第1,297話 「恋の魔道具問答①」
とある休日明けの月曜日午前。
ヴァレンタイン王国冒険者ギルドセントヘレナ支部ギルドマスター室では……
ふたりの麗しい女子が向かい合い、話をしていた。
ひとりは久々の休暇から戻ったルウの妻のひとりアールヴの魔法剣士、炎の飛燕ミンミ。
ルウとともにリーリャのロドに王国帰省旅行に同行し、昨日帰還したのだ。
片や、もうひとりはミンミの不在中、支部の留守を守っていたサブマスターのピエレット・ラファランである。
ピエレットは、「びしっ!」と直立不動で敬礼する。
「ミンミマスター、お留守中、ギルド王都支部の内外、何も異常はありません」
「うむ、ピエレット、いろいろご苦労だった。そして君は、私と入れ替わりで本日から2日間の休暇だったな」
「は、は、はいっ!」
大きく返事をかんだピエレットは、慌てて額の汗をぬぐった。
ミンミは小さく笑い、言う。
部下のピエレットが熱狂的ともいえるくらい魔道具収集に凝っている事をミンミは知っている。
「2日間、ゆっくり休め。仕事の事は一切忘れろ」
「は、はいい~」
「ふっ、ピエレット。既に心ここにあらずという感じだな?」
「も、申しわけありません! つい……」
「ははははは、心身とも大好きな魔道具に染まっているか」
「は、はいっ! そ、そ、そ、その通りですっ! で、で、で、では失礼致しますっっっ!!」
「……ふっ、ケヴィン様に宜しくな」
最後に投げかけたミンミの言葉こそ、ピエレットの心の中をはっきりと……
つまり『本音』を示した言葉らしい。
「はっ、はっ、はいいいっっ!」
やはり図星のようだ。
噛みに噛みながら……
ピエレットはあわただしく、ギルドマスター室を退出していったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルドマスター室を退出したピエレットは、相変わらず額に流れる汗を再び拭いた。
冒険者ギルドのサブマスターでありながら……
ピエレットは現在大公エドモン・ドゥメールの3男坊ケヴィンの警護役を務めてもいた。
それも警護役を、ただ務めているだけではない。
ケヴィン自身からのたっての希望、指名によるものである。
そもそもケヴィンは、ヴァレンタイン王国第二の都市にあるバートランド大学の教授だ。
それが先日、辞令が出て、王都セントヘレナにあるヴァレンタイン王立魔法大学へ転勤となったのである。
それまでバートランドの大きな屋敷で使用人にかしずかれて暮らし……
ケヴィンは何不自由ない暮らしを送って来た。
だが、ケヴィンは決心した。
この転勤を機にひとり暮らしを始めようと決意したのだ。
自立する。
自分の事は絶対に自分でやると!
しかし言うは易く行うは難し
家事は勿論、身の回りの事、自分の事は全く出来ないケヴィン。
不慣れなひとり暮らしを始めるにあたり、試行錯誤しながら不安な日々を送っていた。
一方、ピエレットといえば、冒険者ギルドサブマスターの職務をこなし、多忙な日々を送っていた。
ちなみにピエレットもひとり暮らしだ。
しかしケヴィンとは違い、万全とはいえないが、彼女は炊事、掃除、洗濯等々、身の回りの事は何とかこなせる。
王族に近い上級貴族の子弟、叩き上げともいえる平民出身の冒険者ギルド、サブマスター……
好対照な独身のふたりはひょんな事から魔道具マニアという同好の士である事が判明し、意気投合したのだ。
そして性格に超が付く真面目なふたりは……真剣に交際を始めたのだ。
……既に馬車を呼んである。
ピエレットはこれから、ケヴィンの家へ赴くのだ。
ウキウキするのも無理はない。
ピエレットは同時に大いに緊張もしていた。
今夜は……ケヴィンの家に泊まる予定だから。
お互いにもう大人の男女。
深い仲になるターニングポイントになるのは明らかだった。
ピエレットは自分でも分かる。
心が熱くなり、頬が赤くなっている。
興奮して身体も熱くほてってもいる。
まずい!
無理やり違う事を考える。
ケヴィン様の家へ行って、馬車でピックアップしたら……
ふたりで軽くランチをした後、市場で買い物。
大好きな魔道具……否!!
新鮮な食材を買い、ふたりで料理に挑戦するのだ。
この日の為に、ピエレットは市内の料理教室に通い、いくつかのメニューを習得している。
家事も改めて練習した。
ケヴィンから、家事の教授も頼まれているからだ。
す~は~!
す~は~!
す~は~!
す~は~!
す~は~!
す~は~!
す~は~!
す~は~!
何度も何度も深呼吸をしたピエレットは、こけそうになりながらも……
どうにか馬車に乗り込み、ギルド王都支部を出発したのである。
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