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第1,313話 「生涯唯一の嫉妬④」

 一種の亡霊……魂の残滓として、現世に留まるかつてのニンフ、ナーイアスのカリブディス。

 しかし、南の大神により厳しく罰せられ……

 おぞましき怪物と化したその身体には、可憐だった容姿の面影はない……


 そもそも純朴な妖精たるニンフが、何故そこまでの大食たる性癖を持つ事に至ったのか……

 その挙句、神々の牛へ手を出し、食らう事にまで至ったのか……

 不条理、不合理と誰もが思い、感じたはず。


 無言を貫くカリブディスの心の奥底、つまり魂の中にこそ、その秘密があるはずだ。

 ルウの発した名もなき禁断の魔法により……

 今、その秘密が暴かれる。


 宙に浮かぶ、ルウ、モーラル、テオドラの前で、カリブディスは静かに語り始める。


『私はカリブディス……偉大なる両親、世界の海を統べる海神王、母なる大地を統べる女神から生まれたニンフ。欲望とは全く無縁で清き魂を持つ存在であった』


『……………』


 今度は、ルウ達が無言を貫いていた。

 カリブディスに『全て』を話して貰うまで、干渉しない様子だ。


『しかし……神の庶子たる私は父の一族たる南の神々から、祝福、歓迎されない存在であった。特に父の兄、伯父の大神、その妻たる女神は私を目の敵にした。海神王の本妻アンピトリテは夫の浮気に耐え、不干渉を貫いたのに……』


『……………』


『お前の不可思議な心をさらけだす魔法により……たった今、私は全てを思い出した。思い出したのだ』


『……………』


『ある日、大神の妻が私の目の前に現れ、一方的に告げた』


『……………』


『大神の妻は命令するように告げたのだ。憎き不義の子カリブディスよ、呪われしお前を卑しき本能の虜にすると……私はその経緯の記憶を消された。密かに行われた大神の妻の所業。仲間のナーイアス達は恐ろしいその事実を知る由もなかった……』


 遂に明かされた真実。

 ルウ達は無言を続けていた。


 隠された真実が故に、同胞たるナーイアスのリゼッタは真実を知らなかった。

 カリブディスは食欲の本能を肥大化されたのだと。

 後にリゼッタは魔獣スフィンクスにされてしまう。

 ともに、大神の妻の仕業だったのだ。


『……………』


『以来……私はず~っと空腹で、何をいくら食べても、満たされる事がない呪われた心と身体にされていた』


『……………』


『長き時に亘り、私のあくなき欲求は満たされる事がなかった。そして内なる私の声がいきなり告げた。お前の本能を満たすのは、ゲーリュオーンの飼う紅い牛だと……』


『……………』


『気が付けば、私は大洋の西、最果てのエリュテイア島に居た。目の前に、紅い牛の群れが居り、心の内なる声に従い、私はためらわず、紅い牛を数多殺し、食した。否、貪り喰った……』


 ここでも不自然な事象がある。

 

 大海に浮かぶエリュテイア島において、神の牛を守るゲーリュオーンと魔獣オルトロスは、

 カリブディスの犯した所業を知っていたはずだ。

 しかし、彼らは手を下さず、黙認した。

 そして、いきなり大神が現れ、カリブディスを罰したのである。


『……………』


『食べた瞬間、伯父たる大神が現れ、御業を使った。その結果、神々の牛を食した大罪により、私は醜き怪物とされていた。そして怪物の姿を隠すよう、深き海の底へ沈めと厳しく命じられたのだ』


『……………』


『おぞましい怪物と化した私のあくなき欲求は紅き牛を喰らっても消える事はなかった。海の底へ沈んだ私は……今度は人の子を襲い、喰らうようになってしまったのだ』


『……………』


『運命に翻弄されたとはいえ、私は大罪を犯した。神々の牛を喰らい、数多の人間を殺した……』


『……………』


『魂の牢獄を解放され、忌まわしき記憶を取り戻した今の私には……おまえが……いや、貴方様が何者なのか、分かる……分かるのだっ!』


『……………』


『頼む! 選ばれし、第三の使徒よ! おぞましき地縛の残滓と化した、私の魂を冥界へ堕とし、思い切り罰してくれ! い、いや! 罰してくださいっ! お願い致しますっ!!』


『……………』


 魂を解放されたカリブディスは、ルウの正体を見抜き、切々と訴える。

 

 対して、ルウとモーラルは、表情を全く変えなかった。

 テオドラだけは、ルウの正体を告げられ、驚きの表情を見せていた。


 ルウは、ゆっくりと首を横に振った。


『カリブディス、創世神の使徒たる俺がお前を罰する事はない』


『な、何故!?』


 ルウの言葉を聞き、カリブディスは戸惑った。


 続いて、ルウは告げる。


『お前は、確かに重き罪を犯した。数多の人々を殺した。その大罪は償わねばならない。しかし食の本能を極端に肥大化され、神の牛を喰らったのは罪ではない。不可抗力だったのだ』


『ふ、不可抗力……』


『ああ、全てが仕組まれた事。その一端を担った大神の妻は厳しく罰せられ、冥界へ堕とされた。神としては、あまりにも不適格であり、大罪を犯したからだ』


『た、大罪を! 大神の妻が!?』


『ああ、大神を含め、南の神々は、そもそもお前たちニンフ、そして未熟な人間を導くべき存在。逆に苦しめ続けるなど外道だ』


『外道!? 南の神々が!?』


『ああ、神ゆえに、さしたる理由もなく、弱き者を苦しめるのは外道の所業なのだ』


『……………』


『大神の妻は犯した数多の大罪により、創世神により裁かれた。深き冥界の闇の中で、永遠にもがき苦しみ、うごめく醜き存在となり果てた。いわば因果応報』


『……………』


『カリブディス、理不尽に虐げられたお前の恨みは、既に晴らされたのだ』


『う、ううおおおおっ!! わあああああああああ~~んんん!!』


 きっぱりと言い切るルウの言葉を聞き、感極まったカリブディスは号泣していたのである。

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