第1,322話 「生涯唯一の嫉妬⑬」
ルウが、悪しき魔女キルケーへ見せる『余興』とは一体、何なのか……
渋々OKしたキルケーであったが、ルウは更に言う。
『俺達にとっては単なる余興だが……キルケー、お前にとっては覚悟を決める特別なイベントだぞ』
『ほう、覚悟を決める? 特別なイベントだと? 妾にとってか?』
首を傾げ、訝しげな表情を浮かべるキルケー。
ルウは頷き、柔らかく微笑む。
『ああ、そうだ、キルケー。再び問うぞ、お前は覚悟を決めるのか?』
ルウの念押しを聞き、キルケーは高らかに笑う。
『ほほほほほ、いきなり覚悟を決めろと言われても皆目見当がつかぬ。構わぬからやってみせい!』
『おお、構わないのか? そうか? じゃあ、問題なくGOだな?』
笑顔のルウはそう言うと、ピン!と指を鳴らす。
瞬間!
強い魔力が、ルウから放出されたのを誰もが感じた。
しかし室内には何も変わった事は起きては、いない。
キルケーは、少し余裕が出て来たようである。
『ほう、ルウよ、何か魔法を使ったのか? ……ん? 何も起こらんではないか?』
『はは、そうかな?』
キルケーから問われ、ルウは曖昧に笑った。
『……む! な、何ぃ!』
『はは、ようやく気付いたか?』
驚愕し、大きく目を見開いたキルケーの視線は、窓から屋外へ向いていた。
そう、彼女の愛しい家臣達……否、しもべどもがどんどん消え去っているのだ。
また不可思議な事にただ消えるだけではなかった。
牛頭人身のミノタウロスが、獅子の胴と人間の顔を持つマンティコアが、
獅子の頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つキメラが……
そして雄鶏の頭と蛇を合わせた姿のコカトリスら合成魔獣が……
全て、おぞましい姿が人の姿に変化し……満ち足りた表情で、消えて行くのだ。
『な、何だ!? 妾の変身魔法が!? いとも簡単にや、破られた!? そ、そして! み、皆! き、き、消えて行く……』
驚嘆するキルケーに、ルウがきっぱりと言い放つ。
『ああ、そうだ。お前が欺き、おぞましき虜囚としたのは、皆、古に生きた者達だ。人の子の寿命はざっと100年、とっくに生命は尽きている』
『ル、ルウ!! き、貴様あ!!』
『ああ、お前の推測通りだ。俺が変身の魔法を解き、しかるべき姿に戻した。当然皆、寿命が尽きている。魔法が解けたと同時に昇天か、犯した罪があるのなら冥界へ堕ちる』
『ぬうおおお!』
『はは、唸ってる暇があるのか? ほいっと!』
ルウは「にやっ」と笑い、再び、ピン!と指を鳴らした。
すると!
今度は、室内に居並ぶ麗しきメイド達が、次々と消えて行く。
庭の合成獣同様、一旦人間の美しい淑女、少女に戻り、瞬時に消えて行くのである。
しかし、遂に解放されると認識しているのであろう。
消えてゆく『家臣』全員の表情は、いかにも満足という趣きで晴れやかであった。
やがて……
居並ぶ大勢のメイド達は、全員が消え失せた。
重厚な城館の豪奢な大広間は、一気に「がらん」としてしまった。
ルウ達以外は、『キルケーたったひとり』となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『はは! キルケーよ、どうだったかな? 俺達の余興は?』
『ぬうううう! よくも! よくもぉ!』
現世に通じる魔法扉を破壊され、迎撃に出したハルピュイアを全滅させられ……
今度は忠実な家臣を全員、人間に戻され……昇天させられてしまった。
ルウ達から一方的にやられっぱなしのキルケー。
マグマのように吹き出る憎悪の感情から、その美しい表情は憤怒の鬼と化している。
だが同時に、ルウの恐るべき魔法に対して臆し、畏怖の感情も隠せない。
何せ、これだけ高難度の魔法を家臣全員へ無詠唱で、それも神速で発動させ、
全てを成功させたのだから。
比喩の仕方が妥当ではないかもしれない。
しかし!
ルウ達の前でキルケーは、まさに蛇に睨まれた蛙であった。
ここで、ルウが呼びかける。
『おい、キルケー』
『……………』
しかし、キルケーは無言であった。
ただただ、畏怖するあまり、顔色が青ざめ、美しい唇がわなわなと震えている。
『どうした? 返事をしろよ』
『むうう……』
『まあ、良い。一方的に言うぞ。お前には全ての事情を話して貰う。カリブディス、スキュラに対し、行った事を全てな……そして裏で、こそこそ糸を引いた南の神々の事も全て吐いて貰う』
『……………』
『もしも言わないのなら、俺が魔法を使う。お前の魂へ直接聞くだけだ』
『……………』
『カリブディス、スキュラは無実だ、元々罪はない。しかし彼女達は汚い謀略、理不尽な逆恨みにより、醜き人喰いの怪物とされてしまった』
『……………』
『しかし、ふたりとも理由はどうあれ、人間を喰らった罪を素直に認め、潔く冥界へ堕ちて行ったのだ』
『……………』
『お前も同じだ、キルケー。いかに南の神々に命じられただけの走狗といえど、犯した罪は絶対に許されない。しっかりと償って貰うぞ』
『……………』
ここで、ルウから「信じられない提案」が出る。
『但し、キルケー。お前がせっかく作ってくれたこの料理は、喜んで馳走になろう』
キルケーは魔法薬キュケオーンの入った料理を客に食わせ、おぞましい姿に変えて来た。
ルウは……何と! それを知った上で料理を食するというのだ。
『ほ、ほう! そ、そうか! な、ならば妾自ら、給仕をしてやろうぞ!』
最後の……大逆転のチャンス!!
そう強く思ったに違いない。
大声で叫んだキルケーの両目は真っ赤に血走り、ギラギラと輝いていたのである。
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