第1,320話 「生涯唯一の嫉妬⑪」
ルウ達は襲来したハルピュイアの襲撃を軽く一蹴した。
現世とつなぐ扉を破壊した上、配下をも倒したルウ達。
悪しき魔女キルケーは怒り心頭のはずだ。
しかしアイアイエー島は極めて静かである。
高位の術者が用いる、広範囲の魔法障壁も島全体どころか、一片さえ張り巡らされてはいない。
『ふっ、もしや誘っているのか、俺達を』
『うふふ、誘っている……そうかもしれません、ワンパターンの偽りたる饗応の宴をもうけて』
『はっ、私もおふたりに同感です。卑怯なキルケーの常とう手段ですね』
ルウ達の言う通りだ。
魔女キルケーは『家臣』という名の『奴隷』を増やす際、巧妙な罠を仕掛けるという。
魔境アイアイエー島へ誘い込んだ『ターゲット』を饗応し……
飲食物に秘密の魔法薬を混入するのだ。
そして『ターゲット』が飲食終了に、愛用の魔法杖で「びしっ!」と打ちすえる。
すると『ターゲット』は抵抗する間もなく、否応なく動物に変身させられてしまう。
そして容姿だけでなく元の性格を全く変えられ、従順となり、キルケーの指示に絶対服従するというのだ。
キルケーの住まう城館の周囲には……
彼女の好みで魔物や動物に変えられた人間が数多居るらしい。
『ははっ、俺達をそのコレクションに加えるつもりか?』
『ですね。事前に罠だと分かっていても、キルケーと取り巻きの丁寧な物腰と美貌で誰もが魅了され、騙されてしまうそうです。まあ旦那様は引っかからないでしょうが』
『でも! 楽しい食事を罠にするなんて! ふざけていますね! 奴が笑って開けた口の中へ、爆炎の魔法でもぶち込んでやりましょうか?』
『ははは、まあ待て、テオドラ。実行犯のキルケーからは、いろいろ裏を取らねばならない。お仕置きするのは、言質を取ってからだ』
『さあ、アイアイエー島へ降下致しましょう。敵の攻撃には充分注意しながら』
『モーラル、テオドラ、俺の傍に寄れ、3人一緒に降下するぞ』
『ありがとうございます、旦那様。完全なる翼でお守りくださるのですね』
『お、おお! 絶対防御の翼で』
『……これは踏み絵だ。降下する俺達へ、攻撃するようであれば……容赦はしない。だが、宴を開き話したいというのなら、犯行を実施した理由だけは聞いてやろう』
『ふふふ、キルケーは走狗、南の神々に顎で使われた単なる実行犯ですからね』
『そうでした!』
モーラルとテオドラは、嬉しそうにルウへ寄り添った。
肉眼では見えぬ、巨大な12枚の翼が3人をそっと包んだ。
完全なる翼は、ルウとルシフェルが有する創世神の御業、いかなる攻撃も受け付けないのだ。
『さあ、行こう、アイアイエー島へ』
『『はい!』』
ルウが促し……3人はゆっくりと、眼下のアイアイエー島へ降りて行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アイアイエー島の中央やや後方にキルケーの住まう白亜の城館がある。
城館の前には大きな庭園があり、一面に青々とした芝生が広がっていた。
庭園の真ん中には噴水があり、勢いよく水を噴き上げている。
ルウ達はゆっくり庭園の芝生へに降りた。
やはり『抵抗』はない。
魔法障壁も張り巡らされず、迎撃もない。
但し、歓迎しているというわけではないだろう。
最初から恭順の意を示すならば、ハルピュイアに襲撃させたりはしない。
庭園は無人である。
そう、人間は居ない。
代わりに人間のなれの果て……「変化させられた者達」が、ルウ達を威嚇していた。
彼らは伝承通りのまともな『動物』ではない。
すべてが合成魔獣である。
先ほどの鳥の合成魔獣ハルピュイアと同じく、様々な動物を合成したおぞましい姿である。
牛頭人身のミノタウロスが居た。
獅子の胴と人間の顔を持つマンティコアが居た。
獅子の頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つキメラが居た。
雄鶏の頭と蛇を合わせた姿のコカトリスも居た。
全ての合成魔獣は侵入したルウ達をはっきり『敵』とみなし、鋭い視線を送り、殺気のこもった唸り声をあげ、威嚇していた。
だが、ルウ達は全く臆してはいない。
『成る程。さっきのハルピュイアが空の番人、コイツらは陸の番人というわけだ』
『ですね、旦那様! 変身解除、そして葬送魔法の行使が適正だと思います』
『私もモーラル奥様と同意見です。彼らは皆、古代人。魔法が解除されれば瞬間に寿命が尽きて死にますから』
『よし、じゃあ準備運動パート2って事でいっちょうやるかあ!』
キルケーが施した変身魔法は、魔法薬を用いたものだ。
変身を解除する際も、解呪の魔法薬が必要だと言われている。
しかしルウ達は、単純に魔法だけで変身を解くつもりだ。
そして哀れな犠牲者達も、昇天させると決めていた。
と、その時。
ごごごごごごごご!
白亜の建物の巨大な扉が重い音を立てて開かれた。
そして、凛とした声が庭園に響き渡る。
「待つのじゃ!!」
開かれた扉の向こうには……
豪奢なドレスに身を包んだ美しく妖艶な貴婦人が、はべらせた、たおやかな侍女達と共に立っていたのである。
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