第1,317話 「生涯唯一の嫉妬⑧」
しばし号泣した後、鳴き声が嗚咽と変わり……
スキュラは「ぽつりぽつり」と語り始める。
『私とカリブディスは、怪物へ貶められた事情、経緯は全く同一ではない。だが、何も罪がないのに、辛い境遇に堕とされたのは同じなのだ……』
『うむ、そうだな』
『数多居た友たちも、怖ろしい呪いの魔法薬により、おぞましい怪物に変えられた私を忌み嫌い、またはひどく怖れ、次々と離れて行き、最後には誰も居なくなった。最後に私の友となり、最後まで一緒に居てくれたのは、同じ境遇に陥ったカリブディスだけだった……』
『そうか……』
『以来、カリブディスとは、この海域でお互いに励まし合い、心の絆を結び、深く友情を育んでいた』
『ああ、カリブディスもそう言っていたよ。自分とスキュラは、互いの境遇を嘆き、心の声を掛け合う事で支え合っておりましたとな』
カリブディスの言葉をルウがそのまま伝えると、スキュラは大きく反応した。
『そ、そうです! そうなのですよ!』
見下ろすようなスキュラの、尊大な物言いが変わっていた。
まるで、素直な少女のようである。
ルウは更にカリブディスから聞いた話を続ける。
『だが、ある日、ふたりともいきなり意識が飛び、気が付いたら話をする事が不可能となっていたとも言っていた』
『え、えええ!……………』
『お前達の意識が飛んだのは、南の神々が創世神により滅ぼされたタイミングだな。彼らの御業により為された事象が善も悪も全てが無となった。それゆえ、お前達もともに消滅したのだ』
ルウがカリブディスの言葉の『裏付け』を伝えると、スキュラはより感情を露わにする。
『ああ、そうだったのですか! ああカリブディス! 一度でいいから! また貴女に会いたいわ! ルウ! い、いえ、ルウ様!』
『何だい?』
『これから私は冥界へ堕ちる……これは間違いない事ですよね?』
『ああ、間違いない』
『で、では! 私も親友カリブディスと、彼女と同じ領域へ堕ちる事もあるのでしょうか? いえ! 同じ場所へ一緒に堕ちたい!』
スキュラの切なる願いに対し、ルウはカリブディスへ答えたのと同じに告げるしかない。
『いや、済まないが、俺には分からないとしか言えない』
『そう、ですか……』
『ああ、お前達ふたりは人間を喰い殺した罪は同じだが、カリブディスには大食の罪で、第三圏貪食者の地獄へ堕とされる可能性がある。貪食者の地獄は魔獣ケルベロスに引き裂かれ、泥濘でのたうち回るのだ』
『で、では、私は? ど、どこへ!? 行くのですか?』
『多分だが、第七圏暴力者の地獄だろう。他者に対して暴力をふるった、つまり殺した罪で堕とされる場所だ』
『な、成る程! で、では! 私とカリブディスは、第七圏でまた会えるかもしれないのですね』
『ああ、可能性はゼロじゃない』
『あ、ありがとうございます!』
『カリブディスへも伝えたが、お前達の行く末に関して、俺達は祈るしかない。ニンフに転生出来るとも限らないぞ』
『いえ、カリブディスからの温かい伝言を頂戴しただけでも、明るい希望を持てました。私は犯した罪を償ってから、胸を張って転生し、新たな人生へ踏み出します』
恋愛より『友情』を大切にするスキュラは、カリブディスの気持ちを聞き。
元気が出たらしい。
はっきりと言い放った。
そして更にスキュラは願う。
『ルウ様、私もカリブディスと同じように送ってください! 宜しくお願い致します!』
『分かった! スキュラよ、お前の覚悟、しかと聞いた。地縛を解き……仮初の天へ送ろう。冥界へ堕ちる前に、お前の元の姿も見せよう。……カリブディスも己の元の姿を見て、満足して逝った』
『はい! ぜひ! お願い致します!』
『うむ、それと無実のお前が受けた辛さ、苦しみは幾倍にもし、返してやる……陰でこそこそ画策し、お前を怪物へ貶めた元凶たる海神王以下、邪悪な者どもへな! だから安心しろ!』
『はいっ!』
『それと、この問いもカリブディスへも尋ね、彼女からお前にも聞くように言われた。お前に毒を盛った悪名高き魔女、キルケ―が住まう島アイアイエーの場所を知りたい。……教えてくれるか?』
『はい! 存じております! 憎き相手でございますから!』
『うむ!』
『南の孤島アイアイエーは現世には存在しません』
『そうか!』
スキュラの答えはカリブディスと同じだ。
しかしルウはただ聞いて、短く答えた。
モーラルとテオドラも無言だ。
スキュラは更に言う。
『アイアイエーへの扉がある海域がございます! 今から申し上げます!』
ルウ達は、スキュラからも、とある海域を告げられた。
そしてアイアイエーへ開く扉の合言葉も。
両方とも、カリブディスから聞いた内容と一致した。
間違いない……だろう。
『分かった! それと最後に聞こう。今回お前達の事はエーコーのエレナ、ナーイアスのリゼッタから頼まれた。カリブディスはお前と同じく、ふたりと面識はなかったが、伝言を残した。お前も何か伝言があれば聞こう』
『はい! では私も! カリブディスと同じく、エレナとリゼッタへ伝言をお伝えください。お気にかけて頂きありがとうと。幸せに暮らしてとも……』
『……ああ、分かった。必ず伝える』
『はい、ありがとうございます!』
『……では地縛を解こう。それと地縛から解放される瞬間、お前は元の姿になれるぞ』
『おお、それは!! 本当に本当に嬉しいです。だけど自分で自分の姿を見る事が出来ません。それだけが残念です!』
『……安心しろ。カリブディスも同じ心配をしたが対処した』
『対処?』
『ああ、幻影となるが、お前の姿をこの海上にはっきりと映してやる。旧き思い出に抱かれながら旅立つが良い』
『あ、ありがとうございます! カリブディスが感謝して逝くのが目に浮かびます! ルウ様と皆様へ深く感謝致します!』
『うむ、では行くぞ!』
『はい! お願い致します!』
『ビナー、ゲブラー、我は知る! 大いなる神よ! 冥界の監視者たる忠実な御使いに理を託し、現世に彷徨さまよえる魂の欠片に新たなる旅の祝福を! 彼等に行くべき途を示したまえ!』
言霊を詠唱するルウの身体が、魔力波で眩く輝いている。
『昇天!』
『あああああああああ……………』
ルウの『決め』の言霊が響き渡った瞬間、スキュラの残滓が歪んだ。
そして、歪んだ残滓の対面。
晴れ渡った大空の下、青い海上にカリブディスとはタイプが違う、ひとりのニンフが立っていた。
活発そうでいかにも健康的。
金髪ショートカットに青い瞳を持つ美少女だ。
カリブディス同様、怪物と化す前のスキュラ本来の姿が、
ルウの魔法により『幻影』となって現れたのだ。
『ああ! 確かに! 昔の私です! ありがとうございます! あの頃は自由にのびのびと暮らせて、毎日がとても楽しかった! さようなら! ルウ様、モーラル様、テオドラ様!』
ぼしゅ!!
ルウ達の名を呼んだ瞬間。
スキュラの魂の残滓は、カリブディスと同じように、冥界へと旅立っていたのである。
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