第1,372話「女傑3人④」
ウッラ、テオドラ、そしてマルコシアスの3人は、弾むように走る。
凄まじい速さで、いくつもの森を駆け抜けて行く。
あと3つほど森を抜ければ、『目的地』へ着く。
今回の依頼完遂にあたり、ウッラは古城と廃墟となった町の残骸の詳細を綿密に調べ上げ、
周囲にあるいくつかの村へ赴き、聞き取り調査も敢行していた。
一方、ダンピールのウッラほど対吸血鬼戦の経験が豊富ではないテオドラ。
改めてブランデル家のルウの書斎において、
更に悪魔オロバスが店主を務める、異界の書店『幻想』へ赴き……
吸血鬼に関する書物をじっくりと読み込んだ。
それでも不明な部分は、ルウやモーラルを始め、
様々な相手に聞き込みをし、確認を行ったのである。
その上で、ふたりはじっくりと作戦を練ったのである。
ウッラの調査によれば……
吸血鬼の始祖と約500体の配下たる吸血鬼軍団のこもる古城は、
現在ヴァレンタイン王国に良く見られる石造りの堅牢な城壁、
高い塔、美しい姿をした城とは全く違っていた。
旧き時代に数多く造られた、
『モット・アンド・ベリー』と呼ばれる仕様の城である。
城というよりは砦に近い仕様であり、規模も小さく、とても簡素な造りであった。
モット……とは人工的な盛り土を意味し、ここに概ね領主の居城が築かれた。
この居城に領主一族は勿論、上級家臣などを住まわせ、軍の本隊を置く。
ちなみにこの盛り土は、
周囲の堀を造った際、出た土を有効利用しているのが殆どだ。
そしてベリーは、その盛り土の前庭的部分にあたる場所である。
このベリーの部分に、本隊以外の軍を置き、臣下の居住区域等が造られた。
そして周囲には、現在の城壁のように、柵を張り巡らせた。
この柵は現在多くの村と同じ仕様で、
丸太を切り出し、土中に打ち込んだものである。
そして堀を境に、外部と行き来する橋も木製であった。
先述した通り、この『モット・アンド・ベリー』外に、
町が造られ、領主夫妻が存命の際は大いに栄えた。
ちなみに魔物を始め、外敵の襲来があった際、
戦闘において劣勢に陥った場合のみ、町の人々を『モット・アンド・ベリー』へ避難させ、
橋を焼き落とし、籠城する想定もされていたらしい。
実際、他の地域ではそのようなケースもあったようである。
しかし、多くの人々が吸血鬼の犠牲となり、生き残った住民は、
王国各所へ逃げてしまった。
現在の町は完全な廃墟となり……荒れ果て、魔物の大巣窟となっている。
そして魔物の本拠地が、モットの崩れかけた城館なのであった。
ウッラは町、古城のほぼ完璧な地図も手に入れ、万全の態勢で、
依頼受諾に備えていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、テオドラは吸血鬼――ヴァンパイアの事について、徹底的に勉強した。
亡くなった人間が、吸血の特性を持ち、復活した不死者というのが、基本的な吸血鬼の定義である。
但し、こうした不死者以外でも、
吸血の特性を持つ人外を総じて吸血鬼と呼ぶ場合もある。
このような吸血鬼の人外は、数限りなく存在し、
ルウの妻となったモーラル……夢魔モーラも霊的な吸血鬼の範疇に入れられる。
話を、不死者の吸血鬼に戻そう。
まず分かりやすく、吸血鬼の特徴を述べる。
人の生き血を吸う、つまり吸血を行う。
吸血の際、噛まれた犠牲者も吸血鬼となり、仲間を増やす手段とする。
不老不死である。
鏡に映らない。
十字架、聖水に弱い。
ニンニク、日光に弱い個体も存在する。
急所を貫かれると消滅する。
コウモリ、ネズミ、霧などに変身する。
個体によるが、流水に弱い。
とんでもなく怪力無双。
倒された際に塵となるが、血を得た場合、復活する場合がある等々……
他にもあるようだ。
これらは、吸血鬼以外の人外も混在していると思われる。
倒す場合は、相手となる個体の特徴を良く見極めて戦わないと、
とんでもなくリスクが大きいといえよう。
テオドラは今回、戦う事となる『吸血鬼の始祖』についても調べた。
吸血鬼の始祖は、真祖ともいう。
諸説あるが、魔術、呪術等によって自ら吸血鬼へ変化した存在であるとされる。
吸血鬼から吸血され、吸血鬼化した犠牲者ではないという。
そんな吸血鬼の始祖を、テオドラは自身が戦った悪魔に置き換え、
シミュレーションした。
物理的な攻撃も、魔法も強力な耐性があり、下手をすると無効化してしまうと。
そして結果は出た。
悪魔も吸血鬼の始祖も、基本不死である。
しかし、不死の悪魔にも弱点はある。
今回は、ルウから秘策も授けて貰った。
ウッラを助け、思う存分暴れようと決意している。
それにマルコシアスも居るから、心強い。
もしも!
マルコシアスと『吸血鬼の始祖』、
「どちらかと戦え!」と選択を迫られたら、すぐに後者を選ぶだろう。
そうこうしているうちに、森を3つ抜けた。
少し前から感じているおぞましき邪気がどんどん強くなって来た。
やがて、廃墟となった町の残骸が見えて来た。
近くに町を見下ろす小高い丘がある。
3人は打合せ通り、その丘へ向かったのである。
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