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第139話 「特訓」

 ルウとジョルジュの『鑑定』の魔法の訓練は続いていた。

 いきなり凄い結果を見せたルウの魔法にマルコは部屋にあった未鑑定の魔道具を自由にして良いと許可を出してくれたのである。

 今、部屋に残っているのはルウ達の他に若い女性のスタッフである。

 マルコはルウの『妻達』の買い物のフォロー、オーギュスタンも多忙な魔法鑑定士故に別の業務をこなさなければならず、もうこの部屋には居なかったのだ。


 未確認の商品を真剣な眼差しで見るジョルジュの耳にルウの声が響く。


「まず鑑定の魔法式をしっかり覚えて詠唱出来るようになるのが肝心だ。最初は魔力を込めずに魔法式を唱えてみろ」


 ルウはそう言うと見本だと言って先程の魔法式を詠唱する。


「叡智を司る御使いよ! 知らしめよ、我に真理を! もたらせよ、我が手に栄光を! ビナー・エメト・ヨド・ホド・ラージエール!」


 ルウは声量が圧倒的に多く良く『通る』声だ。

 それが朗々として詠唱するものだから、ジョルジュは勿論の事、商会の女性スタッフも、うっとりと聞き惚れていた。


「どうだ? 覚えたなら俺と同じ様に魔法式の詠唱をやってみてくれ」


 ルウの言葉に我に返るジョルジュだったが、目の前にはいつもと変わらぬ穏やかに微笑む兄の姿があったのである。


「は、はいっ! やってみます!」


 ジョルジュはルウと同じ様に呼吸法で息を整えると魔力を全く込めずに魔法式を詠唱する。


「叡智を司る御使いよ! 知らしめよ、我に真理を! もたらせよ、我が手に栄光を! ビナー・エメト・ヨド・ホド・ラージエール!」


「よし! 良いぞ。繰り返し行くんだ」


 ルウの声に励まされ、最初はぎこちなかったジョルジュの詠唱も繰り返すうちにだんだんと発音が確りして来る。


「良いじゃあないか、ジョルジュ。そろそろ魔力を込めてやってみよう。魔力波を放出した際に対象に問い掛けるような意識を持つようにするのがコツだ」


 頃合を見たルウが次の段階に進むよう促した。

 いよいよ正式な魔法式の発動だ。

 巧く行くのか? ……ジョルジュの表情に少し緊張が走る。


「まずどれを鑑定したいか。お前がその商品の中から選んでみろ、ジョルジュ」


 ルウの言葉に応えてジョルジュが選んだのはやはりアミュレットである。

 それは小さな菫青石アイオライトを使用した地味ながらも綺麗なものであった。


 これだ!

 俺の鑑定候補第1号は!

 巧く行くかどうか、挑戦だ!


 ジョルジュは息を整えると菫青石アイオライトのアミュレットを掌に載せて、再度魔法式を詠唱する。


「叡智を司る御使いよ! 知らしめよ、我に真理を! もたらせよ、我が手に栄光を! ビナー・エメト・ヨド・ホド・ラージエール!」


 魔力の質も量もルウには全く及ばないが、ジョルジュの掌が僅かに光り、それに伴ってアミュレットも光に包まれた。

 ジョルジュはすかさず問う。

 アミュレット、お前は何者なのだ? と……

 すると感情を持たない意思のような存在がジョルジュの魂に響いた。 

 我は癒すものなり……と


「あ、兄上!」


「ははは、ジョルジュ。どうやら、このアミュレットが自分が何者か語りかけてくれたようだな」


 ルウは相変わらず穏やかに微笑んでいる。

 しかしジョルジュは両手を挙げてお手上げのポーズを取った。


「あ、兄上……ははは、効果は判明しましたが、価格が分りません……ど、どうしましょう?」


 ジョルジュは自分の鑑定魔法の微妙な結果に泣き笑いの表情をするしかなかったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 1時間後……


 ジョルジュの鑑定魔法の訓練は終了した。

 未鑑定の商品はまだまだあったが、ここが店に対しての負担も考えてのタイムリミットなのである。

 魔法式に魔力を込めさせて菫青石アイオライトのアミュレットを鑑定させた後、ジョルジュを自習の形にしてその間、ルウはまた『妻達』と買い物をしていた。


「あ、兄上……残念ながら、結局最初のアミュレットしか成功しませんでした。それも鑑定価格が分らない中途半端な結果でした……情けない事です」


 ジョルジュは落ち込んでいる。

 つい自分をルウと比べてしまうからであった。


「ははっ、でも俺が修行中、最初に鑑定魔法を使った時よりは良かったぞ」


「ほ、本当ですか!? よかったぁ!」


 この兄でも修行の時に巧く行かなかった事もあるんだとジョルジュはホッとする。

 そこに立ち会っていたキングスレー商会の若い女性スタッフが声を掛けた。


「あのぉ、ご両名様。折角ですから、鑑定済みの当商会の商品をお買い上げいただけませんか?」


 確かに1時間付き合って売上げゼロでは女性スタッフは自分の給料に影響するのに違いない。

 彼女はつぶらな瞳で切なそうな眼差しを2人に送って来る。


「確かになぁ……じゃあ俺は最初に鑑定した『覇気があがるアミュレット』をお前に買ってやろう。今のお前に必要な筈だ」


 ルウがジョルジュにそう告げると、彼も生まれて初めて鑑定に成功した『癒しのアミュレット』を購入する事にしたようだ。


「俺が買ったのはお前が身につけて、お前が買ったのは誰かにプレゼントするのはどうだ?」


 ルウの言葉にジョルジュは僅かに頷いた。


 アンナにこのアミュレットをプレゼントしてみようか?

 だけど会ったばかりでいきなりのプレゼントだと……彼女、引く・・かなぁ?


 ジョルジュだって、やはり16歳の健康な少年である。

 頭の中は魔法からアンナの事でもう一杯になっていたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キングスレー商会王都支店、午後12時30分……


 ルウ達の買い物は終った……

 家具などは注文製作なので納品までには暫くかかるとの事だ。

 今日は展示してある見本品を見ながら、作りや色などの修正を頼み、製作の決定と発注をしたのである。


「納品までには2週間程かかります」


「10日でお願いしたい」


 マルコの言葉にルウは少し早く納品してくれるように頼んでいた。


「10日……かしこまりました。では10日で納品致します」


 明日の日曜日にはジゼル達の荷物が新たな新居に運ばれる事になっている。

いろいろと準備を整えて再来週の半ばくらいからは皆と一緒の新生活が開始されるのだ。


「お腹が空いたわね、どこかでお昼にしましょう」


 フランが皆に呼びかけると全員が賛成した。

 買い物が終わると、安心したせいか皆、猛烈に空腹を感じていたのである。


「ジョルジュはどうするの?」


 フランの問い掛けにジョルジュは苦笑して首を横に振った。


「俺は違う所で食べますよ。用もありますし……」


 用など無かった筈などとフランは野暮な事は言わなかった。

 ジョルジュが気をつかってくれたと知っていたからである。


「じゃあ馬車を先に帰してしまいましょう。私達も屋敷までは歩いて帰るから」


「じゃあ兄上、姉上、そして皆さん――今日はありがとうございました。また今夜、大伯父様の夕食会でお会いしましょう」


 ジョルジュはそう言うとひと足先に中央広場の雑踏に消えて行ったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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