第1,305話 「未来への改革②」
新たに造営なったアールヴの国イエーラの都フェフ。
最奥に置かれたソウェル専用の官舎は5階建ての大きな建物である。
しかし、大きいとはいえ、ヴァレンタイン王国王都セントヘレナの王宮に比べれば、規模は小さく、内装も限りなく質素なものであった。
但し、さすがにアールヴ一族を束ね、イエーラ全土を統括する長ソウェルが住まい……
政務を行う官舎だけあり、警戒も厳重である。
最上階の執務室へは、違う魔導昇降機を3回使い、8度ものチェックを受けねば到達出来なかった。
ひどく面倒だと思いながらも、その都度ケルトゥリは身分証を提示し、名乗らねばならなかった。
やっと執務室に到着すると、ここにも警護のアールヴ魔法剣士が詰めていた。
「私はソウェル代行、リューディア・エイルトヴァーラの妹、ケルトゥリ・エイルトヴァーラだ。姉より招集を受け、参上した」
「はっ!」
短く応えた魔法剣士は、扉を数回ノック。
更に声を張り上げる。
「リューディア様! ケルトゥリ様が参られました!」
対して、ひと言。
「入れ!」
間違いなく姉の声だ。
「はいっ!」
一見体育会系の欠片もないケルトゥリだが、このようなやりとりには慣れていた。
かつてケルトゥリは、隼とふたつ名で呼ばれた上級ランカー冒険者であった。
名だたるクランのリーダーを務めたり、助っ人にはせ参じたりし、莫大な金を稼ぎ、生活費と学費に充てたのだ。
号令をかけ命令するのも、されて返事をするのもお茶の子さいさいである。
返事をしたケルトゥリは執務室の扉をゆっくり開ける。
「宜しいですか、ソウェル代行! ケルトゥリ、入ります!」
改めて姉へ声をかけたケルトゥリだが、返事はなかった。
ケルトゥリが室内を見やれば……
一番奥で、重厚な机が置かれており……
椅子に座った姉リューディアが机上を見つめていた。
机上には何か書類が広げられている。
どうやら地図のようだが……
ケルトゥリが扉を閉め、室内へ一歩、二歩踏み込んでも、リューディアは全く視線を向けようとしない。
苦笑したケルトゥリは、そのまま姉の席へ近づいたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うむ、ケリーか。よく来たな」
机まであと5mほどというところで、ケルトゥリへ、声がかかった。
どうやら、ケルトゥリが近づくまで、声をかけるのを待っていたようである。
再び苦笑したケルトゥリは、姉へ声をかける。
ふたりきりの姉妹同士、他人が居ない時は愛称で呼び合う。
役職も当然付けない。
「リュー姉様、それって……このフェフの地図?」
「ああ、そうだ。……どうだ? 私が造り上げたフェフの市街を通って来て、どう感じた? 人間の街とは全く違うだろう?」
「そうね……良く言えば街の中が大きな公園、もしくは……」
「ふむ、もしくは何だ?」
「いえ、何でもないわ……」
ケルトゥリは、先ほど感じた事を告げようとしてやめた。
フェフの周囲を取り囲む街壁が無粋で、まるで狩場の森……
魔物を放し飼いにした訓練場と同じだと思ったのだ。
その狩場の森には悪い思い出と良き思い出とが混在している。
悪い思い出とは、ナディアの魂に巣食っていた悪魔ヴィネにより真名を盗み見られ、心身を乗っ取られた事だ。
あの時は、絶体絶命の危機、そのままであればヴィネにより魂を食われ、死へ至るところだった。
そして、良き思い出とは……
ルウが危険を冒し、魂へ潜行。
助け出してくれた事だ。
嬉しさのあまり、その場でルウにすがりつき号泣したケルトゥリだが……
残念ながらルウとの仲は……全く進展しなかった。
ルウはそのままナディアを救いに行ったからだ。
「ルウ様の事でも思い出していたか……」
「え、えええっ! ち、違うわよっ!」
「ふっ、まあ良い」
「それより姉様! どうして私を、いきなりこのフェフへ呼んだの? 理由を聞きたいわ」
「まあ、そう急かすな。仕事は休みを取ったし、渡した転移魔法を付呪した魔法水晶と身分証は役に立っただろう」
「ま、まあね。でも、私の部屋とフェフの正門前往復しか設定されていないなんて、めちゃくちゃ不便よ」
ケルトゥリは、不満を言い立てたが……
姉の答えはそっけなかった。
「ふっ、悔しいのならケリー、お前自身で転移魔法を習得しろ」
「ふん! 分かったわ」
「……質問に答えてやろう。ケリー、お前を呼びつけたのは、このフェフの街を見た上で、お前の心構えを聞く為だ」
「え、えっ? フ、フェフを見た上で、私の心構え?」
「ああ、この都フェフを築いたのは、ソウェル代行たる仕事の第一歩、未来への改革の為なのだ」
戸惑うケルトゥリへ、リューデイアはきっぱりと言い切ったのである。
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