第1,299話 「恋の魔道具問答③」
「あ、ああ! す、すまないっ! ももも、申しわけないっ!」
愛するあまり、感極まって思わずピエレットを抱き締めたケヴィン。
うろたえながら、慌てて身体を離した。
ケヴィンは40歳、ピエレットは30代半ば。
ふたりとも『大人の男女』
まるで、子供のようなやりとりは、傍から見れば、ひどく滑稽かもしれない。
だがケヴィンとピエレットは、どこまでもまじめ、極めて真剣だった。
さてさて話を戻そう。
……何という失礼な事をしてしまったのだ。
ケヴィンは、大いに後悔した。
ピエレットとは、手さえ握っていないのだ。
もしかして彼女を……怒らせた?
びくびくして、ピエレットを見やれば……
彼女は頬を紅く染めたまま、嬉しそうに、にっこり笑った。
「うふふ、ケヴィン様」
『女ごころ』に疎いケヴィンには不可解だったが、ピエレットは嬉しかった。
ケヴィンに戦闘能力はない。
皆無に等しい。
ピエレットの方が強いに違いない。
しかし、そんな事実は全く関係なかった。
彼女は大好きな相手に優しく、だがしっかりと抱擁される歓びを感じていたからだ。
片や、安堵したケヴィンではあったが、恋愛超初心者の彼はどうして良いのか分からない。
ただただ返事をするしかない。
「は、はいっ!」
返事をしたケヴィンに対し、上機嫌のピエレットは。
「お昼を食べに……でかけましょう」
「は、はいっ! ピ、ピエレットさん! い、い、行きましょうか! いや、行きましょう!」
「どちらに行きます?」
やっと、ケヴィンの恋愛マニュアルの『想定内』へ入って来た。
ここでようやく思い出した。
魔法使いとしての初心を完全に忘れていたと。
魔法使いの初心とは、基礎中の基礎、すなわち呼吸法である。
す~は~。
す~は~。
す~は~。
す~は~。
す~は~。
す~は~。
す~は~。
す~は~。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!」
「さあ、ケヴィン様、行きましょう。表にギルドの馬車を待たせてありますから。お店の方はお任せ致します」
「はい! ま、任されましたあ!」
ようやく落ち着いたケヴィンはピエレットが差し出した手を、緊張しながらもおずおず取った。
そしてふたりは待機していた馬車に乗り、ランチへと出かけたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……約3時間後、ふたりは戻って来た。
ケヴィンの決断は『当たり』だった。
そもそもケヴィンがピエレットを交際する事が出来たのはルウのアシスト、否全面的なバックアップのお陰である。
そのルウのランチのお勧めは、居酒屋英雄亭であった。
ケヴィンは英雄亭に入った事はない。
というか、荒くれた冒険者が酔って騒ぐような店がひどく苦手なのだ。
その為、正直、あまり気乗りはしなかったのだが……
英雄亭へ行く事を最終決断したのは……
ルウが提示したピエレットとのデートに最適だという理由が具体的であり、理にかなっていたからだ。
ひとつ、冒険者のピエレットが、あまり豪奢な料理を好まない事。
ふたつ、料理が最高に美味しい事。
また店主のダレン・バッカスが元冒険者であり、冒険者が好む料理を作り、コストパフォーマンスが素晴らしいのも大きかった。
そして、3つ。
最も店の風紀がルウ推薦の『鋼商会』により守られており、リラックスして安全に食事を楽しむのが可能な事。
学者であるケヴィンの心には、特にコストパフォーマンスと安全という言葉が深く響いたし……
わざわざ聞かずとも、ピエレットの好む料理を知る事が出来るのも、素晴らしいと思ったのだ。
彼女の事をもっと深く知りたいケヴィンには好都合であったから。
そして更にふたりが驚くサプライズも用意されていた。
ケヴィンが来たら対応して欲しいと、ルウの依頼を受けたダレンが料理を見繕い、持ち帰り用のおみやげを用意してくれたのだ。
それも特選のワイン付きで。
これで、ふたりは料理と酒の心配をせず、大好きな魔道具談義をしながら、夜を過ごす事が出来る。
ケヴィンの自宅へ帰る為、馬車に乗り込んだふたり。
美味しいものを食べて、美味いワイン飲んだピエレットは最高に上機嫌だった。
「ケヴィン様!」
「は、はい!」
「本当に本当に! ありがとうございます! 冒険者の私が、気を張らずにのびのびと、楽しく食事が出来るとお考えになって、わざわざ英雄亭を選んで頂いたのですねっ!」
「は、はいっ!」
本当はルウの言う通りにしただけ……
店主のダレンが万全に対応してくれただけ……
なのだが、お互いのしあわせの為には、敢えて言う必要はない。
ピエレットは夢見心地。
うっとりしている。
恋する乙女の顔となっているから。
「今夜は良い夜になりそうです」
「はい!」
「私達をしあわせにしてくれる、恋の魔道具について、存分に、語らいましょう!」
今夜は良き夜になりそうだ。
今回はケヴィンの自立を促す為、念話での恋の指南はナシなのだが……
思わずケヴィンは見えないルウへ深くお辞儀をしていたのである。
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