表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/1391

第143話 「大公の御眼鏡」

「ここか? 英雄亭ってのは。 名前に似合わずしけた・・・店じゃあないか」


 エドモンが席を外して奥でダレンと話し込んでいる時であった。

 人間族の男の冒険者らしい一団がドアを乱暴に開けて店に入って来たのである。

 今、ルウ達の他に英雄亭に客は居なかった。

 ニーナが直ぐに応対する。

 こういった手合いには慣れているらしく彼女は全く動じていない。


「お客さん、しけた店で悪かったね。嫌なら他に行ってくれよぉ」


「何だと餓鬼め。でもよく見りゃ俺達の相手が出来るくらいおっぱいとケツは充分あるな」


 リーダーらしい髭面の巨漢の男が下品に笑うとニーナに飛びかかり、抱きかかえた。

 残りの7人はそれを見て面白そうに笑う。

 やがてそのうちの1人がフラン達に気付き、席までやって来た。

 その男の年はまだ若く20代半ばらしい。

 ただ革鎧から覗く腕は傷だらけで一応それなりの修羅場は潜っているらしかった。


「おほう! 可愛い姉ちゃん揃いじゃないか? こっちに来て酌しろよ。その後はひと晩付き合って貰おうか」


「くっ、 無礼者め!」


 ジゼルがその冒険者に怒りの眼を向けて立ち上がろうとするのをルウが手で制した。


「ははぁ、何が無礼者だ。お貴族様の姉ちゃんかい。笑わせるな……」


 男が言葉を言い終わらない、その瞬間であった。

 その冒険者の男の顔面が陥没するくらいへこみ、その衝撃で男は壁まで吹っ飛んだ。

 ルウが神速の動きで拳を放ったのである。 


「おい、そこの汚いの。大人しくニーナからその手を離せ。そうしないとこいつ・・・みたいになる」

 

「ああっ! アキムが!」「てめぇ!」「殺してやる」


 仲間をやられた冒険者達は騒ぎ立てた。

 目に殺気が篭っている。

 しかしルウは抑揚の無い声でもう1度繰り返した。


「3度は言わない、ニーナを放せ。さもなくば……」


「さもなくば……何だよ」


 髭面の巨漢男はにやにや笑いながらニーナの胸を揉みしだいており、ニーナは歯を食いしばっていた。


「こうだ」


 その時の誰もがルウの動きを捉える事など出来やしなかった。

 気がついたらリーダーである髭の男は地面に倒され、ルウがニーナを奪いかえして元の場所に立っていたからである。


「だ、旦那様!」


「フラン、ニーナを頼む。ジゼルにモーラル、皆を守れ、良いな」


 ルウに思わず声を掛けたフランが頷いてニーナを受け取ると、ジゼルは剣を抜き、モーラルは拳を構えて冒険者達から皆を守るように立ち塞がった。


「な、何が起きたんだ。ボリバルが何故倒れているんだ」


「あの娘が―――いつの間に?」


 そして冒険者達が気付くとボリバルと呼ばれた髭面の男の身体が高く浮いている。

 ルウがいつの間にか男が倒れている場所に移動し、その右手で男の喉に手を掛けて持ち上げていたのだ。


「が、ぎぎぎぎぐ……」


「ば、馬鹿な! ボリバルの身体は130kg以上あるんだぞ。それを片腕1本で楽々と!」


「そんな事、今はどうでもいいんだ、早くボリバルを!」「ボリバルを助けろっ!」


 その時、ルウの口から言霊が放たれる。


束縛リスツリクシェンズ


 ルウに飛び掛かろうとしていた冒険者達の動きが一斉に止まる。

 複数対象へルウの束縛の魔法が発動したのだ


「か、身体が!?」「動かん!」「馬鹿な!」


 それを見ながらルウは空いていた左手でボリバルの腕を掴んだ。


「ははっ、ニーナに悪戯した悪い手はこっちだな」


 彼が軽く力を入れただけで、めきめきと骨が潰れる嫌な音がする。


「ぎゃああああああ!」


「ははは、骨が砕けたかな? もうこんな腕では冒険者をする事は出来ないだろう。まあ、自業自得だ」


 ルウが悪魔のような笑いを浮かべるのを見て冒険者達の全身に悪寒が走った。


「許してくれ!」「命だけは!」「助けてくれぇ!」


 ルウはそれを聞くと意識を失ったボリバルを床に投げ捨てた。

 そしてフランの背後に隠れていたニーナに問う。


「助けろだってさ?……ニーナどうする?」


 ルウに聞かれたニーナは怒りがまだ収まらないようであったが、首を横に振る。


「ルウさん、こいつらにしっかり賠償金払って貰えれば私は良いよう!」


 それを聞いたルウは頷いたが、冒険者達の方に向き直り念を押す。


「彼女はこの店に善意の寄付・・・・・をしてくれれば良いそうだ。あと、これは俺の慈悲だと思え」


 ルウはボリバルの砕けた腕に触れ、言霊を唱えると先程掴んでいた腕の部分の腫れが引いていく。

 そして冒険者が固唾を飲んで見守る中で先程、顔面に拳を叩き込んで気絶させたアキムという男の傍に ゆっくりと近付くとまたもや言霊を放った。

 ルウの魔法により、アキムの陥没していた鼻がゆっくりと修復されて行く。

 その光景を冒険者はもとよりフラン達も呆然と見守っている。


 そして―――店の奥からもそれを見ている男が2人。

 エドモンとダレンである。


「ふむ、やはり黒鋼くろはがねのジーモンが儂に言った通りか」


「先程の話ですが、奴に言わせればルウはバートクリード様をも超えていると、果たしてそこまでの力ですか、エドモン様」


 エドモンはアデライドを訪ねた際に家令のジーモンからルウについて話を聞いていたらしい。

 それについてダレンは意見や考えを聞きたいのであろう。

 それに対してのエドモンの答えは簡単明瞭であった。


「まだ分らん――ただ、わくわくする」


「はい、俺もですよ。エドモン様」


 ダレンはエドモンに会釈するとルウ達の所に戻って行く。


「何だよぉ! ダレン爺が居なかったから私、おっぱい揉まれちゃったじゃないかぁ!」


 ニーナが大きな声で怒る声が聞こえて来る。


「ふむ、やはり面白い」


 エドモンはルウを見詰めながらもう1度呟いていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ