第1,240話 「言っておくぞ!」
「火の用心! 戸締り用心! 何かあったらすぐ通報!」
時刻はまだ宵の口である。
夜の8時を少し回ったところだろうか……
「火の用心! 戸締り用心! 何かあったらすぐ通報!」
少々ベタなセリフである。
だが、誰にでもすぐ分かる標語でもある。
このシュプレヒコールを全く照れずに大きな声を出しながら、
王都の道々をパトロールする一団が居た。
王国の命を受け、災厄後の王都治安維持を担う衛兵隊?
否、違う。
パトロールするこの面々は衛兵隊などではなかったのだ。
革鎧を着用はしている。
だが、デザインは衛兵隊の制服のように統一されたものではない。
各自が身につけている革鎧は千差万別バラバラであった。
そして先頭に立っていた者は人間族ではなかった。
やや小柄な体格ながら腰からミスリル製の愛剣を提げ、
胸を張り歩く姿は威風堂々としていた。
鼻筋が通った端麗な顔立ちに輝く菫色の美しい瞳。
流れるような金髪からちょこんと出たとがった可愛い耳。
アールヴ族、それも眼光鋭い女性。
そうルウの妻のひとり、必殺の魔法剣『炎の飛燕』をふたつ名に持つ、
冒険者ギルド王都支部マスター、ミンミである。
その背後に控えるのも女性であった。
冒険者ランクはA。
180cmを楽に超える身長はバランス良く鍛え抜かれ、贅肉が全くない。
伸びやかな四肢は、秘めたバネが凄まじい事も容易に想像出来る。
狼のような顔立ちをした美しい女である。
切れ長の眼を持ち、極端に短く刈った髪はまるで少年。
煌く瞳の色が鮮やかな金色アンバーなのが、女を余計獰猛な狼のように見せている。
腰には女が持つには大き過ぎる、幅広の武骨なロングソードが提げられていた。
冒険者マルガリータこと悪魔マルコシアス……ルイ・サロモン72柱の悪魔の1柱。
蛇の尾を持つ有翼の大狼といわれ、清廉潔白さを好み、不実さを極端に嫌う愚直な悪魔である。
その背後にも、不ぞろいの革鎧姿の男女が左右を睥睨しながら歩いていた。
「火の用心! 戸締り用心! 何かあったらすぐ通報!!」
と繰り返し、ひと際大きく連呼しながら。
そもそも……
大破壊のような災厄、また災害の後には、心なき者どもによる犯罪が多発するのが常である。
冒険者有志と共に、ミンミは王都で襲来した邪竜と戦った。
マルガとともに邪竜3体を倒したミンミは、大破壊収束後も、
王都の『ボランティアパトロール』を志願したのである。
「ミンミ奥様ぁ!! マルガ様ぁ!!」
次の先の交差点で手を振る女子の一隊が居た。
「おう、ウッラとパウラ、そしてテオドラか」
「うむ、援軍登場だな」
ミンミとマルガは顔を見合わせ、笑顔で頷き合う。
対して、3人も声を張り上げる。
「私も見回りに参加する!」
「お手伝いに来ましたっ!」
「声出しなら負けませんっ!」
脱兎の如く駆け、ウッラとパウラ、テオドラは一隊へ加わったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「火の用心! 戸締り用心! 何かあったらすぐ通報!」
3人の元気女子が加わり、一隊は更に気合が入り、声を張り上げる。
市内警備の為、街角に立つ衛兵が笑顔で、敬礼する。
負傷者が何人も出て、人手不足の衛兵隊にとって、冒険者達の『ボランティアパトロール』はありがたい事極まりない。
このパトロールは、ルウから、王国軍を統括する義父レオナール・カルパンティエ公爵へ事前に話が通しており、了解は得ていた。
当然、衛兵隊にも、周知されている。
果たして、パトロールの効果は抜群だった。
邪な心を持つ者も、冒険者達の声出しにより、良心を刺激されたようだ。
収束後の犯罪発生率は著しく低かった。
立派に犯罪抑止へつながったのである。
「おい、テオドラ」
「何でしょう、マルガさん」
「ルウ様と奥様軍団はどうした?」
「はい、元気ですよ!」
「バカモノ! 元気なのは分かっている。今何をしているのか、聞いたのだ」
苦笑したマルコシアスが一喝すると、テオドラは「しまった」という表情で、
可愛く照れた。
「てへ! 一生懸命、料理作ってます」
「料理? もう夕食は終わっているだろう?」
「いえいえ! ブランデル家の食事じゃありません。明日の土曜日、創世神教会の孤児院へウチの家族全員で慰問へ行くので、子供達と食べるお弁当、デザート、それとプレゼント用の焼き菓子を作っているんです」
「おお、それは、それは! ……うむ、ならば明日は私も同行しよう。丁度依頼がないからな」
悪魔マルコシアスが、創世神教会孤児院の慰問へ行く!?
念の為、もう一度言おう。
情け容赦ない女子悪魔が孤児院を慰問する!?
「え? マルガさんが?」
びっくりしたテオドラが目を丸くする。
しかし、愛弟子のリアクションが、マルコシアスには気に入らなかったようだ。
「何だ、テオドラ。私が慰問へ行ったらおかしいのか?」
「い、いえ……」
「……言っておくぞ。私は……子供が好きだ」
「子供が……好き……」
「だから孤児院の慰問へ行く! 簡単明瞭な話だ! 以上!」
「は、はいっ! し、失礼しましたっ!」
先頭を歩きながら、ふたりの会話を聞いていたミンミは、
思わず「ふっ」と笑ったのである。
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「絶縁した幼馴染! 追放された導き継ぐ者ディーノの不思議な冒険譚」
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