第1,326話 「生涯唯一の嫉妬⑰」
ぱあああああああああああああん!!!
ぱあああああああああああああん!!!
キルケー城館の大広間には……
モーラルにより、『主』が思い切り両頬を張られる音が二発! 鳴り響いた。
強力な束縛の魔法により、身体の自由を完全に奪われたキルケーは、苦痛の呻き声をあげた。
『ぐうううううっ!!』
『どう? 痛い? 少しは目が覚めた? 心と身体へ後悔が染みたかしら? それとも良心の呵責に苦しみそうかしら? うふふふふ……』
冷たい眼差しを向け、面白そうに笑うモーラル。
対して、キルケーは憎悪の眼差しを向け、ギッと強く睨む。
『ぬぬぬぬぬぬ……ひ、卑怯なあ! 大勢で寄ってたかって、妾、ひとりをなぶり者にしおってえ!』
キルケーの「泣きが入った」物言いを聞き、モーラルはますます面白そうに笑う。
『うふふふふ、大勢で寄ってたかって、妾ひとりをなぶり者? まさに笑止ね!』
『な、何ぃ!』
『数多の人生を奪ったお前に、そのような寝言をほざく資格はないのよ。悪逆の限りを尽くした外道じゃないの』
『妾が、げ、外道だとぉ! ふ、ふざけるなあ!』
『だってそうじゃない? 旅人を歓待するように見せかけておいて、実は怖ろしい偽りの宴を催し……』
『ぬうう……』
『変化の魔法薬を仕込んだ食事で、旅人をおぞましき合成獣に姿を変え、永遠の奴隷としてしまう』
『……………』
『数多の人々の大事な人生を閉ざしておいて、それが外道でなかったら何? 超が付く極悪とか? うふふ』
『こ、この低級な卑しき夢魔めがあ!』
『ふっ、私に対し、偉そうに吠える暇があったら……何の落ち度もない弱き者、虐げられし者へ犯した大罪を償いなさい! 同じく外道な神どもとともに、冥界の底深く、堕ちる覚悟を決めなさい!』
『……ぬおお! 矮小な存在の癖に、好き放題言いおってえ!』
『ふっ、まだ自分の立ち位置が分からないの? お前は哀れな女ね……』
『何? 立ち位置? わ、妾が、あ、哀れだとぉ!』
『ええ、哀れよ。偉そうに「鷹の魔女」だの、どうだのと威張っていても、所詮は南の神々の忠実なしもべ……』
『くうう!』
『虎の威を借る狐の如く、外道な神どもの走狗となり、いいように使われ……』
『ぬぬぬぬぬ……』
『ご褒美に、このようにちっぽけな異界の島を貰い、女王を気取っているとは……笑止以外にどのような言葉が妥当だと言うの? 教えてほしいものね』
モーラルの言う事は真実。
全てが図星である。
しかしキルケーには、「ただ罵るだけ」しか反撃の方法はない。
『くくく……卑しき夢魔如きがあ! 次から次へとあしざまに! な、生意気を抜かすなあ!』
『ふっ、確かに私は卑しき夢魔……お前から見れば、低級とさげすみ、忌むべきだけの存在かもしれない。……でも、はっきり言えるわ』
『何をだあ! 何をはっきりと言うのだあ!』
『偽りの家臣しか居ないお前と違い、私には心から愛し合い、信頼する家族と仲間が居る』
『夢魔のお前に、愛し合う家族だとぉ! 信頼する仲間だとぉ!』
『ええ、愛する旦那様が、慈しみ合う姉妹が、支え合う仲間がね、居るのよ』
『くうう! ふざけるなあ! 低級があ!!』
もう何度、キルケーの叫びを聞いただろうか……
モーラルはキッと強い視線を戻し、きっぱりと言い放つ。
そろそろ『クロージング』だという雰囲気だ。
『全然ふざけてない。それに私は忙しいの。お前と遊ぶのもそろそろ時間切れ、旅立って貰うわ』
『な!? 時間切れ! ?旅立つだと!?』
『聞いてなかったの? ……お前が旅立つ先は、お前も良く知る地の底……冥界よ』
『ま、待て! 妾を冥界へ送っても無駄じゃ! 現世と、自由に行き来出来るのじゃぞ!』
『うふふ、ですって、旦那様』
『ははは、お前には、先ほど冥界へ返した配下と同じ姿で冥界へ送ってやる。魔力を封じてな』
『な!? 妾の魔力を封じる!? ふ、ふざけるな!』
『俺もモーラルもテオドラもふざけてなどいない。既に判決は下っている』
『は、判決が下っているだと!?』
『ああ、キルケー! お前は鷹から、冥界の住人『飛べないハルピュイア』となり、死肉を喰らいながら、永遠に冥界を回るがよい』
『な、何だと!?』
『冥界の門から入り、アケローン川をカロンの船によって渡り、第二圏 愛欲者の界域、第三圏 貪食者の界域、第四圏 貪欲者の界域、第五圏 憤怒者の界域、第八圏 悪意者の界域、そして最後は第九圏 裏切者の界域だ。もう二度と現世には戻れない。楽しいツアーになるだろう』
『や、やめろぉ! そんなツアーへ行ったら、正気でなくなるっ! 妾が妾ではなくなってしまうぅ!!』
『ははは、お前が散々やって来た事が返ってくるだけ! まさに因果応報だな!』
『ま、待てぃ! わ、わ、妾を冥界へ送れば! 海神王の神殿の所在が不明となるぞぉ!』
あがくキルケーは、大声で叫ぶが、ルウは冷たく笑う。
『大丈夫! 先ほどお前が魂をさらけ出した時、しっかり教えて貰ったよ』
『な!?』
キルケーが驚いた瞬間!
ルウの指が「ピン!」と鳴らされる。
と同時に、キルケーの姿が変わった。
醜い人間の顔に、背にはコンドルの羽根、脚には鷲の爪を持つ合成魔獣
『ハルピュイア』の姿へ変わったのだ。
無詠唱、神速で行使された変化の魔法である。
ぎゃう!ぎゃう!ぎゃう!ぎゃう!ぎゃう!ぎゃう!ぎゃう!ぎゃう!
抗議するように、わめくキルケー。
『さあ、キルケー、めくるめく非日常な、無期限の冥界ツアーへ出発だな。お前と同じく俺も変化の魔法が得意なんだよ』
ルウはそう言い、軽く息を吐く。
『お前の魔法を封じ、魔力、飛翔能力は取り上げておいたからな!』
ルウは突き放すように告げ、再びピン!と指を鳴らした。
すると、「ふっ」とキルケーの姿が消えた。
彼女は己の大罪を償うべく……永遠に帰らざる旅路へ、赴いたのであった。
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