第1,274話 「夢の発覚㉒」
東導号の新連載です。
⛤『頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのある王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話』
平凡な苦学生男子が就職活動に失敗。
騙され、弱みにつけこまれた上、パワハラ商会へ就職。
だが強くなった彼は「ざまあ」して、素敵な職場へ転職。素敵な出会いもあり、幸せになる話です。
一気に10話以上読めます。
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宰相フィリップ・ヴァレンタインが息子ジェロームとふたりきり『サシ』で会う。
自分の上席が単独で謁見すると聞き、レオナール・カルパンティエ公爵はその日の仕事中、心がざわめき、ひどく落ち着かなかった。
全く集中出来なかった。
まさかと思った。
今回の『ジェローム跡目相続案件』に関し、フィリップは絶対自分の側に立つと信じて疑わなかったからだ。
それが何と!
青天の霹靂。
全くの想定外である。
息子との謁見にあたり、自分は立ち会うどころか、オミットされてしまったのだ。
これではフィリップへ告げるジェロームの『言い分』が、間違っていたとしても否定できない。
謁見の場に不在であれば、やりとりも分からない上、反論も100%不可能なのである。
オミットされる原因は、余計なバイアスが入るからだ。
そうフィリップから言われてはいたが、到底納得出来なかった。
しかしヴァレンタイン王国において、主君の命令は絶対である。
王族であれば尚更であり、宰相フィリップは国王リシャールの実弟なのだ。
逆らう事など絶対に出来ない。
……それから数日間、レオナールはずっと落ち着かない時を過ごした。
王宮に居る間、何とか最低限のレベルで業務をこなしたのだ。
そのうっぷんを晴らすかのように、レオナールは夜、見る夢の中で、デデ&レニーと歌の練習に励んだ。
息子と直接関係のない間柄は気が楽だった。
愛称で呼んでくれる、きさくなアンドレ・ブレヴァルに元気づけられ……
明るくほがらかなふたりのニンフ、エレナとリゼッタに労わられ、大いに癒された。
そんなある日の午後遅く……
レオナールの執務室の扉がノックされた。
もうその日の業務はほぼ終了。
間もなく退勤という時間である。
このノックは聞き覚えがある。
独特の癖があった。
忘れようがない。
息子ジェロームのノックである。
この状況で息子から尋ねて来るとは、どういう風の吹き回しかと思ったが……
すぐに気が付いた。
息子ジェロームは遂にフィリップに謁見したのだと。
多分、それも事後報告だ。
事前に断りがなかった事に、レオナールはひどく腹が立った。
だが、ここで怒っても仕方がない。
事後報告でも来ないよりはずっとマシだ。
「……入れ」
「失礼します」
ず~っとぎくしゃくしているので、息子とは「久しぶり」とか「元気か」という、
『余計な会話』は一切なかった。
ジェロームは入室すると、一礼した。
そして、いきなり告げた。
「父上、たった今、フィリップ殿下にお会いして来ました」
……予想通り、やはり事後報告である。
むかっと来たが……レオナールは耐えた。
短く言葉を発し、わずかに頷いただけだ。
「そうか」
「殿下は全て話せと、仰ったので、私の思う事、言いたい事を全て申し上げました」
予想されたやりとりだ。
ジェロームは一方的に、自分の主張を伝えたのであろう。
ここで、レオナールが息子へ尋ねたい事はたったひとつだ。
「……それで、殿下は何と仰った?」
「特に何も……肯定も否定も、そして同意もされませんでした」
息子の言葉がもしも本当なら……
少なくとも今の時点でフィリップは『中立』だという事になる。
否、レオナールはそう思いたい。
「成る程、分かった」
「では、失礼致します」
ジェロームは騎士隊式にくるりと回れ右をし、扉の前で、また同じく回れ右をした。
そして扉の前で一礼すると、後ろ手に扉を開け、後退、退室した。
扉が閉められた瞬間。
レオナールは大きくため息をついたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日は金曜日。
明日の土曜日午後が、デデ&レニーのデビュー。
王都中央広場最寄りの居酒屋英雄亭で歌う事となっている。
練習を積み、レパートリーは何と5曲となった。
バートクリードの英雄譚が3曲。
恋の歌、恋歌が2曲である。
どちらも旧い歌で、誰もが好み知っていた。
やはりリハが不可との事なので、練習にも一層熱が入った。
エレナとリゼッタが加わり、男同士の歌も素晴らしいが、男女混合のハーモニーも中々だと、自画自賛する。
アンドレも上機嫌である。
「おい、レニー。いよいよ明日デビューだぞ」
「デデ、そう何度も言わないでください。ひどく緊張しますから」
「ははははは! 私は初めて教えをうける修行の日。君は新兵の初陣のようなものだ。しかしこのような緊張など久々だろう?」
「ですね!」
アンドレの言葉に同意したレオナールであったが……
ふとジェロームの事を思い出した。
昔からジゼルだけにふるまっていた『自作の焼き菓子』を……
生まれて初めて、見ず知らずの他人、一般客へ出した日……
あいつも凄く緊張したのだろうかと……
もしも、この場に、そして明日、客席にジェロームが居たら……
俺を「頑張れ」と励ましてくれるだろうか?
今の緊張を理解し、共感してくれるだろうか?
「いかん!」
つらつらと考えたレオナールは思わず声を出した。
「どうした、レニー」
「い、いえ……何でもありません」
「そうか。……最近のレニーは、悩みをふっきりたい、そんな感じで歌っていたぞ」
「デデ……」
「私と君は歌を介し、今や深き心の絆を結んだ相棒なのだ」
「は、はい!」
「私が聖職者だという事を抜きに、何かあったら遠慮なく言ってくれ。ざんげなどではなく、単に愚痴を聞くだけでも大歓迎だ」
「あ、ありがとうございますっ! デデ、明日というか、もう今日か。が、頑張りましょう!」
温かいアンドレの言葉に励まされ、レオナールはデビューに向け、決意を新たにしたのである。
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