第1,333話 「生涯唯一の嫉妬㉔」
『トリトーンよ、南の神々が……お前の一族達が、数多犯した罪の重さをしっかりと認識しながら、自身へ与えられた役目を果たすが良い』
そう言い残して、トリトーンと眷属どもを残し、ルウ、モーラル、
そしてテオドラは海神王の神殿へ向け、歩き始めた。
ルウの目の前にたたずむ神殿に、どこにも出入り口らしきモノは見当たらない。
何か、隠し扉等、魔法で仕掛けが施されているに違いない。
手を尽くしてダメならば、破壊するしかないとルウが考えた、その時。
『ま、ま、待て! 頼む! ま、待ってくれぇ!』
何を考えたのか、トリトーンが追いかけて来た。
否、必死に追いすがって来たという雰囲気である。
足を止めたルウ達。
その場で3人は振り返る。
『……トリトーン、まだ何か用があるのか?』
『そ、そうだ! ル、ルウ! お、お前達にお願いがあるのだっ!』
トリトーンの願いとは何だろう?
真剣なトリトーンの表情を見て、ルウはとりあえず話を聞いてやる事にした。
『お願い?』
聞き返すルウに対し、トリトーンが願ったのは、ひどく人間臭い願いである。
『あ、ああ、私をお前達と共に神殿へ連れて行ってくれ! 父上と母上に最後の別れを告げたいのだ』
『ほう、両親と最後の別れか?』
トリトーンが何故、両親――海神王とアンピトリテと、ひと時の再会を望むのか?
その理由はすぐトリトーン自身から語られる。
『ああ、あの滅びの日……眩い白光に包まれ、私は気を失った。目覚めた時、神殿の最奥に居たはずの父上と母上は勿論、聖なる山の伯父上も伯母上も、……神々達同胞は全て消え失せていた』
滅びの日とは……
絶対神『創世神』が南の神々に下した審判の日。
下々を導く役割を忘れ、与えられた力を欲望のままに使い、暴走していた彼らを、
創世神は、殆どを滅ぼしたのである。
『ふむ』
『最初は……何が何だか、わけが分からなかった……ギガントマキアで倒した巨人どもの復讐かと思った』
『………………』
『しばし経ち、それが創世神様による「裁き」だと知った時、私は心の底から絶望した』
『………………』
『創世神様は全宇宙の化身、全知全能の絶対神……その絶対神様から、我が一族は遂に見放された……そう理解したからだ』
『………………』
『父上も母上も、伯父上も伯母上も、同胞は、魂を砕かれ、皆死んだ』
『………………』
『しかし、お前の言う通り、現世にはまだ私を頼りにする大勢の眷属達が大勢居る。だから生き残った私は死んだり、やけになるわけにはいかなかった』
『………………』
『だが、このままでは必ずや後悔する。とても心残りなのだ』
『………………』
『……頼む! 私に、父上と母上との最後の別れをさせてくれ!』
傍らでルウとトリトーンの会話を聞いていたモーラル。
ここで控えめに告げて来る。
『……旦那様、トリトーンは偽りを申しておりません』
更に、テオドラも続く。
『モーラル奥様のおっしゃる通りです。私が感じるトリトーンの魔力も邪なものではありません』
『そうか……』
ルウはじっとトリトーンを見つめた。
対して、ルウを見つめるトリトーンの眼差しは真剣である。
『分かった、トリトーン。お前をともに神殿へ連れて行き、海神王、アンピトリテと最後の別れをさせてやろう』
『お、おお! ありがたい! い、いや! あ、ありがとうございます!』
『但し……条件がある。その条件を踏まえた上で、考えろ。考えた後で、改めてお前の返事を聞きたい』
『じょ、条件? 改めての私の返事とは?』
『ああ、そうだ。先ほども告げたが……神殿に在るお前の両親は、既に魂の残滓に過ぎない。理性を失い本能のみとなっている可能性が大だ』
『理性を失い、本能のみ……』
『海神王も、アンピトリテも……お前が知る生前とは、全く違う醜い姿を見せるだろう。聞くに堪えない暴言を吐き、みっともなく荒ぶる姿を、息子たるお前の前にさらけだすやもしれん。それでも構わないのか?』
淡々と告げるルウの言葉に、トリトーンは身を震わせる。
『ううう! そ、そんな!』
『先ほども告げたが……お前の同胞である大神の妻、戦女神の魂の残滓を冥界へ送った時、両名とも、神たる誇りも理性もなく、ひどく取り乱したのだ。はっきり言って情けない姿だったぞ』
『くうう……』
『それでも、お前は、神のかけらもない魂の残滓となり果てた両親と会うのか』
『………………』
『お前はそんな両親の姿を見て平気なのか? 取り乱したりしないのか? やけとなり、死して、後を追うなどと言わないのか?』
『………………』
『お前が持つ両親との思い出は、酸いも甘いも全てが壊される。その覚悟はあるのか?』
『………………』
『……もしも、自信がなかったり、少しでも迷いがあるのなら、再会するのはやめておけ……』
『………………』
『お前の言う裁きの日に、南の神々はお前以外、天罰を受け、全て死に絶えた。……そう割り切るのだ』
『………………』
ルウが何度尋ねても、トリトーンは無言であった。
『分かった、トリトーン。ほんの少しだけだが、お前に考える時間をやろう』
『わ、私に、か、考える、じ、時間を……くれるのですか?』
『ああ、ほんのわずかだがな……人間の時間にしてたった30分だ。その間に、お前はどうするのか決めれば良い』
『ありがとうございます! お、恩に着ます!』
『仕方がない。俺、妻、妹の3人で、アトランティアル帝国王都遺構の見物でもして来るか。……トリトーン、30分後に、またここで会おう』
ルウはそう言うと、ぱちんと指を鳴らした。
瞬間、ルウ、モーラル、テオドラの姿は消え失せたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。
東導号の各作品を宜しくお願い致します。
⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
◎小説書籍版第8巻が2/19に発売されました!《ご注意!第8巻のみ電子書籍専売です》
(ホビージャパン様HJノベルス)
既刊第1巻~7巻大好評発売中!
第1巻から8巻の一気読みはいかがでしょうか。
◎コミカライズ版コミックス
(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)
☆最新刊第5巻が4/27に発売されました!
コミカライズ版の一応の完結巻となります。
何卒宜しくお願い致します。
既刊第1巻~4巻大好評発売中!
コミックスの第1巻、第3巻、第4巻は重版しました!
皆様のおかげです。ありがとうございます。
今後とも宜しくお願い致します。
また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。
コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。
WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。
マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が好評連載中です。
毎週月曜日更新予定です。
お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、連載中である
⛤『外れスキルの屑と言われ追放された最底辺の俺が大逆襲のリスタート! 最強賢者への道を歩み出す!「頼む、戻ってくれ」と言われても、もう遅い!』
⛤『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』《連載再開!》
⛤『絶縁した幼馴染! 追放された導き継ぐ者ディーノの不思議な冒険譚』
⛤『頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのある王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話』
も何卒宜しくお願い致します。




