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第124話 「不公平」

 魔法女子学園屋外闘技場、同日午後1時……


 午前の『召喚』の授業が終わり、午後からはもうひとつの課題をクリアする為の授業が始まっていた。

 フランが芝生の上に車座になった生徒全員を見回して言う。


「まずは召喚の魔法は実地訓練の段階に進みました。次はあなた方に伝えた通り、もうひとつの課題……戦闘でも防御でもどちらか1つ属性魔法を習得する事をこなして貰います」


 それを聞いた結構な数の生徒達に動揺が走る。

 致し方ないと言えるであろう、魔法武道部に所属の者以外は今迄殆どが戦闘経験など無い少女達なのだ。


「まずは適性属性別に分かれて貰います」


 フランの指示に従い、生徒達は火、水、風、土の属性別に分かれてグループを作る。


「適性属性じゃないと駄目とは言いませんが、効果発揮の問題がありますから」


 ルウのような全属性魔法使用者オールラウンダー、またフランのような複数属性魔法使用者マルチプル以外の者は殆ど1つの適性属性が定められている。

 魔法式を発動して適性属性以外の魔法を使っても大抵はその効果が半減してしまうのだ。


「今回は攻撃魔法上級指導官のルウ先生がメインで指導を担当してくれますよ」


「わあっ! ルウ先生、攻撃魔法の上級・・指導官だって!」


「格好良い~!」


 フランの言葉に何人かの生徒からルウを囃す声がする。


「ルウ先生は防御魔法にも長けているそうですから、安心して指導を受けてくださいね」


 フランの言葉に再度、生徒達から喚声があがった。

 傍から見てもフランは座持ちが巧くなり、指導力もあがっているのが分る。

 彼女自身、生徒達を教える事に喜びを感じているのだ。


「さあ、ルウ先生。お願いします」


 フランに促されてルウが前に進み出る。


「俺の適性属性は火だけれども一応全ての属性の魔法が発動出来るので見本は示せる」


 いきなりのルウの言葉に生徒達は息を呑んでいる。

 効果はさて置いても全ての魔法を発動出来る魔法使い自体が余り存在しないのだ。


「とりあえず論より証拠、百聞は一見に如かず……だ。火の属性の炎弾ファイアブリッツからやってみるから、しっかり見るように」


 ルウは屋外闘技場の彼方に設置された的を指し示した。


「とりあえず最初から強い魔法を撃とうと思うな。威力はともかく制御コントロールを重視するんだ」


 最初は呼吸法で魔力を高めるのは召喚魔法や他の魔法と同様だと指示をした後でルウは早速、魔法式の発動に入った。

 ルウは魔法式の言葉をひとつ、ひとつ、大きい声ではっきりと詠唱する。


「天に御座します偉大なる使徒よ! その聖なる浄化の炎を我に与えたまえ! マルクト・ビナー・ゲプラー・ウーリエル・カフ!」


 フランは以前、同じ魔法式を縮めて唱えたが、生徒達は初心者なので理解、神力そして炎を司る大天使の名を魔力を込めて詠唱するようルウは見本を示したのである。

 ルウの指先に魔力が集まり、直径1mほどの炎の球が浮かび上がる。

 今迄、火の魔法と言えば発火用の家庭魔法しか見た事の無い生徒達からはどよめきが起こる。


 普通は余所見をしないがと断った上で、ルウは注意点を切り出した。


「本来は一瞬の時間になるが、ここで火球を維持する為には集中力と魔力を切らさないようにするのがコツだ」


 ルウはそう言うや否や的に向かって指を動かす。

 魔法女子学園の的はある程度魔力を吸収するように出来ているので、通常より炎弾の効果が抑えられている。

 それでもルウが放った一撃は的に当たると派手に炎を撒き散らし、生徒達からはまた、どよめきが起こった。


「火球を放つ瞬間が重要だから特に集中してくれ。狙う先をしっかりイメージするんだ」


 ルウは生徒達を見渡すと穏やかに微笑む。

 先程から火属性が得意なフランもルウの話を熱心に聞き入り、時たまメモを取っている。


「最初は無理をしないようにな。焦らずに小さな火球を発生させる訓練からだ」


 生徒達が緊張した面持ちで頷くとルウは続いて防御魔法の見本を行うと宣言した。


「防御魔法も魔法式は途中まで同じだ、良いか?」


 ルウはそう言うと呼吸を整え、良く通る声で魔法式の詠唱を始めた。


「天に御座します偉大なる使徒よ! その聖なる炎の護りを我に与えたまえ! マルクト・ビナー・ゲプラー・ウーリエル・ケト!」


 最後のひと言が垣根を意味する言葉で締めくくられる火の壁ファイアーウォールを出現させる魔法式である。

 ルウが魔法式を唱え終わった瞬間、何本もの火柱がルウの足元から立ち昇り周りを囲んだのである。

 炎の向こう側からルウの声が聞こえて来る。


「この防御魔法は不使者アンデッドに囲まれた時などにも効果がある。奴等はこの聖なる炎に触れるだけであっさりと塵になってしまうからな。ちなみにさっきの炎弾も効果は一緒だ」


 生徒達は全員、特に火属性の適性を持つ生徒達は食い入るように見詰めていた。

 そしてルウの説明は次で締めくくられた。


あと、気をつけて欲しいが長時間の使用は術者の呼吸を困難にする。魔力量の持ちの問題もあるし、注意する事は……以上だ」


 ルウはここで目配せをしてフランを呼ぶ。


「フラン、火属性の指導は任せて良いよな。制御さえ出来れば火の壁ファイアーウォールは攻撃魔法にも応用可能だとも伝えてくれ」


「了解!」


 ルウの言葉にフランは満面の笑みを浮かべて頷いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウは残りの3属性に関しても次々と魔法を発動して見本を示して行った。

 さすがに全属性魔法使用者オールラウンダーと判明してしまうのは不味いので他の3属性の効果はだいぶ抑えたが。


 ルウの各属性の魔法の指導が終わると生徒達は属性別の4つのグループで訓練を開始する。

 午前中に召喚魔法の訓練が巧く行かなかった生徒も良い気分転換になっているようだ。

 ルウは全てのグループをこまめに回り焦る生徒達を諭しながら、指導して行く。


 そのうちにまたもやルイーズに注目が集まった。

 地属性である彼女が魔法式を唱えると小規模ながら頑丈な土の壁アースウォールが立ちあがったからである。

 それを見たエステル・ルデュヌがまたルイーズを凄いと褒め称えた。

 ゆくゆくは王家が管轄する工務省志望のエステルは先程の『アンノウン』が工事用のゴーレムに運用出来たら凄いと大きな声で囃している。


「そうしたら、貴女の方が工務省は適任ね」


 エステルは半分羨望の眼差しでルイーズを見詰める。

 そんなルイーズを見てアンナ・ブシェは溜息をついた。

 彼女は水属性だが、今回の訓練では家庭魔法レベルから余り進歩が無かったのだ。


 またルイーズ?

 彼女ばっかり!

 本当に不公平ね!


 アンナの気持ちはますます深淵に沈んでいったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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