第1,338話 「生涯唯一の嫉妬㉙」
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海神トリトーンを先頭にし、ルウ、モーラル、テオドラは更に神殿の奥へ進んで行く。
ここで念の為、補足である。
海神王の神殿内も海水に満たされている。
ルウ達は、海中に没した神殿内の海水が満ちた中を歩いているのだ。
しかしルウ達は、高貴なる4界王のふたり、
水界王アリトンと空気界王オリエンスふたりの大いなる『加護』を受けていた。
精霊魔法で生成した、呼吸と防御の双方をケアする直径10mほどの球体化した巨大な大気の球が、
引き続き3人をしっかり包み込んでいるのだ。
それゆえ、呼吸には不自由さがなく、円滑に動く事も全く問題はない。
ちなみに、そういったケアが全くなくそのまま進んでいるのは、水中でも生きる術を持つトリトーンのみである。
さてさて!
海神王の神殿内は無人なのか、しん!と静まり返り、攻撃は勿論、罠の気配さえない。
ルウの背後から付き従うモーラルが、そっと話しかけて来る。
当然、念話である。
『旦那様……お気づきになっていますね』
『ああ、当然、気付いているよ』
『どうしてでしょう? 理由が不明です』
『ああ、だがいくつかの推測は出来るがな』
『はい、私も何となく予想はつきますね……何故、ここまで抵抗なく私達は奥へ進めるのでしょうか? 今まではどのような場所にも守護者が居りましたのに』
念話は4者全員の間で共有されている。
テオドラも会話へ参加する。
自分の経験を重ねているようだ。
『モーラル奥様のおっしゃる通りです。今までどのような場所、自然の大地では勿論、このような神殿でも守護者が居り、私達の行く手を阻みました……かくいう私も、悪魔ネビロスに操られていたとはいえ、ガルドルド帝国の遺跡において、守護者を務めておりましたから』
『皆様がご懸念の件……多分、私が原因でしょう』
ここでルウ、モーラル、テオドラの会話へ、トリトーンが加わった。
『かつてこの神殿には、数多の眷属達が仕えておりました。但し、戦闘能力がある者は限られておりました。何故なら、この神殿が強力な結界で守られていたのと、父と母も強大な神力を持っていましたから……まあ、創世神様や天の使徒、そしてルウ様には及ばない力ではありましたが』
『……………』
『眷属で戦闘能力がある限られた者とは……守護者たるシーサーペント、クラーケン、そしてリヴァイアサンの3者です』
シーサーペントとは正体は不明と言われるが、世界中の海に生息するという巨大な海竜か、大海蛇をそう呼ぶという。
身体は細長く、背には海草のようなたてがみがあると伝えられる。
魔法は使わない。
だが、巨大な体躯で航行中の船を攻撃するという。
クラーケンとは『極地』……古代語では『棒』『長いもの』『曲がったもの』を指すという、
巨大なタコやイカといった頭足類の姿をした海獣である。
こちらもシーサーペント同様に、魔法は使わないが、好戦的で長い足を使い、
船を海中へ引きずり込むといわれる。
そしてリヴァイアサンは、『渦巻く』という意味であり、
創世神が天地創造の際に造りし存在だといわれる。
怖ろしく巨大であり、泳ぐと海面が割れ、口から猛炎を吐き、鼻から黒煙を吹き出すという。
身体は固い皮膚に覆われており、一切の武器を受け付けない。
不死であるとも伝えられ、好戦的であり、海洋で起こる災害の元凶であるとして怖れられた。
『守護者は、両親だけでなく子である私を含めた3人にもけして敵対しないよう服従の魔法をかけられていました。なのでシーサーペント、クラーケン、そしてリヴァイアサンは、普段は好戦的な気性を完全に抑えられ、極めて大人しいのです』
『……成る程。この神殿に居る守護者は、シーサーペント、クラーケン、そしてリヴァイアサンか。魔法で制御しているのだな』
『はい、中でも特にリヴァイアサンは、武器で傷つける事は出来ず、更に不死なので倒す事も不可能です』
『ふむ……』
『しかし! 私が居れば、リヴァイアサンを含め、守護者は、攻撃しては来ない。……私がルウ様たちの盾としてこのまま進めば、絶対に安全なのです』
『……絶対に安全……か。果たして、そうかな?』
『え? ルウ様、それはどういう意味でしょうか?』
『先ほど、お前の母アンピトリテは、トリトーン、お前を完全に敵と見なした』
『あ!?』
『俺には、否、俺達3人にも分かる……そろそろこの神殿の回廊が広大な異界に接する。その異界は海洋を模した世界であり、2体の守護者が待ち受けている。そして最奥前に不死と謳われるリヴァイアサンが鎮座しているのだろう』
『ルウ様! お分かりですか?』
『ああ、心を読まずとも、お前が分かりやすい波動を発している。俺達は気配をほぼ消しているが、お前は先ほどから感情を大きく乱した』
『な!? そ、そんな!』
『お前の気持ちはありがたいが……お前は盾どころか、存在が的とされているのさ』
『う、ううう……も、申し訳ございません! わ、私は足手まといなのですね……』
『気にするな。お前のくれた情報が役に立つ。シーサーペント、クラーケンは勿論、リヴァイアサンも俺達の敵ではない』
『ルウ様……』
『俺達は大神の妻の神殿において、不死と言われた大蛇ヒュドラもあっさりと屠っているのだ』
『ヒュ、ヒュドラも!?』
『それに不死と謳われる者も必ず魂を有する。……俺は魂を破壊する魔法を習得している。それゆえ、問題は全くない……さあ、行こう』
『は、はい!』
ルウの言う通りであった。
やがて長き回廊が終わり、その先に大海原が広がっていた。
今は亡き海神王が造りし、『異界』である。
『トリトーン、異界へ踏み入れれば、襲って来る。自身の身は己で守れ……』
『は、はい!』
背後ではモーラルとテオドラが頷いた。
大海原は波立っており、巨大な気配が感じられる。
いよいよ3体のうち、まずは2体の守護者が現れるのだ。
ルウ、モーラル、テオドラ、そしてトリトーンは身構え、体内魔力を上げて行き、
戦闘態勢へ入ったのである。
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