第1,347話 「生涯唯一の嫉妬㊳」
引き続き……
ルウの魔法による旧き時代の映像が続いていた。
既に起こってしまった、取り戻せない過去の事象が。
……『毒婦』と化したキルケーが姿を消してからまもなく森に、ニンフ、スキュラが現れた。
誰からも慕われ、愛される健康的で可憐な少女、
それが美しきニンフ、スキュラであった。
スキュラは周囲を見回し、他者の気配がない事を確かめると……
するりと衣服を脱ぎ、丁寧に畳むと、いつも入浴する小さな泉へ、
ためらう事無く、足を踏み入れた。
そして、ゆっくりとその美しい裸身を泉へと沈めた……
瞬間!!!
『運命の別れ道』から女神アンピトリテの逆恨みによる、
『おぞましき悪意』の手が伸び、スキュラを無理やり引き込んだ。
罪なきスキュラの運命を暗黒へ塗り替えてしまう、恐るべき悲劇は起こったのだ。
キルケーが投じた猛毒の魔法薬が、その恐るべき効果を発揮したのである。
ぎゃああああああああああっっっっっ!!!???
心身をバラバラに裂くような激しい痛みがスキュラを襲い、
限りなく断末魔に近い、激しいスキュラの叫びが小さな森の中に轟いた。
泉の中に身を沈めていた可憐な少女は著しく変貌していた。
もう美しい、可憐という言葉は二度と使われる事はない。
敢えて使えるとすれば、上半身のほんの一部だけ……
泉の中で悶え苦しんでいたスキュラは……
上半身は美しい女性のままでありながら、
腰から下半身は3列に並んだ鋭い歯を持つ6つの猛犬の頭部、
そして12本もの猛犬の太い足が生えた、醜く奇怪な姿となっていた。
そう!
毒婦キルケーの手により、哀れスキュラはおぞましき怪物にされてしまったのである。
『た、助けてぇ!! 助けてぇ!! 助けてぇ!! 助けてぇ!! 助けてぇ!!
……わ、私は!? 私は!? 私は!? 私はああ!? な、何故!? 何故このような姿にぃぃ!! どうしてぇ!! どうしてぇぇ!!』
激しい痛みに必死に耐えながら、頭を抱え慟哭するスキュラの心の叫びが、
この場の全員の心へ、リアルな感覚を伴い突き刺さる。
ルウ、モーラル、テオドラは硬く真剣な表情でスキュラの叫びを聞いていた。
トリトーンは、ひどく辛そうな表情で頭を抱えてしまった。
当然、魂の残滓と化した女神アンピトリテの心にも……
スキュラの叫びがビシビシと伝わっていた。
『や、やめろぉ!! わ、妾へ、こ、このようなおぞましき下世話なモノを見せてなんとするぅ~!!』
そんなアンピトリテの叫びに応えたのはルウである。
傍らにはモーラル、テオドラがキッと鋭い眼差しを飛ばしていた。
さすがに息子トリトーンは、悲し気に目を伏せていた。
『おぞましき下世話なものだと?』
『そ、そうだ、醜き怪物など見とうない! 助けを求める声など聞きとうないっ!』
『黙れ! アンピトリテ! この愚か者めが!』
禁断のセリフを叫んだアンピトリテへ、ルウの激しい怒りが向けられる
『当然! お前が犯した重き罪を、はっきりと心へ認識させる為だ!』
『な、なにぃぃ!!??』
『我が身をつねって人の痛さを知れという。しかしスキュラが受けた痛みと苦しみはお前の我が身をつねるくらいでは全く収まりきらない』
『くうおおお……うぬぬぬ』
『お前は夫、海神王の奔放さに長きにわたり、じっと耐えた。同情すべき部分は確かにある』
『うううう……』
『だが! お前がおこした生涯唯一の嫉妬により、罪なきスキュラの幸せは完全に閉ざされた』
『うううう……』
『アンピトリテよ! 毒婦キルケーに続き、お前を冥界へ堕とす。だが心配するな。お前の夫たる海神王には、比べ物にならぬ苦しみと屈辱を味合わせ、冥界の最下層へ永遠に堕としてやる』
『くう、ううう……』
『見よ、アンピトリテ!』
いつの間にか映像が変わっていた。
アンピトリテに命じられ、スキュラへ毒を盛った魔女キルケーが……
ルウの魔法により合成魔獣ハルピュイアへと変えられ……
苦しみながら冥界へ堕とされて行く光景へ変わっていたのだ。
『な、な、なにぃぃ!! キ、キルケーぇぇぇ!!』
驚愕するアンピトリテへ、ルウは言う。
『お前には、先ほど冥界へ堕とした毒婦キルケーと同じ姿で冥界へ送ってやる。魔力を封じてな』
『ううう……』
『アンピトリテ! お前は冥界の住人『飛べないハルピュイア』となり、死肉を喰らいながら、永遠に冥界を回るがよい』
『な、な、何だとぉぉ!?』
『冥界の門から入り、アケローン川をカロンの船によって渡り、第二圏 愛欲者の界域、第三圏 貪食者の界域、第四圏 貪欲者の界域、第五圏 憤怒者の界域、第八圏 悪意者の界域、そして最後は第九圏 裏切者の界域だ。もう二度と現世には戻れない。とびきり楽しいツアーになるだろう』
『ふ、ふざけるなあ!! や、やめろぉ! そんなツアーへ行ったら、心が正気でなくなるっ! 妾が妾ではなくなってしまうぅ!!』
キルケーが発したのとほぼ同じ。
アンピトリテの叫びを、ルウは淡々と聞き流す。
『配下の毒婦と全く同じセリフを吐くか? まさに同じ穴の狢だな』
『くうう……』
『ならば! 俺がキルケーへ告げたのと、同じ言葉を贈ってやろう』
『ううう……うう』
『アンピトリテ! お前がスキュラへ対し、やった事が返ってくるだけさ! まさに因果応報だな』
『や、やめろ! やめろぉ!』
『冥界で、キルケーを必死に探すがいいさ』
『な、なにぃ!?」
『毒婦と再会出来るか保証はしない。だが、もしも会えたのなら、ふたり一緒にツアーを楽しめば良い。罪を償えば、お前はいつか、転生出来るだろう……さらばだ!』
ルウの指が「ピン!」と鳴らされる。
と同時に、アンピトリテの魂の残滓が歪み、形が変わった。
形の変わったアンピトリテの残滓は……
醜い人間の顔に、背にはコンドルの羽根、脚には鷲の爪を持つ合成魔獣
『ハルピュイア』の姿へあっという間に変わって行き……
最後には、す~っと消えてしまったのである。
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