第1,346話 「生涯唯一の嫉妬㊲」
ルウが持つ巨大な純白の翼……
創世神がかつての天使長ルシフェルとともに、第三の使徒ルウへも授けた、
最大最強レベルたる御業のひとつ、完全な翼……が、
発動した。
『な、な、何だ!? あ、あれはっ!?』
……今まで、初めて目の当たりにしたら、どこの誰でもが見せる反応を、
女神アンピトリテも見せていた。
驚き戸惑うアンピトリテへ、ルウは告げる。
『一応言っておこう、アンピトリテよ。お前の行使する魔法や技は一切俺には通じないぞ』
『な、何ぃ!? 通じないだと!?』
『ああ、もしもお前が、今のような魂の残滓――単なる亡霊ではなく、元の神として、完全体であってもだ』
『な、な、何ぃ! ふ、ふざけるなあっ! わ、妾には分かるぞよ! 第三の使徒と、うそぶいても、お前は所詮ただの人間! 人間が神に勝てるわけがないわあっ!』
絶叫するアンピトリテ。
だが、ルウは全く動じない。
『はははは、アンピトリテよ。お前が言う通り、俺は確かに人間だ……』
『ぬ!?』
『しかし、女神だって「論より証拠」という「ことわざ」を知っているよな』
ルウはそう言うと、ゆっくりと背の翼を動かし、開いて行く……
開かれた純白の翼の内側には、モーラル、テオドラ、そして海神トリトーンの全く無傷な姿が在った。
『ぬぬぬぬぬうう……お、お前達をぉぉ! ぜ、絶対にぃ! し、神殿には近寄らせんぞぉ!』
『ははは、お前を退けた後で、神殿へ踏み込み海神王を冥界の底へ送るよ』
『な、何ぃ!!』
『心配は無用だ。お前も夫とともに冥界の底へ逝く。だがその前に、俺達の前で懺悔し、犯した罪を悔い改めて貰おう』
『お、お前達の前で、く、悔い改めろだとぉ!?』
『ああ、そうだよ……罪状は、ニンフ、スキュラを逆恨みで怪物に変え、貶め死より辛い苦しみを与えた罪だ』
『ふっ、笑止! 適当な事をほざくなあ! 妾は罪など犯してはおらぬぞ。ニンフのスキュラとは何のかかわりもないのだあ!』
『おいおい、本気か?』
『当然、本気じゃ! 身に覚えが全くないのに、懺悔して悔い改めるなど、出来るはずもなかろうてぇ!』
きっぱりと言い放ったアンピトリテ。
対して、息子トリトーンは切なげに叫ぶ。
『母上ぇぇ!!』
『はっ、何が母上だ、穢らしい薄汚い裏切者が! くだらぬ世迷言を抜かすなあ!!』
海神王と女神アンピトリテ……
自分の両親は、『魂の残滓』――亡霊となりはて、神としての誇りは勿論、理性さえもなくした……
ルウの言葉がリフレインしたが……
トリトーンは必死に叫び続ける。
『は、母上ぇぇ!! こ、これ以上!! は、恥をさらさぬよう!! お、お願いいたしまあす!!』
しかし!
トリトーンの心の叫びは届かない。
『ええい! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れぃぃっ!!』
アンピトリテは「うざい!」とばかりに絶叫で返すのみ。
トリトーンの懇願など、聞く耳を全く持たなかった。
仕方がない。
手は尽くしたという趣きで、ルウが言い放つ。
『身に覚えがないというのなら……お前がどこまでむごい事をしたのか、自身の心の中へ映してやろう』
『な、何ぃ!?』
驚くアンピトリテへ、ルウはピン!と指を鳴らし、魔法を発動したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルウは魔法を発動すると同時に、その場全員の心をつなげた。
アンピトリテが魔女キルケーに命じ、どれほど酷い事をしたのか、共有する為である。
『妾に何も関係ないモノを見せつけ、どうするつもりじゃ!』
『アンピトリテ、魂の残滓となりはてても……お前に良心の欠片が残っていたら、懺悔し、悔い改めるはずだ』
『黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れぃぃっ!!』
ルウが説いても、やはり……
アンピトリテは「うざい!」とばかりに絶叫で返すのみ。
聞く耳を全く持たなかった。
苦笑したルウは軽く息を吐く。
瞬間!
全員の心の中に、地上の風景が大写しで現れた。
ここは……
どこか、とある小さな森。
すぐに視点が寄って行くと、これまた小さな泉が映る。
そこへひとりの女が現れた。
ルウ、モーラル、テオドラには見覚えがある。
そして、トリトーンにも……
『ふ、雰囲気で……分かる! こ、こやつ……もしや、キルケーか!』
そう現れた女は、先ほどルウにより、ハルピュイアへ姿を変えられた鷹の魔女キルケーであった。
しかし、ルウ達が会った時、豪奢なドレスに身を包んだ美しく妖艶な貴婦人だったキルケーが……
地味な服装の平民風に姿を変え、小さな泉へこそこそと忍び寄っていたのだ。
キルケーは左右周囲を見回し、『ひとけ』がないものを確かめると、
懐からガラスの小瓶を出し、濁った中身の液体を泉の中へ注ぎ込んだ。
……中身を全て注ぎ終わると、二っと嫌らしく笑い……
キルケーは心の中でつぶやく。
『アンピトリテ様、このキルケー、貴女様から命じられた通り、醜い怪物化する特製の魔法薬を、スキュラお気に入りの泉へ注ぎましたぞ。くくく、報酬を宜しく頼みまする……』
更に全員の心の中には、キルケーの感情も伝わって来る。
『あんな浮気者の好色海神王の為に、ここまでやるとは……嫉妬とは怖いものだ。
……妾のようにたくさん人間を捕らえ、獣にし、奴隷として飼えばよいものを……スキュラもとんだ災難じゃの! くくくくく……』
再び声を殺して笑ったキルケーは……
再び、周囲を見回すと、森の中へ姿を消したのである。
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