第1,325話 「生涯唯一の嫉妬⑯」
悪しき魔女キルケーの口から、次々と明かされる衝撃の事実……
ルウ、モーラル、テオドラは、厳しい表情で聞き、見守っている。
モーラルとテオドラへ目くばせしたルウ。
ひと通り、キルケーに白状させる間、口をはさまないようにという合図である。
ルウの魔法で、魂を囚われたキルケーは……
今までの高慢な態度が嘘のようになった。
「途切れ途切れ」にだが丁寧に、淡々と話し続ける。
『……スキュラは可憐で健康的で……とてもはつらつとした魅力的なニンフでした。彼女に愛をささやき……求婚する男は数多居ました。しかし……恋愛や結婚に全く興味のなかったスキュラは……その一切を……断っていたのです』
『……………』
『愛をささやく男の中には……海神王も居ました。彼は愛妻アンピトリテの前でも……スキュラの名を四六時中……口にしていました。寝ても覚めても……いかなる時でも……です』
『……………』
『そもそも……絶世の美女神アンピトリテへ……無理やり求婚し……何度も断られた挙句、しぶしぶ結婚して貰ったのは……海神王の方なのです……』
『……………』
『そこまでした結婚し、出来た妻に無理を頼み……愛と感謝をすっかり忘れ……海神王は次々と愛人を作ります。……ミノス王の娘・エウリュアレと通じ……戦女神の巫女メデューサを襲い……数多のニンフを口説き……何と、実の姉にまで色目を使います』
『……………』
『そして海神王は……スキュラに「本気」となってしまったのです』
『……………』
『度重なる浮気が今度は本気に……ずっと耐えて来たアンピトリテは……遂に我慢の限界に達しました』
『……………』
『アンピトリテの……生涯唯一の……嫉妬と言って良いでしょう』
『……………』
『……出来た妻の凄まじい怒りに……さすがの海神王も、これはまずいと狼狽し……ひたすら謝罪し、何とか……事なきを得ました』
『……………』
『しかし……海神王は……スキュラを諦めきれず、グラコスという元人間の海神をダミーとし……スキュラを口説かせようとします』
『……………』
『醜い……怪物の如き海神グラコスを送り込み、悪役的、引き立て役な存在とし……海神王は、頃合いを見て……正義の旗を振りかざした白馬の王子然として登場し……スキュラの心を捉えようとしたのです』
『……………』
『その奸計を立てたのは……何と海神王の兄、大神でした……大神もスキュラへ対し、下心があったのです……』
『……………』
『スキュラを……弟と共有の……愛人にしようと……考えたのかもしれません』
『……………』
『大神が……海神王へ入れ知恵をした事を知った大神の妻は……「妻同士で……助け合おう」と……巧みな弁悦を用い、結託を……申し入れます』
『……………』
『大神の妻から……夫・海神王の奸計を聞いたアンピトリテは……激怒しました。さすがに凝りて……改心したと……思っていたからです』
『……………』
『そして、アンピトリテは……大神の妻の怖ろしい誘いに……乗ってしまいました』
『……………』
『怖ろしい誘いとは……夫である大神、海神王を戒めるのではなく……猛毒を盛り、スキュラを、怖ろしい怪物にして……大神、海神王の関心を消失させようという……とんでもない……計画でした』
『……………』
『……その実行役を、ふたりの女神から命じられたのが……この私、キルケーでした』
『……………』
『私は……スキュラの行動を調べ上げ……と、ある泉で水浴びをする予定を聞き……先回りして……調合した……秘伝の魔法薬を入れました』
『……………』
『何も知らず、泉へ入ったスキュラは……もがき苦しみ……上半身は見目麗しき女性で、下半身は鱗だらけの魚……腹部からは3列に並んだ歯を持つ……6つの犬の前半身が生えた……奇怪な姿と化しました……』
『……………』
『醜い怪物と化したスキュラを見て……大神、海神王の関心は消失しました。こうして……女神ふたりの計画は……見事成功したのです』
『……………』
『ルウ様……私の話は……以上です』
キルケーの話は終わったようである。
今まで重ねて来た人間を合成魔獣へ変貌させ、奴隷とした、とんでもない悪行……
また。ふたりの女神の走狗となり、罪なきスキュラを怪物にした大罪……
どれもが、けして許されるモノではない。
ここでモーラルが「はい」と手を挙げる。
『旦那様』
『おう!』
『誠に子供じみてはおりますが……私のお願いをひとつお聞き届けください』
『分かった、モーラル、言ってくれ』
『はい! 南の神どもの走狗に過ぎませんが、傲慢な態度で虎の威を借るこの女の……魔女キルケーの両頬を思い切り、私に張らせてください』
『ほう……』
『一寸の虫にも五分の魂……小さく弱い者にも、それ相当の意地や根性があります。また、一矢報いるという言葉もあります。大勢は変えられないまでも、反撃・反論するという意味です』
『ああ、そうだな』
『時は戻らず、理不尽に虐げられた者は、けして元の幸福には戻れません……一寸の虫たる私モーラルは弱き者、虐げられし者の代表として、亡きスキュラ、カリブディスの為、この女に一矢報いたい』
『分かった……冥界の底へ送る前に、思い切り、キルケーの両頬を張るが良い』
ルウは頷くと、ピン!を指を鳴らした。
瞬間、キルケーがはっ!とした。
どうやら虚脱状態が解け、正気を取り戻したらしい。
そして「つかつか」と近付くモーラルを見て、ひどく怯えた顔つきとなる。
どうやらルウとモーラルの会話が聞こえていたらしい。
『束縛!』
すかさずモーラルが魔法を発動、キルケーの自由は奪われた。
冷たい眼差しをキルケーへ送りながら、モーラルはどんどん近付いている。
準備運動の如く、片手を「ぶんぶん!」振っている。
『や、やめろぉ!』
必死のキルケーの懇願はスルー。
ぱあああああああああん!!!
ぱあああああああああん!!!
キルケーの城館の大広間には……
モーラルにより、『主』が思い切り両頬を張られる音が二発! 鳴り響いたのである。
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