第1,332話 「生涯唯一の嫉妬㉓」
海神王の神殿前……
巨大魚、海獣、双方の群れと共に現れたのは海神トリトーンは、
「両親の魂を冥界へ堕とす」というルウからの非情な宣告を受け、ショックからか唸っていた。
ルウの話は更に続いている。
『非情ともいえる処罰にはショックだろうが、実子のお前が現れたからといって、下手に手心を加える事は出来ん。お前の母親の命令でキルケーに猛毒を盛られたスキュラも、大神の妻の奸計に陥れられ、怪物にされたカリブディスも、己が犯した罪を償う為、潔く冥界へ堕ちていったのだ』
ルウの話を聞き、じっと考え込んでいたトリトーン。
だが、キッとルウをにらむ。
『…………おい! 人間の魔法使い、ルウ・ブランデルよ! お前の背に天の使徒たる翼があるといえ、私は絶対に怖れないぞ! お前に何の権利があり、母上を処罰するというのだ』
強がってむやみに責めるトリトーンだが、ルウは呆れて苦笑する。
『はあ? 何の権利? 今更何を言っている』
『な、何ぃ!』
『寝言は寝てから言えよ。その言葉、そのままお前に返してやろう』
『な、なにぃ!』
『お前達、南の神の一族こそ、何の権利があって悪逆非道な横暴の限りを尽くした。どれだけ罪なきニンフ、人間をおもちゃにした? それでいて、何も責務を果たしていない』
『ぬぬぬ……』
ルウの言葉に対し、トリトーンは反論出来ない。
彼自身、父・海神王、伯父・大神の横暴、無理やり父と結婚させられた母アンピトリテの辛さを知っていたからだ。
ルウは更にきっぱりと言い放つ。
『元々お前達は神としては不適格、創世神から任された単なる管理者の立場をわきまえず、己の欲望に任せて暴走した。だから滅ぼされたのだ』
『くうう……』
『トリトーン、お前も良く知っているはずだ。お前の父、海神王は、罪なき巫女メドゥーサを戦女神の神殿で暴行した。そして、天真爛漫なニンフ、スキュラにも色目を使い、お前の母アンピトリテにとって、生涯唯一の嫉妬を引き起こした』
『……………』
『お前は、メドゥーサ、スキュラ、哀れなふたりの女の末路も知っているはず。お前の父は、伯父の大神と並び、とんでもない愚か者だ』
『……………』
『改めて認識しろ。滅ぼすと言っても、お前の両親は既に創世神に粛清されている。大神とその妻もそうだ』
『……………』
『神といえど、全宇宙そのものである絶対の存在、創世神には敵わない』
『……………』
『創世神の御業により、南の神々の魂は打ち砕かれ、不滅のはずだった肉体は完全に消滅した。砕かれた魂の不完全な本体は、既に冥界の底へ堕ち、厳しい罰を受けているのだ』
『……………』
『この地上、現世に存在するのは魂のかけら、残滓にすぎない。俺はその残滓を冥界へ送るだけだ』
ルウが言い放つと、トリトーンはむきになって反論する。
『な、ならば、何故! その魂の残滓まで送る? 単なるかけらなど、大勢に影響はない! 放っておけばよかろう!』
『ふん、何故だと? 大勢に影響はない? 放っておけだと?』
『そうだ! 放っておけ、そっとしておいてやれば良いのだ!』
『愚かな。お前は、虐げられた者の恨みを想像出来ないのか? 俺が救ったニンフや人間は、魂の残滓のまま、昇天出来ず、恨みを持ちながらさまよっていた者も多い。南の神々の魂の残滓が、冥界へ堕ちれば、恨みが消え、満足し、昇天する者も居るのだ』
『ぬうう………』
『と、いう事で、話は終わりだ』
『……………』
ルウからきっぱりと告げられ、 無言のトリトーン。
しかし、話は終わりといいながら、ルウは口を開く。
『南の神々の殆どが粛清されたのに、トリトーンよ、お前は生身の身体のまま、何故生かされているのか、その意味を良く考えろ』
『な、何!?』
ルウの指摘に驚くトリトーン。
『滅せられず、唯一、生かされたお前には、守って行くべき存在があるからだ』
『守って行くべき存在だと?』
『ああ、そうだ。ここに居る者も含め、南の海域の数多の魚、海獣がトリトーン、お前に忠実に付き従っているのだ。彼らをお前は見捨てるのか?』
『う! …………』
先ほどルウ達に襲いかかろうとした巨大魚、海獣、双方の群れは、
トリトーンの命に従い、控えたまま動いていない……
この場の、魚、海獣だけではない。
ルウの言う通り、海神王亡き後は、トリトーンを敬い頼りにしているに違いない。
『絶対の支配者、創世神により両親を失ったお前は、自身が悲しみを、そして弱き者が味わう哀しみも知ったはずだ』
『……………』
『トリトーンよ、南の神々が……お前の一族達が、数多犯した罪の重さをしっかりと認識しながら、自身へ与えられた役目を果たすが良い』
ルウはそう言うと、モーラルとテオドラを促し、その場を離れた。
そして、海神王の神殿へ入るべく歩き出したのである。
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