第1,359話「ジェラール・ギャロワの幸せ③」
一見、いつもと変わらない夕食であったが……
ジェラールとブランカは、家令のアルノルト以外の使用人達には伝えず、
ふたり内々で祝いの宴を行った。
とはいっても、身重の妻ブランカは、アルコールを控えていた。
乾杯は、果実のジュースである。
優しきジェラールは、「自分だけ飲むのは申し訳ない」と、
アルコールを一切摂らず、同じく果実のジュースで杯を満たした。
ジェラールとブランカは、誰が見ても本当に仲が良い。
ふたりはひとまわり年齢が離れていたし、
ジェラールは二度目の結婚で再婚、ブランカは初婚ではあったが、
全くそのギャップを感じさせなかった。
やがて食事が終わった。
ジェラールとブランカは、主人専用の書斎でふたりだけになり、しばし歓談。
そうこうしているうち、時間があっという間に経ち、22時に……
ジェラールは、妻を思いやり、「早く休もう」と提案。
にこやかな表情で、ひとつのベッドへ入り、しばし話した後、
いつの間にか、ふたりは寝入り、寄り添うように眠っていた。
食事の時同様、ふたりの寝顔も安らかである。
何か、楽しい夢を見ているに違いない。
そう……夢と聞いて、ピンと来た方も居るやもしれない。
先日、ルウの妻ジゼルとナディアが魔法女子学園で楽しそうに話していた事を。
……ここで、時間は少しさかのぼる。
同日19時30分過ぎ、同じく貴族街区のルウ・ブランデル邸。
夕食が終わり、食後の紅茶を飲んでいたジェラールの愛娘ジョゼフィーヌ。
誰かと話している様子であったが、「あ!」と声をあげた。
一体何があったのか、ブランデル家の者は全員が分かった。
ジョゼフィーヌの属性は『風』
食後の紅茶を飲みながら、風の精霊シルフと話していたのである。
ちなみに、水の属性を持つオレリーは、水の精霊ウンディーネと交流をもっている。
話を戻すと……
シルフは、ジョゼフィーヌへ報せてくれたのである。
本日ジェラールが、宰相フィリップから告げられた朗報を。
ジェラールが帰宅した際、一陣の風に包まれ、話しかけられたのは錯覚ではなかったのだ。
そしてシルフは聞いていた。
ジェラールと妻ブランカが内緒にして、
ブランデル家の皆を喜ばそうとする事をも。
ジョゼフィーヌはルウへ話しかける。
「旦那様」
「何だい、ジョゼ。お前と仲の良いシルフが何か教えてくれたのかい?」
「はい、素敵な報せ、朗報を報せて来ましたわ。お父様の件で」
「そうか、ギャロワのお父上か」
「はい……そうですわ」
ここでルウは心と心の会話、念話に切り替える。
『ジョゼ、これで良い。話してごらん』
『お気遣い頂き、ありがとうございます! シルフがお父様の波動で経緯を知り、後で王宮へ赴き、フィリップ様の心の波動を読み、裏を取ってくれました』
『……そうか。ジョゼの為に、シルフはわざわざ王宮へ行ってくれたんだな』
『はい、ウチの家族の皆にはオープンにして構わないと、フィリップ様は許可を出したそうですわ』
『分った。じゃあ、俺との話が終わったら、ウチの家族、全員へ伝えよう』
『はいっ! それで、その朗報なのですが……』
その後ルウとジョゼフィーヌは話をして、
ジェラールの『朗報』を共有したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
30分後……
ルウの妻達は、主専用の書斎に居た。
特別な話があるとルウが集合をかけたのである。
ちなみに、ルウから事情があり、まずは妻達に話をすると丁寧に告げられ、
アルフレッドこと赤帽子以下、ソフィア、テオドラ、ウッラ、パウラ、エレナ、リゼッタ、家族同様の使用人達は納得し、同席していない。
事情を知るジョゼフィーヌ以外、集まったのは……
フラン、モーラル、ジゼル、ナディア、オレリー、リーリャ、アリス、アドリーヌ、ラウラである。
「ジョゼ。話してくれるかな?」
「はい、旦那様……皆様、さきほど、仲良くしているシルフが私の下へ来て、教えてくれましたの」
ここでフランが、
「では、ジョゼ。私達、妻は全員、貴女の話をひと通り聞きます。それまで黙って、口を一切はさみません」
対して、ジョゼフィーヌは笑顔を見せる。
「ありがとうございます、フラン姉。お言葉に甘えて、出来るだけシンプルに、ひと通りお話しさせて頂きますわ」
ジョゼフィーヌは「ふう」と軽く息を吐き、
「本日、フィリップ様から父ジェラールへ呼び出しがあり、通達されました。父の財務大臣代行の『代行』が取れると」
言葉通り、ジョゼフィーヌは単刀直入に告げた。
とてもめでたい、喜ばしい昇進の一報である。
普通なら歓声がわき上がるところだが、ルウの普段の指導で、妻達は精神を制御する訓練を受け、結果も出していた。
妻全員の心はわずかにさざめいているが、表面上は平静である。
「………………」
静まり返った書斎。
響くのはジョゼフィーヌの声のみである。
「正式には来月1日付で、父ジェラール・ギャロワは財務大臣となりますわ」
「………………」
「更にフィリップ様はおっしゃいましたの。あげた実績いかんでは、侯爵への陞爵も考えているとも」
「………………」
「それで父は敢えて本日、連絡を寄越さず、私達ブランデル家には内緒にし、後日、用件を告げずにお母様を同伴して来訪。いきなり明かして驚かせるつもりなのですわ」
「………………」
「しかし、私は身重のお母様のお手をわずらわせたくはありません。後日、落ち着いて、私達の方から伺おうと考えました。どうしたら負担のないよう、お父様、お母様と今回の件を家族全員でお祝い出来るか、旦那様と相談しましたの」
「………………」
「良きアイディアを旦那様から頂きました。全員で早速実行したいと思います。皆様、ご了解とご協力のほど、宜しくお願い致しますわ」
ジョゼフィーヌはそう言うと、笑顔で深々と頭を下げたのである。
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