第1,306話 「未来への改革③」
「み、未来への改革? ね、姉様、それは一体どういう事ですか?」
姉リューディアの言葉に反応し、戸惑うケルトゥリが尋ねれば……
「うむ、ケリー! 言葉通りさ」
「こ、言葉通り? そ、それってどういう意味……」
「ああ、私が自ら名付けたソウェル代行という役職……ルウ様からお預かりした仮りの立場だが……私は、責任を果たす。果たさねばならない! アールヴの長として一族の未来を見据え、従来の制度などを改め、より良きものにしなければならないのだっ!」
自信に満ち溢れた感のあるリューディアは言い切ると、少し遠い目をし、更に話を続ける。
「我々の師シュルヴェステル様は、底知れない実力をお持ちであった。知勇に優れた偉大な魔法剣士であり、ルウ様が現れる前までは史上最強のソウェルであった」
姉は師シュルヴェステルに心酔していた。
だが、『心酔の対象』は既にルウへ移っている。
ルウへ『複雑な想い』を持つケルトゥリは、無言で応えるしかない。
「……………」
「……私はソウェルをご辞退されたルウ様からこのイエーラを託された。イエーラを去る際にルウ様はおっしゃったのだ。『今のまま』のイエーラではいけないと、な!」
「……………」
「いろいろ話をお聞きし、私は完全に目が覚めた。ルウ様のご指摘通り、このままではアールヴは衰退して行く一方だ。くだらぬ因習などすっぱり切り捨て、我々がこの世界で生き残る為に、人間を始めとした他種族と張り合って、勝っていかねばならぬのだ」
「他種族と張り合って……勝つ」
「うむ、かといって、いたずらにいさかいを起こしたり、さしたる理由もなく版図を広げる戦争を仕掛けるわけではない。我が一族が世界における様々な競争力を高め、抜きん出て勝ち上がるのだ」
リューディアの言葉は、そのままルウの言葉…なのだろう。
ケルトゥリは頷き、言葉を戻す。
「様々な競争力を高め、抜きんでて勝ち上がる……戦争などの暴力ではなくフェアな戦いをするのね」
「ああ、そうだ。正面切って戦う可能性はゼロではない、だが本当に最後の手段だ」
「……………」
「この世界で我々アールヴは正々堂々と勝ち上がり、発展し、生き残っていかねばならない。お前が官舎に来るまで目の当たりにした、イエーラの新たな都、このフェフの造営はその第一歩だ」
「……………」
「実際は、もっと複雑なのだが……敢えて簡単に言えば、金、人材、情報に関し、我がイエーラは他種族、他国に対し、大きく遅れをとっている。全てが伝統偏重と排他主義という悪習の産物だ」
「姉様のおっしゃる通りね……私達は長きに亘り、森の奥へ引っ込み、他種族とは交わらず……祖先の知恵を受け継ぎながら、魔法を中心に、剣、弓の修行に明け暮れていたわ。暮らしは質素でも構わないから、飢えなければ良し! というレベル、簡素清貧が合言葉だもの」
ケルトゥリは姉の話に引き込まれる。
饒舌になって来た。
そんなケルトゥリを見て、リューディアは満足そうに微笑む。
「ケリーよ。アールヴとは簡素清貧が第一。豊かでなくとも、飾り気がなく真摯で、心身ともに美しく清らか、且つ強くあれ、と歴代のソウェルは教えて来た」
「ふふ、ソウェルや長老達の言っている事は理想的で綺麗だけど、所詮、具体的な方法が伴わない精神論よね」
「ふん、神代より、心の力たる魔法を最も得手とするアールヴは、精神論ばかりが強すぎるのだ」
「確かに……そうね」
「うむ! 先ほどあげた3つの中で一番重要な金だが……アールヴは金を卑しいと言い切り、軽視し過ぎておる」
「確かにね」
人間族の社会へ出て暮らして来たケルトゥリは、金の大切さを知っている。
魔法のレベルアップを第一に、心身の修行を兼ねてはいるが……
生と死の狭間に立つ冒険者として、金を稼ぎ暮らして来たからだ。
妹の同意を聞き、リューディアの言葉はますます熱を帯びる。
「現実を見よ! と私は言いたい。人間が作り上げた貨幣経済に対し、我がイエーラはとても脆弱だ。宿敵ドヴェルグ族が得手とする鍛冶や細工の技法を駆使し、莫大な貨幣を得るのに比べ、際立った術もなく、自給自足も限界状態、生活物資も満足に手に入らん」
「あはは、ひたすらに簡素清貧がモットー……だものね、我が一族は」
「うむ、その通りだ。それにケリー、ルウ様とお前が住まう人間の街セントヘレナを襲った邪竜の群れ、もしこの都を造営する前、万が一イエーラへ来襲したら、致命的な損害を被るところであった」
「それもひたすら同意だわ。私も直接戦ったから、分かるけど……あの邪竜どもが来たら、イエーラは全土が灰燼と化していたわ」
「うむ、そして、ケリーよ、まだ完成はしておらぬが……この新都フェフの防御態勢も目の当たりにしたであろう。強固な街壁と物理魔法両対応の魔法障壁で、大破壊レベルの災害なら、ほぼ防ぐ事が可能だ」
「確かに凄い仕様ね。あ! という事はこのフェフは!」
「うむ、ケリー。お前が気付いた通り、この都はアールヴが住まうだけでなく、巨大なシェルターの機能も備えているのだ。世界全土が災厄に見舞われた際、我が一族が生き残る為のな」
リューデイアはそう言うと、更に満足そうに笑ったのである。
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