第1,340話 「生涯唯一の嫉妬㉛」
シーサーペントに続き、第二の守護者クラーケンが現れた。
『いか』のような形状をした足が多数ある巨体が、広大な海中を「ゆうゆう」と泳ぎ、こちらへ向かって来る。
古文書等、伝承によれば、数キロにも及ぶ超巨大な個体もあるというが、
ルウ達の目の前に現れたクラーケンは、全長が50mを超えるくらいの『小型』?だ。
それでも……
先ほど現れた大海蛇シーサーペントを遥かに超える巨体なのである。
『では、今度は私が……』
モーラルは、テオドラとそう体格が変わらない。
表向き小柄な少女のモーラルは「ふっ」と笑い、体内魔力を一気に上げ、すい~っと前に進む。
そしてクラーケンから、約30mくらいの距離まで接近した。
自分へ向かって来た極めて小さな存在――モーラルを認め、海魔クラーケンは何か、口から体液らしき液体を吐き出した。
一説によれば、この液体は魔法薬に極めて近い成分であり、『魅惑』及び『混乱』の効果を併せ持つ。
クラーケンはこれで大量の魚を呼び寄せ、引き止め、混乱させた上で、
自分の『エサ』として喰らうらしい。
モーラルの周囲にクラーケンの吐いた液体――魅惑の『魔法薬』が大量に漂う。
『獲物』として、モーラルを捕らえ、喰い殺すつもりなのだろう。
しかしモーラルは顔をしかめ、呆れて苦笑。
『魔法薬』は全く効果を発揮していない。
アリトンとオリエンスの大気球が包み込むモーラルを守るのと同時に、
そもそも夢魔であるモーラルに、魅惑や混乱の攻撃は一切効かないのだ。
『何それ? 全くの子供だましね……お前の吐くような下世話な魔法薬がこの私に効くと思って?』
数多の獲物をおびき寄せた『魅惑の香料』に取り込んだと思ったモーラルが、平然としているので、「上げて落とされた」クラーケンは相当イラついたようだ。
「ぶわあっ!」と真っ黒な墨も吐き出す。
ただ、この墨も攪乱の為に相手の視界を遮るだけだ。
何か、ダメージを与えるという効果はない。
しかし、これはクラーケンの作戦であった。
いきなり!
長い足が何本も、墨で遮られた向こう側から伸びて来た。
油断したモーラルを掴み、締め付け、致命的なダメージを与えようとしたのだ。
クラーケンが大きな船も軽々と掴み、海中へ引きずりこむのと同じ戦法である。
だが!
伸びて来た何本もの足をモーラルは軽々と躱した。
ギリギリの避け方ではなく、だいぶ余裕があった。
クラーケンが放つ魔力波で、心に浮かぶ意思を読み、攻撃の軌道を読み切ったのだ。
『堕ちたとはいえ、神の神殿の守護者がこの程度なの?』
相変わらず伸びてくる足を避けながら、モーラルは微笑む。
挑発されたと認識したのか、クラーケンは更に「ぶわっ!」と口から墨を吐き、
モーラルに襲いかかって来た。
更にクラーケンは、大きな口で嚙み砕こうと迫る。
海中に大きな水のうねりが生じ、50mの巨体の前で、
モーラルはまるで小さな蝶のようである。
「ふわふわ」とひどく頼りないが、クラーケンの攻撃は全てあっさりと避けられてしまう。
先ほどのテオドラ同様、勝負は完全に見えていた。
数多の強靭な魔物、妖魔、そして冥界に棲む悪魔とも戦ったモーラルにとって、
目の前で暴れるクラーケンの行動は放つ魔力波で丸わかり。
相手は単なる『でくの坊』に過ぎない。
『魔法も使えず物理攻撃のみ、それもこんなにスローでは話にならない……良く分かったわ。そろそろ、お遊びは終わり……かといって、テオドラと同じ事をしては芸がないわね』
モーラルは、己の体内魔力を更に上げる。
そして頃合いと見たのか、
『我が主の名において助力を要請する。水界王アリトンよ、汝、我へ力を与えよ! 嘆きの川の凍てつく水にて、我が敵を縛れ!』
独特な詠唱が神速で発せられた。
『はああっ!』
気合一閃!
モーラルから放たれた眩く輝く魔力の塊はクラーケンに向かい、直進。
その巨体をすっぽりと包み込む。
ぴしぴしぴしぴしぴしぴし!!
50mを超えるクラーケンの巨体が急速に凍り付く。
あっという間に行動不能となり、ゆっくりと沈んで行く。
モーラルが放った魔力は、彼女の得意な水属性の精霊魔法、『大氷結』だ。
ルウが行使する『冥界凍撃破』に比べ、威力はやや劣るが、
彼女の行使する攻撃魔法の中では『最大最強』の精霊魔法である。
『ふっ、今まで出会った守護者に比べたら、全然物足りないわね。……ルウ様が氷漬けにしたタロスの方が何倍も手ごわかった』
とモーラルはつぶやき、更に、
『うふふ、ルウ様……旦那様の命令だから、殺さないわ。ただ氷漬けにしただけ……シーサーペントと同じく、回収をお願いします』
『ああ、モーラル、了解だ!』
モーラルの言葉に応じ、ルウは左腕につけた収納の腕輪を凍り付き沈んで行くクラーケンへ向けた。
間を置かず、腕輪がまばゆく輝き、仮死状態となったクラーケンの巨体は消え失せた。
そう、クラーケンもシーサーペント同様、ルウの腕輪の中へ仮死状態のまま『収納』されたのである。
殺さずに、決戦終了後、クラーケンをトリトーンの忠実な配下にする為である。
『ルウ様、モーラル様……ありがたい! 本当に恩に着ます……』
海神トリトーンは、ルウ、モーラル、テオドラから少し離れた位置で、深く深く頭を下げていたのである。
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