第1,344話 「生涯唯一の嫉妬㉟」
海の王者、大海魔リヴァイアサン。
空の王者、巨鳥ジズ。
念話による『同胞』ふたりの会話を聞いていたモーラルが思い切り笑った。
モーラルの嘲笑を聞き、リヴァイアサンは激しい殺意を込めて憤る。
しかしリヴァイアサンは、ルウにより活動の根幹たる魔力を99%抜かれている。
何も出来ないまま、沈み行くだけだ。
『わ、笑うなっ! な、な、何がおかしいのだあっ!』
対して、モーラルは更に冷たく笑う。
『ええ、ちゃんちゃら、おかしいわねっ。うふうふふふっ』
『ぬ、おおおおおおっっ!! ふざけるなっ!』
『ふざけてなんかいないわ。だって、そうでしょ? あの創世神が原初に創りし、「伝説の3獣」たる大海魔が、ここまで情けない輩とはねっ! ……ねえ、テオドラ、そうでしょ?』
『はい、モーラル奥様、おっしゃる通りですよっ! あはははは』
モーラルだけでなく、テオドラにまで笑われ、リヴァイアサンは煮えくり返るような怒りと殺意の波動を送って来る。
『お、おのれぃっ!! 戯言を言いおってえ!! お、お前らに! ……け、汚らわしい夢魔や、がらくた人形に何が分かるっ! わ、我の忸怩たる思いの何が分かるというのだあっ!!』
『うん、全然分からないわ。そんなの!』
『おっしゃる通りです。全く意味不明ですっ!』
怒りと殺意をぶつけられても……
モーラルとテオドラ平気の平左。
全く動じてはいない。
上空からジズが心配そうな波動を送って来る。
リヴァイアサンが自暴自棄にならないか、心配らしい。
しかしルウは、モーラルとテオドラへ任せるようにとの波動を返した。
ジズは仕方なく、静観するとの波動を発した。
そんな中、モーラルとテオドラから散々煽られ、リヴァイアサンは怒りで、
ただただ唸る。
『くうううううう………』
唸るリヴァイアサンに対して、モーラルとテオドラは全く退かない。
『ええ! 分かりたくもないわねっ!』
『御意っ!』
『こ、このクサレ夢魔めがあっ!!』
モーラルひとりへ、リヴァイアサンの矛先が向いた。
なので、モーラルは何か言おうとするテオドラを制止した。
『ええ、確かに私は夢魔、夢魔モーラル。人間に生まれるはずが、何の因果か、忌み嫌われる夢魔として生まれた。でも……それが何? 誇りを失くし、海神王の使い魔に成り下がった貴女に言われたくないわっ!』
『御意っ!』
『ふ、ふざけるな! 我は海神王ごときの使い魔ではないっ!』
『へえ~、使い魔じゃあなければ、何? しもべ? もしくは奴隷? それとも無抵抗な家畜?』
『いえ、モーラル奥様、単なるからっぽな操り人形でしょう!』
『うぬうぬうぬう!!! 我が動けぬのをいい事に、好き勝手な罵詈雑言!!! 許せんぞぉ!!!』
『ふふふ、へえ、元気じゃない?』
『な、何だと!?』
『それくらい元気が有り余っているのなら、冥界なんかへ逝ってる場合じゃないわ』
『な、何ぃ!!』
『そもそも! 貴女がのこのこ冥界へ逝っても、相手がもう居ないかもしれないわ』
『ぬうう……』
『だって! つれあいさんは既に転生してどっかに行ってるかもしれないじゃない』
『……………』
『あらら、密かに思っていた懸念を衝かれて、黙っちゃった。反撃はここまでなの?』
『うるさいっ! では、我の「つれあい」はどこだ! どこに居るっ!』
『そんなの、分からないわ。私は創世神じゃないから』
『ぬおお、む、無責任なあっ! この夢魔めがっ!』
『無責任って、何、言ってるの。貴女は創世神によって、原初に生まれた大海魔でしょ? ちっぽけな夢魔や人形ごときの「ごたく」につっかかるなんて、器がちっさいわ』
『ぬうう……我の悲しみなど、お前に分かるものかあっ!』
リヴァイアサンの罵りに、モーラルの口調がいきなり凄みを帯びた。
『また、それ? しつこいわね。さっきから分からないって言ってるでしょ』
『な!?』
『リヴァイアサン! 貴女いい加減にしなさい。あんまりガタガタ言うと、コキュートスの絶対零度で永久に凍らせるわよ』
『ぬうう……』
『良い、リヴァイアサン、貴女はね、海神王の結婚の経緯を知り、無理やりの強奪婚だとアンピトリテに同情した』
『……………』
『しかし、あの女神は、葛藤はあったものの、結局は海神王に押し切られて、縛られる事を許容した』
『……………』
『私にはリヴァイアサン、貴女の心が見えるもの』
『……………』
『貴女はね、アンピトリテを何度も助けようとした。けれど、アンピトリテは応えなかった。自身で、自由を放棄したのよ』
『……………』
『貴女は、その事実に気付き、絶望した。良く言えばアンピトリテ見守っていたの。悪く言えば放置したのよ』
『……………』
『そして、アンピトリテは創世神の天罰により、傲慢な夫とともに滅び、この神殿には、魂の残滓として在るだけ』
『……………』
『リヴァイアサン、貴女は本当に良くやったわ』
『……………』
『アンピトリテを救う決意に義理立てして、今までこの神殿の守護者を務めていたから……………』
『……………』
『いいかげん、前を向きなさい、リヴァイアサン。そして改めて貴女の往く道を探しなさい』
『……………』
『貴女の到達点はもう見えている。アンピトリテを救おうとした決意は無駄にはならない』
『……………』
『リヴァイアサン、私達やジズとともに、ルウ様に仕えなさい。貴女が最初に決意した通り、弱き者に寄り添い、可能ならば支えるのです』
ここで、ずっと無言だったリヴァイアサンが言葉を発する。
『……………それでどうなる? その善行を積めば、我は救われるのか? つれあいに会えるのか?』
『何、言ってるの? さっきから言ってるでしょ。私は創世神じゃない。……そんなの分からないわ』
『……………ぬう』
『でも、私も貴女も、……懸命にもがくしかない。自分の道を、自身で切り開くしかない』
『……………』
『弱者に寄り添い、支える。その努力が……いつの日にか創世神に認められ、私は夢魔ではない存在に……転生して、人間になれるかもしれない』
『……………』
『貴女もつれあいも……転生して、世界を滅ぼす海魔ではなくなるかもしれない……一緒に暮らせるかもしれない。むつみあい、子もなせるかもしれない……』
『……ふふふ、懸命にもがくしかない……自分の道を、自身で切り開くしかないか……』
『そうよ!』
モーラルが当たり前というように言葉を戻すと、リヴァイアサンは大笑いした。
胸のつかえが取れたような笑い方である。
『ははははは、夢魔よ。我をわざと我を怒らせたか。ジズの気持ちも汲んで』
『あら? 気付くのがすっごく遅いわよ、原初の大海魔の癖に』
『ははははははは! 分かった。夢魔、いや、モーラルよ。お前の言う通りだ』
『ふふふ、そう?』
『ああ、我もお前のように、懸命にもがき……自分の道を、自身で切り開こう』
『決めたの?』
『ああ、決めた……モーラル、テオドラ、そしてジズ。お前達とともにルウに仕えよう』
その瞬間。
ルウから大量の魔力が送られ、リヴァイアサンの全身がまばゆく光った。
同時に、その巨体がかき消すように見えなくなる。
リヴァイアサンの巨体が、ルウの魔法腕輪へ収納されたのである。
むろん、安全にである。
『モーラル、テオドラ、良くやった。そして、しばらく休め、リヴァイアサン……お前は気持ちを新たにして、出直しだな』
つぶやくルウ、そしてモーラル、テオドラの心へ、
『皆様、ありがとうございます!』
同胞を救われた、ジズの感謝の念が伝わって来たのである。
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