第1,334話 「生涯唯一の嫉妬㉕」
古に滅び去り、深き海中に没したアトランティアル帝国帝都、海神王神殿前。
……30分が経った。
今や魂の残滓と化した海神王と女神アンピトリテの実子、りりしい顔立ちをした男性の人間の上半身に、たくましい馬の前足、巨大な魚の尾を持つ異形の姿をした海神トリトーンと数多の眷属達が待ち受ける前……
ルウ、モーラル、テオドラは消えた時同様、再び忽然と現れた。
神速の転移魔法を使い、行きと同様、瞬時に戻って来たのである。
現れたルウ達3人は柔らかく微笑んでいた。
別に勝ち誇っているわけではない。
アトランティアル帝国帝都の見学を終え、「収穫あり!」という雰囲気なのである。
たった30分と時間は短いが、ルウ達3名で、帝都遺構の簡単な調査をしたに違いない。
一方、トリトーンはルウが放つ強烈なプレッシャーの中に身を置いていた。
「お、おおお……」
先ほどは強がって見せたものの……
上位の海神であるトリトーンの目には、常人では絶対見えないモノがはっきりと見えるからだ。
そう、ルウの背に燦然と輝く純白で巨大な12枚の翼……
創世神直属、天の使徒たる翼でも他にほぼ例がない、完全な翼……である。
大魔王ルシフェルが持つ、凶悪で神々しい12枚の翼にうりふたつなのだ。
呆然としたトリトーンに対し、ルウが淡々と念話で話しかけて来る。
ルウに気圧されてしまった今、トリトーンはただただ畏怖するしかない。
「何とか話す」という感じで、絞り出すようにして、念話で言葉を戻す。
『トリトーン』
『は、はいっ! ルウ様!』
『決心はついたか?』
『つ、つきました!』
『ふむ、で、どうする?』
『や、やはり私を神殿へ連れて行ってください!』
『ふむ……』
『い、いくら変わり果てていたとしても』
『……………』
『私が持つ両親との思い出が、酸いも甘いも全てが壊されたとしても……』
『……………』
『ふたりにひと目だけでも会えれば! さらばと声をかける事が叶えば! 構いません! その覚悟を持ちましたっ! 取り乱したり、自死も絶対に致しませんっ!』
声を嗄らして訴えるトリトーンの放つ波動にやはり偽りはない。
彼の目には涙がたまっていた。
『……………』
『いくら心が揺れようとも、……ど、努力致しますっ! か、必ずっ!』
『……そうか、分かった。トリトーン、お前の父の神殿へ、一緒に連れて行こう』
『は、はい! あ、ありがとうございますっ!』
『トリトーン、お前の覚悟、しかと聞いた。しかし、万が一の場合は容赦なく魔法で取り押さえ、鎮圧するぞ』
『は、はい! 結構です、それで構いませんっ! ありがとうございますっ!』
トリトーンはルウ達へ礼を言い、眷属達へ向き直る。
異形の姿といえる巨大な魚と海獣達は……
トリトーンの背後に控え、ルウと主のやりとりをずっと『心』で聞いていた。
『お前達! 私は父上と母上に今生の別れを告げて来る! そして必ずここへ戻る! お前達の下へ必ず戻るぞ! 戻ったら再びお前達とこの海で、この世界で生きて行こう! 何があろうとも! ともに進んで行こうぞ!』
魂の叫びともいえる、トリトーンの呼びかけ……
巨大な魚と海獣達は、言葉を発する事は出来ない。
しかし、大きな感動と熱い肯定の波動が、トリトーンとルウ達をはっきりと包んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルウ達は再び神殿内部へ入る為、進んで行く。
今度は海神トリトーンを連れて……
とりあえず神殿周囲を一周する。
……出入り口らしきものはない。
しかしどこかに必ず、出入りする扉があるはずだ。
ルウ、モーラル、テオドラは魔法で探知を試みたが……
強力な魔法で封印もされているらしく、反応はわずかだった。
そのわずかな反応がある箇所に、ルウの鋭い眼差しが注がれる。
目には目を歯には歯をではないが……
閉める魔法には開ける魔法で対抗する……
ルウの瞳がそう語っていた。
『ル、ルウ様! お、お待ちくださいっ!』
『どうした?』
『魔法で無理やり開けずとも、私が開けます! 開けさせて頂きます!』
『……ああ、そう言ってくれるのを待っていたよ』
『え? そう言ってくれるのを待っていた!?』
『ああ、海神王神殿の出入り口は、海神王以外、妻アンピトリテと3人の子供達しか開けない。……5名のうち、肉体と正気を保っているのは、トリトーン、お前のみだ』
『ルウ様……』
『言葉ではどうとも言える。しかし俺は敢えてお前の心を読まなかった。数多の眷属達がお前の熱い言葉に心打たれ、感動していたからだ』
『……………』
『最初お前の言葉を聞き、我が妻モーラル、我が妹テオドラは偽りがないと告げた。それが今、証明出来たのだ』
『……………』
『さあ、ともに行こう、トリトーン。お前の両親に引導を渡しに行く』
『は、はい! お供致します!』
トリトーンはそう言うと、前に出て神殿の外壁にそっと触れた。
すると、「ふっ」と外壁が消え、「ぽっかり」と空洞が出来た。
何故なのか、海水は……流れ込まない。
おそらく魔法による仕掛けがあるのだろう。
『私が先導致します! どうぞ、続いてくださいませ!』
深くお辞儀をしたトリトーンは、神殿へ、ためらいなく足を踏み入れたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。
東導号の各作品を宜しくお願い致します。
⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
◎小説書籍版第8巻が2/19に発売されました!《ご注意!第8巻のみ電子書籍専売です》
(ホビージャパン様HJノベルス)
既刊第1巻~7巻大好評発売中!
第1巻から8巻の一気読みはいかがでしょうか。
◎コミカライズ版コミックス
(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)
☆最新刊第5巻が4/27に発売されました!
コミカライズ版の一応の完結巻となります。
何卒宜しくお願い致します。
既刊第1巻~4巻大好評発売中!
コミックスの第1巻、第3巻、第4巻は重版しました!
皆様のおかげです。ありがとうございます。
今後とも宜しくお願い致します。
また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。
コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。
WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。
マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が好評連載中です。
毎週月曜日更新予定です。
お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、連載中である
⛤『外れスキルの屑と言われ追放された最底辺の俺が大逆襲のリスタート! 最強賢者への道を歩み出す!「頼む、戻ってくれ」と言われても、もう遅い!』
⛤『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』《連載再開!》
⛤『絶縁した幼馴染! 追放された導き継ぐ者ディーノの不思議な冒険譚』
⛤『頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのある王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話』
も何卒宜しくお願い致します。




