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第1,312話 「生涯唯一の嫉妬③」

 渦巻く波間から立ち上った魔力が、だんだんとひとつの形となって行く。

 しかし……

 『形』に実体はない。

 幻影の如き、存在である。


 やがて、おぼろげながら……

 数十mもの体躯を持つ巨大で不気味な容姿を持つ怪物が現れた。

 軟体動物であるイカとタコをおぞましく合わせたような醜悪な趣きである。


 海神王と大地の女神の間に生まれた美しき水のニンフ、ナーイアスの成れの果て、

 大神から呪いをかけられたカリブディスの醜き姿であった。


 南の神々が、その傲慢で奔放な所業から、創世神の粛清を受け、滅ぼされてから……

 怪物と化していた海神王の血縁たるカリブディスも、心と身体を、ともに滅した。


 今、ルウ達の前に現れたのは魂の残滓、亡霊に近い状態である。

 幽体のカリブディスが、呼びかける。

 だが……カリブディスの様子は尋常ではない。


『腹が減ったあ! ぺこぺこだああ! 私に食わせろ! 何かあ! 食わせろぉ! 何でも良いから、食わせろぉぉぉ!!!』


 まるで、子供の如くせがむカリブディス。

 

 苦笑したルウは「ぱちん!」と指を鳴らす。

 魔法が発動した。

 気持ちの高ぶりを鎮める鎮静の魔法である。


 瞬間。

 カリブディスの様子が激変した。


 徐々にだが、平静さを取り戻して行く……


『……だ、誰だ? 私を呼ぶのは?』


『俺だ』


 短く応えたルウは、カリブディスの目の前で宙に浮いている。


『…………』

『…………』


 ルウの背後に、モーラルとテオドラも無言で浮いていた。


 しかし、カリブディスは、モーラルとテオドラを無視。

 ルウへ問う。


『見た事がない顔だ。……お前は一体……何者だ?』


『ああ、初めまして……かもな。俺はルウ、ルウ・ブランデル。……魔法使いだ』


 続いて……

 ルウに付き従うモーラルとテオドラも名乗る。


『私はモーラル、ルウ様に命は勿論、心もささげた妻だ』


『私はテオドラ、モーラル奥様と同じく、ルウ様に身も命もささげた忠実なる従士だ』


 カリブディスは3人を一瞥し、顔をそむけた。

 侮蔑の表情となる。


『ふん! 愚鈍な人間と邪悪な夢魔に、ちゃちな「でく人形」か? 偉大な神の御子たるこのカリブディスに何の用だ?』


 醜い姿に変えられ、人間を襲い、捕食しまくったカリブディスであるが……

 犯した行為を罪と認識していないようだ。


 元々傲慢な性格でもあるらしい。

 容赦なくルウ達を貶める。


 しかしルウ達は、平然と受け流した。


『お前が持つ現世への未練、執着をきっぱり断ち切る為に、俺達は来た』


『な、何だと?』


『暴食の性癖を持つお前の本体、つまり魂の大部分は冥界の第三圏、貪食者の地獄へ堕ちている。お前の残滓を地縛から解き放ち、完全に冥界へ堕とす』


 ルウの言葉を聞き、カリブディスはまたも鼻で笑う。


『はっ、何を言っている。お前らのような矮小な存在にそんなたいそうな事が出来るわけがない!』


 しかしルウに動じた様子は全くない。


『……論より証拠。お前の話を聞いた上で、冥界へ送ってやる』


『わ、私の話だと?』


『ああ、お前は底知れぬ大食ゆえ、怪物ゲーリュオーンが神々の為に、とある島で飼育していた牛を食べ、大神に罰せられた』


 ルウの話を聞き、カリブディスは沈黙で応える。


『…………』


 対して、ルウは構わず話を続ける。


『不思議な話だ』


『…………』


『南の神々に仕えるナーイアスたる、ニンフのお前は、神の牛を食する事がとんでもない大罪だと認識していたはずだ』


『…………』


『いくら大食とはいえ、何故、そこまでの危険を冒し、大罪を犯したのだ?』


『…………』


『ふむ……その沈黙は秘する特別な事実があるということだな』


『…………』


『さあ、一切合切を話してくれ』


『…………』


 ルウが促しても、カリブディスは無言を貫いていた。


 苦笑したルウは、決断する。

 時間も限られている。

 強制的な力を発動し、カリブディスが起こした事件の裏側を確かめるしかない。


『ふむ、素直に話さず、だんまりを決め込むのなら、致し方ない。俺の魔法でお前の魂の内側を読む』


 ルウが具体的な方法を告げると、カリブディスは遂に反応。

 それも激高した。


『ふ、ふざけるなっ!! に、に、人間如きがあ!!』


 魂の残滓と化しているカリブディスは霊体の身体を震わせ、怨念を発した。

 ルウ達をとり殺そうとする。


『ははは、ちゃんと喋れるじゃないか、……束縛!』


『な!?』


 神速、ほぼ無詠唱で発動されたルウの魔法『束縛』

 敵の心身を縛り、自由を奪う。


 この魔法は、人間の生者のみ縛るのではない。

 精霊、妖精、魔物、また死せる亡者や霊体など、数多の人外にも有効なくらい強力な魔法なのだ。


 『束縛』され、霊体のカリブディスは身体を強張らせた。

 口をふさがれ、動けなくなる。

 もう抵抗は出来ない。


 縛られたカリブディスを見て、ルウは淡々と言葉を発する。


『次は、お前の魂に直接聞こう。いつもなら尋問し、白状の魔法で全てゲロさせるが、神が絡む、事が事だ。……万全を期す』


『…………』


 無言のカリブディスに対し……

 ルウは独特の呼吸法を使い、あっという間に体内魔力を高めて行く。


 そして、即座に言霊を詠唱する。


『ひとつは(イーンシダエ)! ひとつは真実(ウエールス)! ひとつは狂気(ルーナーティクス)!』


『…………』


『3つの鍵よ、今こそ我が力により全て解放され、そなたの魂は、ここに開かれん!』


『…………』


全て(オムニス)!」


 ルウの詠唱が終了した瞬間!

 独特の波状をした魔力波(オーラ)がカリブディスを包んだ。


 最早カリブディスは、ルウに対し、自分の魂全てを曝け出していたのである。

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