第125話 「新生活の提案」
魔法女子学園校長室午後5時……
部屋にはルウと彼の妻、未だ形は婚約者ではあるが5人、計6人が集まっていた。
ルウとフランから重大発表があるという事なので集合したのである。
副顧問のルウと部長のジゼルは参加30分で魔法武道部の練習を切り上げさせて貰っていた。
「では発表します!」
フランの声が響き、ルウが見守る中で他の4人は緊張して待っている。
「何と! 私の母アデライドがドゥメール邸隣の屋敷を購入し、プレゼントしてくれました。私達の『愛の巣』です」
「えええっ、愛の巣!?」「本当に!?」「う、嘘!?」「凄いですわ!」
さすがの4人も新居購入までは全く予想していなかったらしく驚愕の表情をしていた。
「フラン姉の隣にあるお屋敷って結構大きいし高そうだよね、その……」
ナディアが興奮冷めやらぬ表情で問う。
「ええ、亡くなられたホワイエ子爵がお持ちになっていた屋敷を買い取ったのよ。王宮財務省の不動産部門の方に聞いたら、現在旦那様と私が住んでいるドゥメール邸より、何とふた回りほど広いそうよ」
「そりゃ、凄いね。広過ぎてボクは少し怖いかも!」
そう言いつつ、ナディアは嬉しそうに笑っている。
「こうなったら早く兄上との決着をつけないとな」
ジゼルは独りごちている。
「あのフラン姉、ではお金がいろいろかかりますわよね。その……持参金をお持ちしたいのですが」
ジョゼフィーヌは現実的な心配をした。
新たな生活を始める準備、そして生活する為には先立つものが必要なのである。
「ふふふ、さすが次期財務大臣の娘ね。本当は固辞したいのだけれども、面子の問題もあるでしょうから相談しましょうね」
フランが微笑むと今度はオレリーが落ち込んだ表情をしていた。
「私は今の奥様の所に住み込みで働き始めたばかりで、幾ら何でも直ぐには……」
「ふふふ、大丈夫よ。オレリーの事はもうお祖母様に了解をいただいているから」
フランはもう既に手を打っていたようである。
「ええっ!? 奥様に了解って?」
「オレリーが新しいお屋敷で一緒に住めるようにって事よ」
「あ、ありがとう! フラン姉!」
思ってもみなかった事実、それを聞いたオレリーの目にはみるみる涙が溢れて来て彼女はフランに抱きついていたのだ。
「よかったな、オレリー」「よかったね」「素晴らしいですわ」
ナディア達3人も祝福する。
「それで早速、新生活の準備をする為に、今度の土曜日の朝より皆で買い物に行きます。度々で悪いけど旦那様は今日と同じ様に貴方とジゼルが魔法武道部の練習をお休みする許可をシンディ先生に貰っておいていただけますか?」
「ああ、任せろ」
こういった事がたまに起きる様になって副顧問のルウや部長のジゼルはシンディや部員から理解と協力をして貰っている。
中でも副部長のシモーヌがあの日以来とても張り切って同輩や後輩を引っ張っているのだ。
「買い物ね。ではさっきのジョゼの話じゃないけれどボクは自分の貯金を持参するよ」
「私も少しだが蓄えを持って来よう」
「私もお父様と話して持参金の都合をつけますわ」
ナディア、ジゼル、ジョゼフィーヌが3人共お金を都合すると言ったのを聞いてまたもやオレリーは落ち込んでいた。
昔の寓話じゃないけれど……
髪でも売るしかないのかな?
そこに勘の良いナディアがオレリーの服の袖を引っ張った。
「ねぇ、オレリー。ボク達、頼みがあるんだけど……」
オレリーが吃驚してナディアに顔を向けると彼女は悪戯っぽく笑っている。
「実はさ、ボク達に家事を教えて欲しいんだ。何せボクを筆頭として君以外の他の4人は壊滅的に何も出来ないからね」
「ええっ!? 私は大丈夫よ! 多分…… 」
「なな、何を失礼な!」「わ、私も指示くらいは出来ますわ」
フラン、ジゼル、ジョゼフィーヌの顔が言葉に反して一斉に蒼くなった。
当然の事である。
今迄貴族令嬢として暮らして来た彼女達には一切そのような必要が無かったし、寮生であるナディアと ジゼルも食事は学食で摂り、寮の部屋の掃除や服の洗濯は学園に所属する雑用専任の職員が行っていたからである。
オレリー以外にはフランが少し前から屋敷の料理長にいくつか料理を習っている程度なのだ。
「ふふふ、その慌て様。全員図星のようだね……という理由で、君に家事を習う代わりに生活に必要な物を一緒に買うというのはどう?」
ナディアが片目を瞑って微笑むとオレリーは嬉しさの余り、また涙を浮かべている。
「ナディア姉! ありがとう!」
「もう本当に泣き虫なんだから、君は」
その様子を見ながらルウはナディアも本当に変わったと改めて実感している。
「あのね、話はまだ続きがあるのよ」
フランが話の落ち着いたのを見計らって神妙な面持ちで切り出した。
「母の伯父、私にとって大伯父であるバートランド大公エドモン様が私の家で今週末土曜日の夜に夕食会を開こうと仰っているの。これはもう決定事項よ。申し訳ないけど先に予定が入っていたら全てキャンセルして欲しいの」
それを聞いた全員が出席は問題無いと答えた。
安心したフランはホッとするように笑う。
「エドモン様か……私の父は苦手だろうな」
ジゼルが辛そうに呟く。
彼女はかつて自分の父がアデライドを第2夫人にと申し込んでエドモンに手痛くはねつけられた事を気にしているのだ。
しかしフランが笑って首を横に振った。
「大丈夫よ。この前のジョゼの一件も大伯父様がジゼルのお父上に頼んで処理して貰ったから、もう平気だわ」
だからねとフランは全員に言う。
「貴女達は必ず出席する事。身内の方も『出来れば』で構わないので出席をお願いしたいわ。でも何せ急な話だから欠席でもお咎めがあるとかは一切無いの。実の所、大伯父様が本当に会いたいのは母と私達だけだから」
それを聞いたジゼルは急に晴れ晴れとした表情になった。
伝説の戦士であり冒険者でもあったバートランド大公に会ってじっくりと話をする事が出来るのである。
その様子を見たナディアがまたジゼルの『強者病』が始まったと肩を竦めた。
するとそれを聞いたジゼルも負けじと反論する。
そのよく言えば忌憚の無いやりとりに学園内でのジゼルとナディアのいつもの威厳は一切無かった。
2人の『掛け合い』を見て大笑いするオレリー。
いつもは雲の上の存在である2人の先輩に対して遠慮なく大笑いするオレリーを目を丸くして見詰めるジョゼフィーヌ。
そんな彼女達をルウとフランは優しくじっと見守っていたのであった。
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