラルが戸惑っているのを見て皆が微笑んでいた。

 そんなモーラルを推した理由をジョゼフィーヌが強調する。


「大金を持っていても決して動じず、仮に街でならず者が絡んでも軽く返り討ちにして、この王都の勝手も良く知っている―――全く問題無いと思いますわ」


「でも私……主婦なんてやった事は! どうしたら良いのでしょう?」


 なおも混乱するモーラルにフランが優しく言う。


「じゃあこうしましょう、私とオレリーがフォローします。それに皆が少しでも早く慣れて貴女の負担を軽くするように努力するから。絶対に貴女1人にこの仕事を押し付けたりしないわ、約束する。でもね、ひとつだけ言わせて貰うと貴女は皆と同じで『立派な主婦で奥様』なんだから胸を張って良いのよ」


「ええっ!? 奥様なんて! でもフラン! 私なんか、ねぇ、そうですよね? ルウ!」


 慌てふためくモーラルにフランが悪戯っぽく笑いながらも今度は、はっきりと言う。


「ほら、また『ルウ様』なんて呼んで。旦那様と呼んでと言っているのに。ねぇ、旦那様からもモーラルちゃんに言ってあげて下さいな」


 フランに促されてルウがモーラルに笑顔を向けた。


「そうだぞ、モーラル。俺の事はそう呼んで良いんだ。だから呼んでみろ、たった今。構わないから」


 ルウにそう言われてもモーラルはもじもじして言葉を発する事が出来ない。

 そんなモーラルに対してフランが自分も含めた妻達の、モーラルへの思いを伝えたのだ。


「皆には貴女が魔族だって事はとっくに伝えたし、貴女の生い立ちと旦那様との出会いも全て伝えたわ。だけど誰も貴女をどうのこうの言う人は居なかったの、それどころか皆、貴女が大好きなんだって!」


 それを聞いたモーラルは感極まって、目に涙が一杯溜まっている。


 涙ぐむモーラルにフランが、ジゼルが、ナディアが、オレリーが、そしてジョゼフィーヌが一斉に「ほらぁ!」とルウの事を皆で決めた名称で早く呼ぶように促したのである。

 彼女達の大きな声に後押しされてモーラルの唇が僅かに動く。

 ルウも大きく頷き、両手を広げる。


「だ、旦那様ぁ!」


 シルバープラチナの髪をなびかせて小柄なモーラルの身体がルウに向って流星のように動いて飛び込む。

 ルウはがっちりと受け止めて泣きじゃくるモーラルの背中を優しく擦っていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ドゥメール伯爵邸、日曜日午後1時……


 早めの昼食を摂った後、ルウ達は屋敷の中のフランの部屋に集まっていた。

 朝早くジーモンとの訓練を見たジゼルが居ても立ってもおられず自分も含めた妻達の訓練の実施をルウに申し入れたのである。

 ただモーラルは別格としても、戦闘能力ではジゼルのみが体力と魔法で突出しており、それにフランとナディアが魔法で何とか合格点でギリギリで続き、オレリーとジョゼフィーヌは基礎体力も魔力もまだまだ足りない状況だった。

 学園の授業もそうだが、魔法も体術も地道な努力の継続こそが結果に結びつく。

 問題はその努力を行う為の方法である。


「旦那様、何か皆を鍛える良い方法は無いだろうか?」


 ジゼルが顔を顰めて縋るような表情をした。


「あるぞ、問題無い」


「流石は旦那様!」「どんな方法?」「早くやってみたい」


 妻達の何人かから声が掛かる。

 そこでぱんぱんぱんとフランの手が叩かれる。


「旦那様の指示をしっかり聞きましょう。皆良い?」


「はいっ!」「了解!」「フラン姉分ったわ!」


 ルウは妻達を見渡して言う。


「これから皆には俺が作った『異界』に行って訓練して貰う」


「異界!?」「どんな所ですか?」「そこでどんな訓練を!?」


 そこで再び、ぱんぱんぱんとフランの手が叩かれた。


「ほらぁ! 皆、さっき分ったって言ったでしょう! ちゃんと聞いて!」


「はぁ~い」「御免なさい、フラン姉」「反省!」


 ルウはフランにありがとうと笑いかけ、また妻達にも穏やかな表情を見せる。


 「これから召喚魔法を発動する、皆驚くなよ」


 そして片手を大きく挙げると低い声である人外の者の名を呼ぶ。


「バルバトス! 4界王へ使いせよ!」


 部屋の魔力が高まり、ぴりぴりと魔力波が皆の肌を刺した。

 何者かが現れるのだ!

 妻達は学園で習う召喚魔法と余りに違う光景に驚きを隠せない。

 そんな中、空間が割れるといきなり兜を被った壮年の男が空中に現れ、優雅に一礼したのだ。

 男に向ってルウは4界の王の名を呼び、その要望を告げた。


「我は『高貴なる4界王』の偉大な力を欲する者なり! ――風の王オリエンス、水の王アリトン、火の王パイモン、そして土の王アマイモン。さあ我にこの世の真理を説き、仮初かりそめの世界を与えるが良い」


 悪魔バルバトスは、また黙って一礼すると煙のように消え去った。

 その瞬間であった。

 ルウ達の周囲の景色が一変し、何も無い空間に変わっていたのだ。


「ええっ!?」「ここは?」「ど、どこ?」


 フランの部屋に居た筈がいきなり見覚えのない場所になっているのだから妻達の反応も仕方が無いのであろう。

 そのような中でモーラルだけは冷静である。


「旦那様が何故『高貴なる4界王』の力を借りてこのような異界を造ったのか分りました」


「流石、モーラルだ。では早速訓練にかかろうか?」


 ルウは不敵に笑うと妻達に準備をするように呼びかけるのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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