第1,310話 「生涯唯一の嫉妬①」
と、ある日の夜……
ブランデル邸のルウの書斎では、ルウとモーラル、そしてテオドラが、エーコーのエレナ、ナーイアスのリゼッタふたりのニンフと向かい合い話していた。
まず口を開いたのは、エレナだ。
「ルウ様、申しわけございません。また、貴方様のお力にお縋りしても宜しいでしょうか?」
続いてリゼッタも言う。
「毎回甘えてばかりで心苦しいのですが……南の神々とその一族に虐げられた、私達ニンフの辛い思いを、しっかり晴らして頂けるのはルウ様しかいらっしゃらないのです」
「リゼッタの言う通りです。まずは私達の話を聞いて頂けますか?」
ルウは大神の妻により亜空間に閉じ込められたエレナを助けて出してから、リゼッタを……
そして何人ものニンフの無念を晴らして来た。
その為に数多の強敵、神たる存在とも戦った。
今夜もエレナとリゼッタは、ルウへ救いを求めているらしい。
ニンフふたりの表情は真剣であった。
ルウは穏やかな表情で微笑み、了解した。
「ああ、俺は構わない。モーラル、テオドラはどうだ?」
「私は旦那様について行くだけ……そう心に決めております。生涯決意は変わりません」
「はい、私もそうです」
シルバープラチナの美少女モーラル、そして金髪碧眼の美少女テオドラも即座に同意し、頷いた。
「ありがとうございます。では、早速お話し致します……」
エレナは軽く息を吐くと、話し始める。
「遥か南方の海域に事故が多発する難所があります。特に海流とか地形的な障害物はありません。天候も比較的安定しております」
「事故が起こるのは、全く二次的な要因です」
「ええ、無念の死を遂げた私達の仲間……死して岩礁と化したニンフの怨念が船を引っ張り沈める事故を起こすのです」
「……無念の死を遂げたニンフの名は、スキュラ。数多居るニンフの中でも1,2を争う美しさを誇っておりました」
「スキュラか……名と謂れは聞いた事があるよ」
ルウが返し、モーラル、テオドラも再び頷いた。
スキュラは……
リゼッタの告げた通り、類まれな美しさを誇る水のニンフであった。
多くの男がスキュラへ求愛した。
しかしスキュラ自身、恋には全く興味がなく、全て求愛をはねのけ、気ままに暮らしていたのだ。
そんなある日の事……
既に既婚であった海を統べる海神王がスキュラを見初め、求愛したのだ。
海神王の求愛とはいえ、やはりスキュラは断った。
しかし海神王は諦めきれず、度々スキュラへの恋心を吐露した。
これに耐え切れなくなったのが妻の女神アムピトリテである。
何度も夫の横暴さに耐えていた妻であったが、遂に堪忍袋の緒が切れる。
こんな時、南の神の一族は、いつも第三者へ理不尽な怒りを向ける。
アムピトリテは、スキュラが沐浴する泉へ毒薬を入れた。
そして罪なきスキュラを恐ろしい怪物の姿へと変えてしまったのである。
更にアムピトリテは自らの罪を隠すため、真実を隠蔽した。
全く違う事件を捏造した。
何人かの配下に命じ、喧伝させた。
別の海神がスキュラへ執拗な恋心を持ったが、ふられて失恋。
その海神が、逆恨みからキルケという悪しき魔女に命じて、怪物化する毒薬を入れたという経緯をでっち上げたのである。
この恐ろしい事実は、海神王の兄たる大神から厳重なかん口令がしかれた為、アムピトリテの犯した罪は闇へ葬られた。
しかしニンフ達は闇へ葬られ、隠された真実を知り……明日は我が身と怯えた。
その悪い予感は当たり……
あまりにも理不尽な事象を理由に、大神の妻によりエレナは亜空間へ幽閉され、リゼッタはスフィンクスへと姿を変えられてしまったのである。
話を戻せば……
美貌を誇ったスキュラは、上半身こそ女性のままだが、下半身は魚。
腹部からは3列に並んだ歯を持つ6体の犬の前半身が生えた、奇怪な姿にされてしまった。
罪もなく醜悪な容姿にされたスキュラは、生きる事に絶望した。
理不尽さから来る恨みで、誰にでも優しかった温厚な性格が一変、残忍酷薄な性格となってしまう。
その姿で、とある島の沖へ幽閉されたスキュラは、怪物にされた恨みを無関係の船乗り達へぶつけた。
傍を通行する船を襲い、人間を喰い殺すようになってしまったのだ。
そして……
数多の人間を喰い殺した後……
犯した罪と消えない恨みから……最後にスキュラは醜い岩礁と化し、果てたという。
「その岩礁に、スキュラの恨みの念……魂の残滓が宿り、事故を引き起こすのです」
「ルウ様! 迷えるスキュラの魂を救い、これ以上事故が起きないよう、海を往く罪なき人々が命を落とさぬよう、何卒お力をお貸しください!」
切々と訴えるエレナとリゼッタ。
「……分かった。改めて事実を確認した上で、罪なきスキュラの魂を救おう。そしてメドゥーサの件もある」
理不尽な罪から、戦女神に罰せられ、怪物と化したメドゥーサの事件も海神王が絡んでいた。
穏やかな表情の中でも静かな怒りを秘めたルウは、そう言うと軽く息を吐き、話を続ける。
「任せろ。もしも事実ならば、傲慢な海神王、その妻の犯した罪も問いただし、しっかり償わせる」
ルウがきっぱり言い放つと、モーラルとテオドラも三度、大きく頷いていたのである。
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