第1,285話 「夢の発覚㉝」
レティシアの話は終わらない。
まだまだ続きがあるようだ。
「ねぇ、レニー」
「お、おう、何だいレティ」
「英雄亭で貴方の歌を聴いたのは、私だけではないのですよ」
妻レティシアだけが『デデ&レニー』の演奏を聴いたのではない?
まさか!とレオナールは思う。
「な、何!? 私だけではない? もしや、レニー以外にも誰か居たのか?」
「ええ、ジゼルも……しっかりと聴いていました。とても素晴らしいって、私同様、いっぱい涙を流し、とても感動していましたわ」
「ななな……」
「そしてジェロームとシモーヌも聴いていたのですよ。貴方が凄く誇らしいと、ふたりとも口を揃え、泣きながら称えていました」
「な、なに~~っっ!!」
何と何と!!
仲たがいしている息子ジェロームと婚約者シモーヌも!?
自分の歌を……
『デデ&レニー』の演奏を聴いていた!?
そして、涙を流し称えていたとは……
「レニー、同じですわ」
「同じ?」
「貴方の歌も、ジェロームの焼き菓子も……」
「…………………」
「私、ルウの屋敷へ行って、ジェローム、シモーヌといろいろ話し、焼き菓子を頂きました」
「…………………」
「とても美味しかったわ。心がふるえるような、そして忘れていた子供の頃を思い出し、昔の自分を振り返れる素敵な味だった」
「…………………」
「レニー……貴方が真摯に唄う歌が、人々の心を癒し、明日への活力、希望も与えてくれるのと同様に、ジェロームが魂を込めて焼く菓子も、人々の心を癒し、元気にしてくれるわ」
「…………………」
「ルウから聞きました。ジェロームの焼く菓子は王都の庶民から、国王陛下、フィリップ殿下までも、万民が愛してくれる凄いお菓子だと」
「…………………」
「素晴らしい才能だと思います。貴方の歌もジェロームの菓子も……だからさしたる理由もなく埋もれさせるなど、愚かです。大いなる損失です。それをしっかりと認めてください」
「…………………」
「でも、ジェロームは、自分の事だけを考えてはいませんわ」
「…………………」
「円卓騎士の血を引く名門貴族の子として、騎士としての道を投げ出さず、カルパンティエの跡目を継ぎ、課せられた自分の役目を全うしようとしている。後々の事だって、しっかりと考えている」
「…………………」
「誇らしい! とても誇らしい!」
「…………………」
「レニー、貴方が私にとって『自慢の夫』であるように、ジェロームも『自慢の息子』なのです」
「…………………」
ずっと、無言のレオナール。
切々と訴えていたレティシアは大きく頷く。
「もう良いでしょう? 頃合いです、レニー。つまらない『いさかい』は幕引きに致しましょう」
「…………………分かった。レティの言う通りだ」
妻の言葉は正論である。
そして真摯であり、レオナールの心を打った。
しかも、レティシアの話はまだまだ続きがあった。
それも、レオナールにとってはサプライズイベントである。
「という事で、明日のお休みは、貴方は、私と一緒にお出かけします」
「な、なに!? い、一緒に!? で、出かけるだと?」
「はい! 明日は半日、一緒に孤児院の慰問へ行って頂きますよ!」
「えええええっっ!?」
「うふふふふっ」
驚くレオナールをしりめに……
レティシアは「にっこり」と笑っていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝早く、妻レティシアに先導され……
いつもよりずっと地味なブリオーに身を包んだレオナールはカルパンティエ家の専用馬車に乗り込み、孤児院へ向かった。
到着した孤児院の駐機場には、何台もの馬車が駐車されていた。
そして見覚えのある人物が大勢待っていたのである。
人物の中に、ルウとジゼル、そしてルウの妻達が居る。
「レオナール父上、おはようございます!」
「父上、おはようございます!」
「おお! ルウ! ジゼル! それとルウの妻達もか!」
そして何と、昨日一緒に演奏したアンドレと、エレナ、リゼッタが素顔且つ、笑顔で立っていた。
これまた地味な法衣をまとったアンドレ。
そしてエレナとリゼッタも昨日より全然地味な出で立ちだ。
「おう、レニー、おはよう! 昨日はごくろうさま」
「おはようございます! お疲れ様です!」
「おっはようございまっす! お疲れさまでっす!」
そして……
ジェロームとシモーヌも居た!
「父上!」
「お父様!」
「お、おおお! ジェローム! シモーヌ!」
レオナールが見やれば……
ず~っと硬かったジェロームの表情が、ひどく和らいでいた。
ジェロームは叫ぶ。
興奮し、声が震えていた。
「ち、ち、父上っ!! う、う、歌、聞きましたよっ!! ……か、か、感動しましたっ!! ひ、久々に大泣きしましたっ!! こ、子供みたいにっ!!」
「わ、わ、私も同じですっ!!」
「お、お前達っ!!」
いろいろな思いが心を満たす。
走馬灯のように記憶がよみがえった。
心と身体が打ち震えて来る……
思わずレオナールはふたりに走り寄り、しっかりと抱き締めていたのである。
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