第1,366話「夢見るマノン⑤」
ルウによる、魔道具研究の宝石――パワーストーンの授業が続いている。
「では、皆、パワーストーンの話を続けよう。次に俺が話をするのは、アンバーだ」
ここで「はいっ!」とマノンが手を挙げる。
「ルウ先生」
「おう!」
「念の為、アンバー……琥珀は宝石ではありますが、鉱物ではありませんわ」
「ははは、分かっているって。マノンはアンバーが好みでないのかな?」
「いえ……大好きですわ」
マノンはにっこり笑い、ゆっくりと座った。
何か、声を出さずつぶやいたようである。
一見、意味のない質問のように見えるかもしれない。
しかし、マノンにとって、ルウと話す事は最優先する。
その上、大好きですわ……の後に、こっそり「……ルウ先生」と呼んでいた。
満面の笑みを浮かべているのは無理もない。
アンバーは、『女神の涙』というテーマで有名な逸話がいくつもある。
生徒たちは、アンバーの説明は勿論、ルウが話す伝承を聞きたいと望んでいた。
「では、アンバーの話をしよう。先ほどマノンが言ったように琥珀とも呼ばれるアンバーは宝石ではあるが、鉱物ではない」
「……………」
「アンバーは今から遥か昔……松柏科の針葉樹から出た樹液が土中に埋もれ、長い時間をかけて、化石化したものだ」
「……………」
「アンバーの色は主に黄金だが、緑や青のものもある」
「……………」
「そして、アンバーの宝石言葉は、活性、繁栄、長寿……俺の私見だが、これらは生命力に関する言葉だと思う」
「……………」
「アンバーは、まれに生物が閉じ込められていたり、ある方法を用いれば帯電する事もあって、古来より魔法使いにとっては、特別な宝石として認識されていた」
「……………」
「ある学者によれば、アンバーは、赤子の護符として効果があると説が立てられたり、心と身体の様々な病気に効果があるとも言われていた」
「……………」
「アンバーは、身につければ、発熱を防ぎ、喉にも良いと言われている。流行り病にも大きな効果があると言われている」
「……………」
「またアンバーは、毒蛇の接近を防ぎ、防毒の効果もあると言われた」
「……………」
「ロジックとしては、アンバーが体内魔力に効果を及ぼし、術者の心身の耐久性を高めるのだという考え方だ」
「……………」
「しかしアンバーの持つパワーはそう強くはない。術者が身に着ける場合、長時間、長期間、着けるべきだといえよう」
「……………」
「他にもあるが、この講義における、アンバーのスペック説明は以上だ」
ノートにメモを取る生徒たちは軽く息を吐いた。
ルウの話す伝承を聞く事が出来る。
という、期待の吐息であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
スペックの説明は終わり……
生徒たちのお待ちかね、アンバーの伝承が、ルウから語られる。
「次に、アンバーにまつわる伝承をいくつか述べよう」
「……………」
「まずは南の神々におけるアンバーの伝承だ」
「……………」
「南の神々の中の太陽神、その太陽神の息子がある日、父の御す炎の戦車に憧れた」
「……………」
「息子は父・太陽神へ炎の戦車を駆り、天空を飛びたいと申し出た」
「……………」
「太陽神は悩んだが……息子を溺愛する彼は願いを聞き入れてしまった」
「……………」
「しかし息子の腕はあまりにも未熟であった」
「……………」
「炎の戦車は本来の軌道を外れ、いたずらに天を焼き、地を焼いた」
「……………」
「被害は甚大なものとなり、南の神々の主神、大神は仕方なく、太陽神の息子を雷で撃ち落とした」
「……………」
「息子の遺体はある川に流れつき、死体を確認した妹の女神たちは、悲しみ、ずっと泣き続けた」
「……………」
「女神たちが流した涙が、やがてアンバーになったと伝えられている」
「……………」
「もうひとつ、アンバーの伝承を話そう」
「……………」
「とある北の海に雷神の娘たる人魚の女王が、アンバーで造られた海底の宮殿に住んでいた」
「……………」
「ある日、この北の海の海岸に、若き漁師が住みついた」
「……………」
「やがて漁師はこの北の海で、漁をするようになった」
「……………」
「人魚の女王は、配下の人魚たちに命じ、漁師に自分の領土で魚を捕らぬよう命じた」
「……………」
「しかし、若き漁師は女王の命令を無視し、魚を捕り続けた」
「……………」
「そこで今度は女王自身が出かけて行った」
「……………」
「若き漁師は、容姿端麗な男子だった」
「……………」
「女王は恋に落ち、琥珀の宮殿に連れて行き、愛を語った」
「……………」
「女王は不死の女神。人間との恋は禁じられていた」
「……………」
「許されざる娘の恋を知った父・雷神は若き漁師を雷で殺し、宮殿を破壊。廃墟となった宮殿に娘を幽閉した」
「……………」
「恋人の死を悲しみ、嘆いた女王は涙を流し続けた。その涙も琥珀になったという事だ」
「……………」
「このように悲しみにくれる女神の涙がアンバーになったという伝承は他にもある。興味があれば、調べてみると良い」
「……………」
「アンバーは美しい宝石だ。しかし悲しみにくれる女子の涙がアンバーになるというのは、心が痛む話だな」
ルウがそう言うと、講義を受講する生徒たちは「激しく同意!」とばかりに、
大きく頷いたのである。
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