第1,375話「女傑3人⑦」
ウッラ、テオドラ、マルガこと、『天狼』悪魔マルコシアスが、
廃墟の残骸において、おぞましいゾンビどもを倒している間に、
沈む陽は、西の地平線にゆっくりと落ちて行く……
……やがて、ウッラ、テオドラ、マルガにより、ゾンビどもは全滅した。
亡霊も含め、これで吸血鬼のしもべたる不死者は消えた事になる。
もしや、始祖の配下、眷属ども500体が、しもべの不死者に加勢する為、
出張るという可能性も考え、3人の女傑はそのまましばし、待った。
しかし、眷属どもは1体も現れなかった。
当然、奴らの首領たる吸血鬼の始祖も現れない。
こうなると残すは、奴らの本拠たる『古城』のみ!
かあん! かあん! かあん! かあん!
かあん! かあん! かあん! かあん!
……どこかで、寂しげに弔いの鐘が鳴っている……
長く長く鳴っている……
……こんな時間だが、どこかで、葬式を行っているのかもしれない。
早く、遺骸を埋葬し、自宅へ引き上げろ。
そうでないと、夜となり、深い闇に包まれ、異界に閉じ込められ、帰れなくなる。
閉じ込められたら……怖ろしい風貌をした異形の者が襲って来る。
そう、誰もが信じている。
まもなく……
その怖ろしい夜が来る。
ウッラの調査では……
この廃墟に隣接する小さな村々は、闇と異形を心の底から怖れ、
完全に夜となるまでに、固く正門を閉ざす。
正門には、創世神教会特製の魔除けの護符が、しっかりと飾られる。
怖ろしい高位の異形の前では無力かもしれないが、
村の家々は各戸、扉を厳重に施錠し、誰もが一切外出せず、
ひと晩中、息を殺し、引きこもるのだ。
討伐に訪れた、騎士隊、兵士達、そして冒険者達は……
異形どもが力を増す夜に討伐する事など、
理由があって、やむを得ない場合以外、ほぼしない。
陽が落ちるまでに引き上げるのが賢明だと、己へ戒めているからだ。
しかし……亡霊、ゾンビの群れを軽く一蹴した、この女傑3人は違う。
「真夜中こそ、我が能力が最大に発揮される時間だ。吸血鬼の始祖と眷属どもを粉みじんにしてやる! 否! 跡形もなく、この世から消滅させてやる!」
と腕を撫す、ダンピールのウッラ。
「ルウ様、モーラル様に、強化して頂いたこの能力を、最大限に発揮して見せる! そして! 様々な討伐の経験も活かし、力添えしたい!」
と静かに闘志を燃やす、失われし古代帝国ガルドルドの忘れ形見、
人間の魂を宿す自動人形のテオドラ。
そして、
「最強の悪魔たる私にとって、吸血鬼の始祖など、雑魚同然、但し、油断はせぬぞ。獅子搏兎……獅子は、兎を捕らえるにも全力を尽くす。天狼はそれ以上だ」
と、戦士マルガことマルガリータ、正体は人化した最強の悪魔のひとり、
天狼マルコシアスである。
助っ人ながら、今回の討伐に関しては、3人の『まとめ役』である。
全員がルウを信奉する事はさておき、
ウッラも、テオドラも、マルコシアスを師匠だと見ていた。
「さあ、古城へ乗り込むぞ」
「はい!」
「はい!」
元気に返事をしたウッラとテオドラ。
3人の姿は、暮れなずむ風景に溶け込み、消えて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先述したが……
吸血鬼の始祖と眷属どもが潜んでいる古城は、
旧き時代に数多く造られた、
『モット・アンド・ベリー』と呼ばれる仕様の城である。
ちなみに、モットは盛り土、ベリーは前庭の事だ。
現在ヴァレンタイン王国に良く見られる石造りの堅牢な城壁、
高い塔、美しい姿をした城とは全く違っていた。
モットに建つのは、城というよりは砦に近い仕様であり、規模も小さく、とても簡素な造りだ。
その古城は完全に荒れ果て、周囲に張り巡らされた堀には水が殆どなく、
底の方に泥水が溜まっているだけだ。
そして、かつては城内に渡るべく、架けられていた木橋も今はない。
やがて、木橋があった場所の手前に、
ウッラ、テオドラ、そしてマルコシアスが現れる。
既に陽は完全に沈み、薄闇が辺りを染めていた。
革鎧の色が地味な鉄紺色の事もあり……
3人の姿は判別しにくい。
「どうします? 一気にモットの古城を攻めますか?」
と、テオドラが尋ねる。
合理的な性格のテオドラは、ピンポイント作戦を提案した。
同意したのは、ウッラである。
「うむ、居住区のベーリーには、眷属どもが居るだろうが、まどろっこしい。一気に親玉を討ち取れば、眷属どもは意気消沈し、戦意喪失するだろう」
ふたりの言う事は尤もである。
戦略的にも妥当だと思われる。
しかし、助っ人ながら、ふたりの師匠であるマルコシアスは却下する。
「いや、ここは王道的に、眷属から殲滅する」
「え? 王道的に、ですか?」
「眷属から、殲滅するのですか?」
懐疑的なウッラとテオドラであったが……
「眷属どもは始祖に忠実であれ! 死ねと命じたら惜しみなく命をささげよ! と、魂を縛られており、操り人形ゆえ、自我が殆どない。先ほどの不死者ども同様、恐怖心も殆どない」
「な、成る程」
と、素直に頷くテオドラ。
しかしウッラは、首を傾げる。
「ですが、マルガ様。それがピンポイント作戦の却下の理由となりますか?」
「なる!」
ウッラの疑問に対し、即座に、言葉を返すマルコシアス。
「しかし、吸血鬼の始祖とは、悪しき人間が呪われし魔力で、自ら人外化した存在だ」
「はい!」
「その通りです!」
「うむ! それゆえ、始祖には自我と感情がある。私達3人が、約500体の配下たる眷属どもを一体ずつ消して行けば、最後は、恐怖のどん底に突き落とされる。それこそ、おぞましき始祖の最後にふさわしい」
「な、成る程!」
「了解です!」
始祖のメンタルにもとどめを刺し、討伐する。
いかにも悪魔らしい悪逆非道な発想に納得。
ウッラとテオドラは大きく頷いたのである。
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