第1,345話 「生涯唯一の嫉妬㊱」
超大海蛇シーサーペント、超大王烏賊クラーケン、超大海魔リヴァイアサン……
海神王の神殿を護るツワモノ3体が、ルウ、モーラル、テオドラにより、呆気なく退けられた。
テオドラ、モーラルにより無傷で確保されたシーサーペント、クラーケンは、この海域の後継者たる海神トリトーン麾下へ……
そしてルウの『けた違いな力』に屈したリヴァイアサンは、同胞ジズの説得、
モーラルとテオドラの『逆手』もあり、何と! ルウの麾下となった。
結果……
往く手を阻む者がなくなったルウ達は、「ずいっ」と更に進む。
すると、どこからともなく……
唸るような……獣の声とも違う、激しい振動が伝わって来る。
ルウ達には分かる。
これは……何かの前触れであると。
海神王、女神アンピトリテの子、トリトーンがハッとする。
『ルウ様! い、いよいよ! ち、父上と、は、母上のおられる神殿本体があっ!『至聖所』が現れますぞぉ!』
『……至聖所か』
『は、はいっ!』
……ルウは以前、戦女神の神殿においても、最奥の『至聖所』に到達し、ケリをつけた。
ここで念の為、補足しておこう。
『至聖所』とは……
宗教的建築物、至聖所すなわち神殿などの要を為す最も神聖な場所の呼称である。
神々を奉った神殿などにおいて、一番奥の部屋のことも指す。
海中の振動が止むと……
ルウ達が今居る少し先に、何だか、おぼろげな輪郭が現れる。
パッと見、どうやら、古めかしい石造りの建物のようだ。
ルウの瞳が意味ありげに細くなる。
『ふむ、海神王の至聖所とは、パンテオンに近いな』
補足しよう。
パンテオンとは、万神殿とも言う。
PANは「全ての」または「全部の」、TEOSは「神」あるいは「神聖なもの」を意味する。
つまり様々な種類や宗派の壁を越え、全ての神々を祭るために建てられた神殿なのである。
『ふっ、何故海神王の神殿がパンテオンなのか、分かった』
『は?』
『海神王とアンピトリテめ、創世神の目をそらす為、自分達以外の神を、
つまり創世神を敬う仕様の神殿を造ったか』
『え? ルウ様。それはどういう事でしょうか? わ、私には皆目……』
『見当がつかないのか? 簡単だよ』
『……………』
『トリトーン、お前の父、海神王、そして伯父の大神はそれぞれ自分が最強の唯一神だと日ごろから豪語していただろう』
『そ、そうです! 伯父は私の父、そして冥界王に勝った事を誇り、神の王として最強だと誇っていましたが、父は母を得て、自分こそが地と海を支配する最強神だと言うのが口癖となっていました』
『ああ、互いに最強神を自称する大神、海神王、ふたりを含め、お前達南の神々は、弱き者達をいたぶる不埒な行いを続けた』
『むうう……』
『その結果、この神殿を造っても創世神の目を誤魔化すことは出来なった。多分、創世神から、何らかの神託があったのだろうよ』
『おお、そ、創世神様から、父と伯父へご神託が!?』
『ああ、今のままなら、神としての資質を大いに疑う、お前達を、一介の精霊に戻すとか言われたに違いない』
『あううう……だ、だが、愚かにも父上、伯父上はっ!』
『ああ、創世神の神託を、どうせ本気じゃないだろうと高をくくり、行いを全く変えなかった……その結果、創世神は天罰を下した。お前を除き、全員が粛清されたんだ』
『て、天罰が!?』
『そして、全て滅びたのだ』
『ほ、滅びた!! す、全て!! あ、うううううっっ!!』
南の神々の一族は滅び、今や自分ひとりだけ……
厳しくも哀しい現実を、再びつきつけられ、トリトーンは号泣したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その瞬間である。
『おほほほほほほほ! 愚かな裏切り者があ!』
先ほど、息子トリトーンの正体を見抜けず、激しく罵った女の声が、
ルウ達の心に響いて来た。
『警告したはずだ! 土足で、神聖な神殿最奥、至聖所へ踏み込みおって! 許さんぞぉ! 死をもって償うが良いっ!』
今や魂の残滓と化したトリトーンの母、アンピトリテ。
その頃には、淡い輪郭だった神殿の最奥、至聖所は、
はっきりと、その姿を見せている。
『見よ、我が魔力を!』
本体無き魂の残滓と化したアンピトリテが叫ぶと、
至聖所から、海中へ激しい水流が噴き出し、大きな渦となった。
女神アンピトリテは、『大地を取り巻く第三の存在』と呼ばれ、大波を起こすとされている。
水流はあっという間に大きくなり、海中を激しく進む奔流となり、更に巨大な渦となる。
『ははははははは! 妾の創りし大渦に飲み込まれ、ばらばらになれぃ! 死ね死ね死ねぃぃっっ!!』
口汚く罵るアンピトリテ。
先ほどといい、今といい優しかった母の変貌ぶり。
トリトーンには、衝撃の嵐が襲っていた。
『や、やめろぉ!! 母上ぇぇ!! やめてくれぇぇ!!』
と、その時。
素早くテオドラの手が伸び、トリトーンの首筋をひっつかみ、
モーラルとともに、ルウの下へ。
ルウは瞬時に、巨大な白い12枚の翼を広げた。
創世神がかつての天使長大魔王ルシフェルに与えた神の御業、
完全な翼……絶対防御の象徴が発動したのだ。
純白の翼は、モーラル、テオドラ、トリトーンを、そしてルウ自身も包み込み、
ひとつの真っ白な塊となった。
そして、モーラル達3人を包み込む。
翼に包まれ……ひとつの『純白の塊』となったルウ達へ、大渦は容赦なく襲ったのである。
『ははははははは! 我が聖なる海神王の神殿を侵す者どもよぉ! 我が大渦に飲み込まれ、ばらばらになれぃ! 死ね死ね死ねぃぃ!!』
先ほどと殆ど同じ、罵詈雑言が残滓となったアンピトリテから、
ルウ達の心へ、大きく大きく響いていたのである。
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