第1,355話 「考古学プラスαの問答③」
水を飲み、ひと息つくと、ナディアは再び話し始める。
「海神王と人間の娘クレイトオの子孫たる10人の王は、アトランティアル帝国10の地区をそれぞれ治め、その子孫達が世襲して跡を継ぎ、統治を続けて行った」
「………………」
ルウは相変わらず無言で、愛する妻の話を聞いていた。
ナディアは微笑み、更に話を続ける。
「神と人間の血を受け継ぐ10人の王達は、それぞれの支配地で絶対的な権力をふるった。立法権、行政権、司法権等々、全ての法律を支配し、思うがままに国民を支配したんだ」
「………………」
「10人の王達にとって、開祖で守護神たる海神王の教えは絶対であり、超金属オリハルコンの巨柱にその教えを刻み、厳守していた」
「………………」
「その巨柱は、海神王の神殿に置かれ、10人の王達は、数年に1回、定期的に集まり、教えを破った者が居ないかをこと細かく確認し合っていたというよ」
「………………」
「万が一、教えを破った者が居た場合、重い裁きを下していたともね」
「………………」
「教えを破った者が居たら露見させる為、王達は海神王の教えが刻まれたオリハルコンの巨柱に、いけにえとした家畜の血をふりかけたらしいよ」
「………………」
「いけにえの血が開祖・海神王の裁きを呼び、こっそり隠していても、海神王の力により、裁き……つまり、不心得者には神罰がくだると信じていたんだ」
「………………」
「その後、10人の王達は数日間、時間を問わずぶっ通しで議論を続けたという」
「………………」
「アトランティアル帝国繁栄の為にという議題で」
「………………」
「10人の王達には絶対の基本原則があった」
「………………」
「ひとつ、一族間でけして争ってはならない。万が一、アトランティアル帝国を滅ぼそうとしたり、クーデター、内乱を企てる者が居れば、王達は長兄アトランティアルの子孫たる者を中心に一族全員で一致団結して、事にあたる」
「………………」
「ひとつ、過半数以上の同意がない場合、一族の誰かを罰してはならぬ」
「………………」
「しばらくは、海神王の子孫たる10人の王に治められ、アトランティアル帝国は栄えた」
「………………」
「しかし……時代が進むにつれ、人間との交わりにより王達の神としての血は薄まり続けた」
「………………」
「人間――人の子は、生まれながらにして、原罪を背負っている。権力におぼれた10人の王達の堕落が始まったんだ」
「………………」
「王達は己の邪な欲望に染まり、国民をないがしろにし、理不尽な乱暴狼藉を繰り返し、悪政の限りを尽くした」
「………………」
「海神王の祝福を祝福により繫栄してアトランティアル帝国は堕落の一途をたどり、ついに海神王の兄、大神が帝国へ鉄槌を下した。己の奔放な行為を、犯した重き罪を棚に上げてね」
「………………」
「大神は神力で、とんでもない天変地異を起こし……多分『大破壊』だろうけど、この『大破壊』により、アトランティアル帝国は一夜にして、海中へ没してしまった……以上だね」
「見事だ……良く、そこまで勉強したな。ナディア」
「うん! 他にもいろいろ勉強したよ。学ぶのは大変だけど、古に生きた当時の人々に思いをはせるのが、とても楽しいんだ」
「ああ、俺もそうだ。師シュルヴェステルから、彼のリアルな体験を聞いたから尚更だな」
「だよね! それで、旦那様! 今回はどうだったの? アトランティアル帝国帝都の遺構は?」
「ああ、スキュラの悲劇を追い、モーラル、テオドラと旅をした果てに、海中へ没したアトランティアル帝国の帝都遺構へたどりついた」
「わお! さっき、今回の事件の発端、経緯から顛末まで、ざっくりと聞いたけど……もっと詳しく教えて!」
「了解!」
愛する妻のリクエストに応え、ルウはスキュラ、カリブディスの事件、そしてふたりを敢えて冥界へ堕とした事、鷹の魔女――悪しきキルケーを粛清した事、
そして海中へ沈んでいたアトランティアル帝国帝都の遺構について、話をした。
ルウの語り口は巧みであり……
スキュラ、カリブディスの悲劇が胸いっぱいに迫り、姑息なキルケーに対しては、
呆れて、ものも言えなかった。
そして、ナディアが熱望していたアトランティアル帝国帝都の遺構へ話が及び……
ナディアはまるで、ルウと共に、遺構をめぐっているような気分となった。
「その後、俺達は海神王の息子トリトーンを伴い、海神王神殿へ入った。そして最奥の至聖所へ入り……遂に片を付けた。……創世神に粛清され、単なる魂の残滓となっていた海神王を完全に冥界へ堕としたんだ」
「だよね! 色ボケした兄の大神とともに、海神王は女子の大敵だもの……犯した重罪を冥界でつぐなわなきゃ」
「だな! しかし、今回は海神王の息子トリトーンも同行した。彼に罪は殆どない。生き残った彼が、これから眷属達と生きて行く為、希望を捨てないような対応は必要だった」
「うふふ♡ 旦那様は優しい……だから悪魔に魂を穢されたボクも、見捨てられずにすんだんだ……改めて言うよ、救ってくれて、本当にありがとう♡」
ナディアはそう言うと、再びルウの胸へ顔をすり寄せ、猫のように甘えた。
「ねえ、旦那様。話がガラッと変わるけど……旦那様のクラン、星のメンバーである、カサンドラ先生、ルネ先生が抜けるんだって?」
「ああ、そうだ。婚活を本格的に始めたいから、『もう冒険者をやめる』と申し入れて来てOKしたよ」
「ねえ、旦那様」
「ん?」
「ボクが大学へ入学したら、ジゼルと一緒に、星へ入りたい。そしてフラン姉と4人、家族で世界の遺跡を回りたいんだ!」
「ああ、構わないぞ。ナディアとジゼルは勉強、訓練とも頑張っているし、上級魔法使いとして、確かな実力もつけている。一流の冒険者になれるよ」
「うふふ、ありがと、旦那様。本当に、楽しみだなあ……」
「本当に楽しみか……その前に、いろいろと頑張ったナディアにご褒美をあげよう」
「ご褒美?」
「モーラルから習った夢魔の魔法だ。俺の記憶を夢に反映し、ナディアと逢う事が出来る」
「え? それって、もしかして!」
「ああ、アトランティアル帝国帝都遺構は崩壊したが、俺の記憶へ刻んである。夢の中なら、いつでも訪れる事が可能だ」
「わお! もしかして! 旦那様と! アトランティアル帝国帝都デート!?」
「そうだな!」
「あはっ! うっれし~! 旦那様、だ~いすき!! 早く寝よ! しっかり抱っこして♡」
「ああ、寝よう」
……と、いう事で、ルウとナディアは、抱き合いながら就寝……
ルウの夢の中で、アトランティアル帝国帝都デートをしたのであった。
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