第1,328話 「生涯唯一の嫉妬⑲」
ルウ達は、高貴なる4界王のふたり水界王アリトン、空気界王オリエンスの加護を受け、海中をぐんぐん進む。
精霊魔法で生成した、呼吸と防御の双方をケアする直径10mほどの球体化した大気が、3人をしっかり包み込んでいた。
やがて……
ルウ達が海底近くへ達すると、巨大な都市の遺構が見えて来た。
現在の建築様式とは全く異なっている。
遥か古の時代に栄え、深い海中へ没して滅んだ、魔法帝国アトランティアルの帝都であった。
帝都民が完全に死に絶え、朽ちた都市の残骸は、今や、巨大な墓標と化していた。
この墓標の中に、ルウ達が目指す、海神王の神殿があるはずだ。
『旦那様、結界が張られていますが、この魔力なら大した事はないようです』
『はい、私テオドラも感じます。簡単に破壊出来ると思いますよ。張り巡らした術者が実体を持たない魂の残滓ならば、神とはいえ、強力な結界も効果は著しく劣化しますから』
『了解、結界を支える魔法水晶を探して、無効化するか、破壊すればOKだな』
『ルウ様、モーラル奥様、魔法水晶の場所を把握しましので、私が破壊して参ります……今日は全く働いていませんから! しばしお待ちをっ!』
気合をみなぎらせたテオドラが、物凄い勢いで海中を降下して行った。
『あらあら、張り切って。可愛いわ』
「ふっ」と笑ったモーラルは、ルウへ向き直る。
『海神王は勿論ですが、アンピトリテの処罰は、いかが致しましょうか? ……同じ女性として、同情すべき部分もあります』
『ああ、海神王から無理やり結婚を迫られ、押し切られた挙句、奴はとんでもない蛮行の連続だったからな……文句なく罰するのは、当然、海神王だ。冥界の底へ叩き込んで、永遠の苦しみを与えてやろう。たとえ魂の残滓だとしてもな』
『では、アンピトリテの処罰も、一応は考慮されますか?』
『一応はな……アンピトリテにとって、スキュラの件は、生涯唯一の嫉妬であろうから……しかし』
『しかし?』
『怪物に変えられたスキュラも、カリブディスも……そして、ラミアもメドゥーサも犯した罪など全くなかった。しかし罪なき第三者を殺めた事で相応の処罰を受けた』
『ですね!』
『……確かにアンピトリテは、第三者に害を与えてはいない。しかし神格の関係から夫の海神王ではなく、被害者であるスキュラへ、理不尽な嫉妬と怒りの矛先を向けた。大神の妻と同じく……冥界行きだな』
『はい……気の毒とは思いますが、冥界へ堕ちたニンフ達同様、アンピトリテには犯した大罪をしっかり認識させ、償なって貰わねばなりません』
ルウとモーラルが話していたその時。
アトランティアル帝国帝都を護る『結界』がパッと消えた!
先ほど赴いたテオドラが、結界を生み出す「魔法水晶を無効化した」か、
「破壊した」のであろう。
『うむ、テオドラ、良くやってくれた。さあ、モーラル、行こう』
『うふ、はい、旦那様』
ルウとモーラルは頷き合い、海底の底、アトランティアル帝国帝都へ降下して行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いくら結界に覆われていたとはいえ……
旧き時代に海中へ没したアトランティアル帝国帝都は完全に朽ち果てていた。
しかしいくつかの大きな建物は、しっかりと形を成し、遺っている。
王宮、官庁があり、ルウ達が目指す神殿もあった。
どれも考古学上、超が付く貴重な遺構だろう。
ルウとモーラルは、テオドラと合流した。
アトランティアル帝国帝都を見ながら……「ふっ」とルウが笑う。
『キルケーの城館同様、ナディアを連れて来れば、躍り上がるだろうな』
『うふふ、ですね!』
『ナディア奥様のはしゃぐお姿が、目に浮かびます』
モーラルとテオドラも微笑む。
ふたりともナディアが、否、家族全員が大好き、愛していた。
各自、長所も短所もある。
それも魅力である。
たまには、真剣に口論もする。
それが却って楽しい。
エーコーのエレナ、ナーイアスのリゼッタは当初、
妖精王オベロンの治める国、アヴァロンへ旅立つという話もあった。
だが……薄幸だったふたりは、ルウを始め、ブランデルの家族の心の温かさに触れ、残留を強く望んだ。
ふたりのニンフは、今や、絶対に欠かせない家族となったのだ。
南の神に虐げられた人々、そしてニンフ達にも、素敵に過ごしていた時間があったはずだ。
それを己の快楽の為、勝手に奪うなど、絶対に許せない。
ルウ達は部外者ではある。
しかし、エレナ、リゼッタと家族になった。
家族は助け合い、生きて行くモノ。
何か問題やトラブルが起こったら、家族全員の力を合わせ、解決する。
まして、ルウは選ばれし第三の使徒、弱き者の守護者なのだから……
降下して行くルウの背にある発光しまばゆく輝く12枚の巨大な翼――
完全な翼、第三の使徒、弱き者の守護者の象徴を、
モーラルとテオドラは、はっきりと、見ていたのである。
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