第1,343話 「生涯唯一の嫉妬㉞」
抵抗する間もなく……
ルウに魔力の99%を抜かれ、戦闘不能となり、深き海底へゆっくりと沈み行く大海魔リヴァイアサン。
巨大な口からはドラゴンのような猛炎を吐き、鼻からは漆黒の煙をなびかせる。
全身は鋼鉄をも軽く弾く鎧の如き硬いうろこで覆われており、殆どの武器を受け付けない。
創世神により創られ、人々から恐れられた『強靭な肉体』もルウには全く通用しなかった。
そんなリヴァイアサンへ、大空の王、巨鳥ジズが念話を使い呼びかける。
ジズは……
完敗したリヴァイアサンを何とか説得する。
だから、貴方の麾下へ加えさせてくれと、ルウへ嘆願したのだ。
『リヴァイアサンよ、聞こえるか……この声に聞き覚えがあろう、ジズだ』
創世神が天地創造の際、創ったとされる3つの大いなる存在。
ベヒモスが陸、このリヴァイアサンが海、ジズが空を象徴すると謳われた。
言わば『同胞』からの呼びかけ。
『……………』
しかし、リヴァイアサンは無言。
反応はない。
「聞こえているはずだ」と思いながら、ジズは再び呼びかける。
『私は知っているのだぞ、リヴァイアサン』
『……………』
『強靭なお前が……海神王神殿の守護者となった経緯をな』
『……………』
『リヴァイアサンよ、お前は海神王に屈し、麾下となったのではない』
『……………』
『お前の持つ能力は海神王などをはるかに凌ぐからだ』
『……………』
『お前は海神王の妻、女神アンピトリテの哀れな境遇に己を重ね、同情したのだ』
『……………』
『そのアンピトリテも……創世神様の重き裁きを受け、ちっぽけな魂の残滓と化した。もはや神としての理性、感性は勿論、正気さえも保っておらぬ』
『……………』
『お前は長きに亘り、ここまで良く仕えた』
『……………』
『もう充分だ。お前はアンピトリテへ、充分に義理を果たした』
『……………』
『ルウ様は圧倒的な実力差がありながら、お前を倒しはしなかった』
『……………』
『御業、「抜き身の剣でとどめを刺すことはなかった』
『……………』
『お前は魔力を100%抜かれはしなかった』
『……………』
『禁呪復讐で、魂を打ち砕かれはしなかったのだ』
『……………』
『ルウ様がこの神殿へ赴いた理由、それはお前と同じだ』
『……………』
『お前も知っているだろう?』
『……………』
『南の神々の悪逆非道、傍若無人さを……犯した数々の重き罪を……』
『……………』
『ルウ様は家族となったニンフ達が懇願する声に応え、スキュラ、カリブディスという哀れなニンフふたりの無念を晴らす為に、わざわざ足をお運びとなったのだ』
『……………』
『お前も見ていたはずだ。ルウ様の命令で、お身内のおふたりは、第一の守護者シーサーペント、第二の守護者クラーケンの命を絶たれてはおらぬ』
『……………』
『何故なら……同行をお許しになったこの海域の後継者たるトリトーンへ……亡き海神王とアンピトリテの息子たる者へ……忠実なる従士として託す為に、倒しはしなかったのだ』
『……………』
『お前も同様だ、リヴァイアサンよ』
『……………』
『但し、お前をトリトーンへは引き渡さぬ。彼の従士にはせぬ』
『……………』
『私と同じく……ルウ様に付き従え。忠実な麾下となるが良い!』
相変わらず無言だったリヴァイアサンだが……遂に反応する。
『……………………邪魔をするな、ジズ』
『邪魔だと?』
『我をこのまま、死なせてくれ。敢えて生殺しなどせず、一気にとどめをさすが良いぞ』
『やけになるな、リヴァイアサンよ、………命を投げ捨てるというのか?』
『分らぬのか? ジズ……投げ捨てるのではない……遥かなる地の底へ旅立つのだ。不死故に、死ねなかった我は、ようやく「つれあい」の下へ逝けるのだ』
『うむ、つれあいか……』
『同胞ジズよ、お前は良く知っているはずだ。我が不死となった理由を……な』
『ああ、知っている。お前は元々「つがい」で存在していた。しかし、世界にとって、とてつもなく危険な為、子孫を増やせぬよう創世神様が「ひとり」になるようお決めとなった』
『その……通りだ』
『創世神様により、リヴァイアサンの「雄」は滅ぼされ、「雌」のお前のみが生かされた……その代償として創世神様から、お前は永遠の命を与えられた』
『その通りだ。しかし、そんなものはありがた迷惑……永遠の命など、陳腐でしかない』
『ふむ……陳腐か』
『ああ、我にとって、無為に過ごす永遠の時など一切無用だ』
『……………』
『無敵だった我の身体と魔法障壁を容易く貫き、魔力の殆どを奪ったこの男なら……我の命を奪い、冥界へ送る事が可能だろう』
『リヴァイアサンよ。お前の望みは分かった』
『……………ジズよ、やっと理解し、認識したか』
『ああ、理解し、認識した。だが、しかし!』
『……………』
『望み通り、お前が命を失い、冥界へ行けたとしても、つれあいに会えるとは限らんぞ』
『……………そんな事は分かっておる!』
『……分かっていながら、何故だ?』
『知れたこと……つれあいが居る、深き地の底「冥界」に……同じ魂だけの存在として、居られればそれで幸せなのだ』
リヴァイアサンが自暴自棄かと思えるような言葉を吐き捨てるように言った瞬間。
『あははははははっ!』
冷たく笑うモーラルの声が、その場の全員の心に響いたのである。
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