第1,314話 「生涯唯一の嫉妬⑤」
南の神々の謀略により怪物に変えられた元ニンフ、ナーイアスのカリブディスは……
しばらくの間、泣きじゃくっていた。
やがて、カリブディスは、号泣から、小さな嗚咽を漏らすようになった……
少しずつ気持ちが落ち着いてきたらしい。
頃合いと見たルウが尋ねる。
『理不尽さは分かる。納得がいかないのも当然だ。しかし不可抗力とはいえ、お前は数多の人間を殺めた。残念だが、犯した重き罪により、冥界へと堕ちる』
ルウから非情な宣告を聞いたが、カリブディスは達観しているようだ。
『厳正なる処罰、……………当然、覚悟しております、ルウ様』
『カリブディスよ、間違いなく処罰はされる。但し、大神の妻のように未来永劫、暗き闇の底へ閉じ込められるわけではない』
『え!?』
『冥界へ堕ち、数百年か、数千年か、数万年後か……いつになるのか、はっきりと約束は出来ないが、いずれ、お前は転生し、人生をやり直す事が出来るだろう』
『いずれ私が転生!? ほ、本当ですか!?』
驚くカリブディスに対し、
『ああ、転生した際、元のニンフに戻れるかどうかは分からない。俺が決める事ではない、創世神の御心という事だ』
『あ、ああ! ありがたい! 二度と出られぬ深き冥界の闇の底などに堕ち、沈みたくない! もし現世に戻れるのなら、小さな虫けらでも構いません!』
『分かった。ならば俺も心おきなくお前の地縛を解く事が出来る』
『はい、存分に……お願い致します』
『そして……』
『……………』
『大神の妻により、お前がどうして大食の本能を極端に肥大化されたのか? という理由に関しては、俺も分からない……推測はしているが、これから調べる』
『そ、そうですか』
『安心しろ。俺はお前達の仲間であるニンフを何人か助けた。中には大神の妻が黒幕の事件もいくつかあった。それゆえ奴の残滓を冥界に叩き堕とした』
『……………』
『今回も一緒だ。外道の大神は勿論、悪いがお前の父海神王。及びその妻アンピトリテもきっちりと罪を償わせる』
『……………分かりました』
『……ところで、カリブディス。地縛を解く前に、お前には尋ねたい事がある』
『な、何なりと』
『長きに亘り、海に縛られていたお前に聞きたい。悪名高き魔女キルケ―が住まう島アイアイエーの場所を知りたいのだ』
『ま、魔女キルケ―の住まう島アイアイエーですか……成る程。ルウ様のお考えが……分かります』
『分かるか?』
『はい! 私と同じく怪物と化したニンフ、スキュラの魂を救うおつもりですね?』
『そうだ! カリブディスとスキュラ、俺の推測が正しければ、罪なきお前達ふたりはともに、はめられたのだ』
『はい、はっきりと思いだしました。私とスキュラは、互いの境遇を嘆き、心の声を掛け合う事で支え合っておりました。だがある日、ふたりとも意識が飛び、気が付いたら話をする事が不可能となっていたのでございます』
『それは……南の神々が滅びた瞬間、お前たちにかけられた忌まわしき呪いが解かれたからだ』
『南の神々が滅び、忌まわしき呪いが……解かれたのですか?』
『ああ、そうだ。しかし、ふたりとも元のニンフには戻らず、死にたえ、魂は冥界に堕ちた。そして残滓が怨念となり、この地縛の霊と化し、海域に縛られたのだ』
『成る程。状況は……理解致しました』
『うむ! 俺達はお前達を救いたいのだ』
『ああ、ありがとうございます! おぞましき怪物にされ、大罪を犯した私とスキュラをどうぞお救いくださいませ。宜しくお願い致します』
『分かった! ……まあ、任せろ!』
『はい!』
ルウの力強い言葉を聞き、怪物と化したカリブディスの厳めしかった顔が、
初めてほころんだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
醜き怪物のままながら、カリブディスは憑き物が落ちたように晴れやかな表情となっている。
『ルウ様』
『おう!』
『南の孤島アイアイエーは現世には存在しません』
『だろうな』
『悪しき且つ奔放な魔女キルケーは、捕らえた人間の男を動物に変え、飼っていました。自分の玩具として支配する為に』
『ああ、そう聞いている』
『キルケ―は玩具が逃げ出さないよう、己の住まうアイアイエーを現世から遮断された異界へ隠したのでございます』
『ふむ。それでアイアイエーへ入る異界への扉がどこかの海域にあるはずだ。それを知っていたら、教えて欲しい。知らずなら、スキュラへ聞く』
『分かりました。私カリブディスは、アイアイエーへの扉がある海域を存じております』
『分かった、教えてくれ』
ルウ達は、カリブディスから、とある海域を告げられた。
そしてアイアイエーへ開く扉の合言葉も。
扉の場所を告げた後、カリブディスは言う。
『同じ質問をスキュラにもお願い致します。私の勘違い、記憶違いの可能性もございますゆえ……そして、同じ海に暮らし、心の絆を結んだ彼女には、転生して、いずれどこかの時代、どこかの地で必ず会おうと伝えてくださいませ』
『分かった! いろいろ気遣いをありがとう。それと今回お前達の事はエーコーのエレナ、ナーイアスのリゼッタから頼まれた。何か伝言があれば聞こう』
『はい! ふたりの名を知るのみで、私に面識はありません。彼女達とは一緒に暮らしていらっしゃるのですか?』
『ああ、一緒に暮らしているよ。ふたりとも元気だ』
『では、お伝えください。お気にかけて頂きありがとうございます。どうぞお幸せにと』
『……ああ、分かった。必ず伝える。では地縛を解こう。それと地縛から解放される瞬間、お前は元の姿になれる』
『おお、それは!! 何よりの喜びです。しかし自分で自分の姿を見る事が出来ません。それが残念です……』
『……安心しろ。幻影となるが、お前の姿をこの海上に映してやる。旧き思い出に抱かれながら旅立つが良い』
『あ、ありがとうございます! 深く感謝致します!』
『うむ、では行くぞ!』
『はい! お願い致します!』
『ビナー、ゲブラー、我は知る! 大いなる神よ! 冥界の監視者たる忠実な御使いに理を託し、現世に彷徨える魂の欠片に新たなる旅の祝福を! 彼等に行くべき途を示したまえ!』
言霊を詠唱するルウの身体が、魔力波で眩く輝いている。
『昇天!』
『あああああああああ……………』
ルウの『決め』の言霊が響き渡った瞬間、カリブディスの残滓が歪んだ。
そして、歪んだ残滓の対面。
晴れ渡った大空の下、青い海上にひとりのニンフが立っていた。
可憐で、優しい笑みを浮かべた金髪碧眼の美少女だ。
怪物と化す前のカリブディス本来の姿が、ルウの魔法により『幻影』となって現れたのだ。
『ああ、む、昔の私だ! ま、間違いありません! あ、ありがとうございます! さようなら! ルウ様、モーラル様、テオドラ様!』
ぼしゅ!!
ルウ達の名を呼んだ瞬間。
カリブディスの魂の残滓は、冥界へ旅立っていたのである。
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