第1,248話 「専門科目授業再び④」
ただいま、専門科目、上級召喚術の授業中……
担任ルウによる課題クリアの班分けが終了した。
班ごとに一定の制限時間を設けた上で、召喚したアルヴィトルと問答する形となるのだ。
軽く息を吐き、ルウは受講生徒達、全員を見回した。
「では、早速授業を始めよう、カサンドラ先生、いつもの通り魔法障壁の起動を頼む」
以前、アルヴィトルを呼び出した時と手順は全く同じである。
カサンドラが頷き、祭儀教室の後方にある魔法障壁の起動装置に手を触れて魔力を込める。
すると低く重い音が発生し、魔法障壁が全員を保護した。
しかし、この魔法障壁は以前のものとは違っていた。
少し前にルウがフランへ申し出、アデライドの許可を得て、改良したのだ。
強力になったのは勿論、魔法、物理とも対応する万能タイプとなっている。
念の為、魔法障壁がカバーしていない場所とは……
召喚エリアである魔法陣の部分である。
やがて障壁が完全に発動し、生徒の居るエリアをカバーしたのを確かめてから……
ルウは召喚魔法の言霊詠唱を始めた。
「現世と常世を繋ぐ異界の門よ、我が願いにてその鍵を開錠し、見栄え良く大きく開き給え! 異界に棲む者よ、聞け! 門は今、開いた! 忠実さをもって我が下へ馳せ参じ給え!」
ルウの詠唱は魔法女子学園において、使い魔を呼ぶ言霊とは、全く異なるものである。
生徒のほぼ全員が、ルウが唱えた言霊のメモを取っていた。
ルウは言霊を詠唱しながら魔力を一気に高めて行く。
大量に放出されたルウの魔力波が魔法陣に吸収され……
円形の魔法陣が眩く輝き出した。
「召喚!」
『決め』の言霊が詠唱されると……
輝き出した光が凝縮し、ひとつの影に固まって行く。
出現したのは輝く革鎧をまとい、背中までの金髪を靡かせた美貌の女戦士である。
オレリーには見覚えがあった。
彼女は間違いなく、古の戦乙女、ワルキューレのアルヴィトルである。
アルヴィトルは軽く頭を動かした。
美しい金髪が揺れ、意思の強そうな碧眼がルウを睨む。
これも全く以前と同じである、
しかし、ルウへ次に告げられた言葉が、前回とは全く違っていた。
「おいルウ、いい加減にして貰おうか」
いい加減にしろ……
冷ややかな言い方だが、はっきりとした怒りの感情が込められていた。
召喚してから、再び呼び出すまでに、時間が相当過ぎた事を告げていると思われ……
再び同じ事を繰り返すのかという非難の感情もはっきりと分かる。
対して、ルウは真正面からアルヴィトルの視線を受け止めると淡々と答えた。
視線も真っすぐアルヴィトルへ向けられていた。
表情はいつものルウ同様、穏やかである。
「許せ、アルヴィトル。これまで多忙であった」
オレリー始め、生徒達は背後で固唾を呑んで見守っていた。
「は? 多忙だと……そのひと言で詫びたつもりか」
「そうだ。礼は尽くしている」
「礼は尽くしている? 言葉が軽いな、ルウよ」
アルヴィトルの口角が僅かにあがる。
皮肉っぽい笑みが、浮かんでいた。
「まあ……良いだろう。私はお前に興味がある。この場に居る《ひな鳥達》の相手もしてやろう」
渋々という感じで、アルヴィトルは生徒達の相手をする事を了承した。
張り詰めていた緊張感が緩んで行く。
あちこちで生徒達が息を吐く音が聞こえて来る。
これから課題に臨む生徒達が呼び出した使い魔とは……
仲間であり、親しくなれば友となる。
召喚した生徒達から見て、命令が可能な存在である。
しかし中級以上の召喚対象はそうはいかない。
相手の立場を尊重した物言いをしなければならない。
その上で、虚を衝かれてはいけない。
また『弱み』を握られて己の心を支配されぬよう気を付けながら、意思を貫かねばならない。
アルヴィトルは中級どころか、高位の召喚対象である。
召喚魔法駆け出しの生徒達にとって、折り合う事は基本的に困難である。
だがアルヴィトルはルウの説得に応じ、生徒達の相手をする事をとりあえずは了解している。
可能性はゼロとは言えない。
だが、術者たるルウがこの場に居る限り、害が及ぶリスクは極めて低い。
「さあ、誰から来る? ひな鳥よ」
アルヴィトルは、緊張の眼差しを向ける生徒達を一瞥し、淡々と言い放った。
改良された魔法障壁には開閉自在な『小出入り口』が作られている。
「一番手は、オレリー班だ。カサンドラ先生、操作を頼む」
ルウの指示で、魔法障壁の片隅が開いた。
障壁は肉眼では見えない。
だが、開放部分には床へ印が付けてある。
その印を頼りに、生徒達は召喚エリアへ向かう。
まずはオレリーが、続いてマノンが、そしてジョゼフィーヌ、リーリャと続いた。
ルウとアルヴィトルは4人を待っている。
オレリーはルウを見る。
そして習得し、使い慣れた呼吸法を行う。
ルウから得た愛と信頼により気持ちが安らぎ、落ち着く。
加えて、先の学園祭での召喚対抗戦での経験が、オレリーの心から不安や恐怖を払拭していた。
マノンには、やや不安の色が見て取れた。
オレリーの様子を見て、同じく呼吸法を使う。
自尊心とライバルに対する負けず嫌いが、誇りが彼女を奮い立たせていた。
そしてルウへのひたむきな想いが彼女の心を支えている。
ジョゼフィーヌとリーリャは、オレリーと同時に呼吸法を使っていた。
ふたりとも、ルウと出会って以来、向学心は上昇の一途をたどっている。
未知への向学心、そしてオレリーと同じくルウへの愛と信頼がふたりを支えていた。
4名とも穏やかに堂々と、という言葉が感じられるゆったりした歩き方で……
ルウとアルヴィトルへ向かい、進んで行ったのである。
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