第1,239話 「今度は私達が!」
未曽有の災厄、『大破壊』の収束後……
ヴァレンタイン王国王都セントヘレナは早くも復興への道を歩み始めた。
収束直後のある日、王都商業ギルドのマスター、マチルド・ブイクスから、
任意で緊急招集がかかった。
招集を受けたのは王都で売り上げ100位までの事業主達である。
店舗や従業員が大きな被害を受け、営業不可能な商会、商店の主は参加出来なかったが……キングスレー商会、ブシェ商会はマチルドの招集に応えた。
キングスレー商会王都支店長マルコ・フォンティは、先日婚約したばかりの魔法女子学園教師リリアーヌ・ブリュレを伴い……
またブシェ商会会頭アルマン・ブシェに同行した愛娘のアンナも、これまた婚約したジョルジュ・ドゥメールと共に会合に臨んでいた。
マルコとリリアーヌも、アンナとジョルジュも、『商人』として人生の新たな道へ踏み出そうとしていたのである。
さてさて!
商会会頭や幹部、商店主達参加者の集合場所は商業ギルドの大会議室だ。
マスターのマチルドは参集した事業主達の前で、高らかに言い放つ。
「10年前の大破壊と同じく……今回も起こった邪竜襲来という未曽有の災厄において王国の騎士、兵士の皆様が王都防衛の為、命を懸けました。今度は我々商人が身体を張る番です」
マチルドの話は、王都セントヘレナ復興に向けての様々な指示、
及びそれに伴う情報提供であった。
一般的に事業主達の経営規模、取り扱い商品は多岐にわたる。
キングスレー商会のようにオールラウンドで数多な商品を取り扱う大手の商会とは違い、一般の中小の商会、商店は、何かに特化した商品展開を生業としていた。
しかし、今回は非常時である。
得手の商品だけではなく、普段扱わない商品も対応し、王都市民の支えとなるようにと、マチルドから話が出ていた。
また、市民が必要とする食料品を主にした指定物資の取り引きに関しては、税金にて補填されるので、必ず廉価にて販売するようにとの指示も出されたのである。
……1時間後、マチルドの話が終わった。
「あれ? リリアーヌ先生じゃないですか?」
マルコと共に立ち上がり、退出しようとしたリリアーヌを、
聞き覚えのある声が呼び止めた。
声のした方をリリアーヌが見やれば、2年C組のアンナ・ブシェが恰幅の良い中年紳士、そしてアンナと同年代らしき少年と立っていた。
「えっと、アンナさん、貴女はアンナ・ブシェさんよね?」
リリアーヌは2年B組、つまりステファニー・ブレヴァル達の担任である。
直接受け持ってはいないが、リリアーヌはアンナを見知っていた。
「はい、2年C組のアンナ・ブシェです。今日は父のお供です。だけどリリアーヌ先生。商人の会合とは珍しい場所でお会いしましたね。魔法女子学園の先生が、今日はどうされたのですか?」
アンナが尋ねれば、少しリリアーヌは、はにかんだ。
顔が赤くなっていた。
「ええ、アンナさん。実は……婚約者と一緒なのよ」
アンナはリリアーヌの傍らに立つマルコを見知っていた。
商人達の会合に出席する父にお供して、何度か挨拶していたからだ。
「ええっ? こ、婚約者! という事は! マルコさんがリリアーヌ先生の?」
「そうなの。先日婚約したばかりなの」
「うわ! おめでとうございます!」
「ありがとう! でもアンナさんのお父様は学園でお見かけした事があるけれど……そちらの方は?」
リリアーヌは少年を見つめた。
アンナに兄や弟は居ない。
ひとり娘のはずである。
でも少年の顔立ちには何となく見覚えがある。
ええっと、誰かに似ているんだけど……
つらつら考えたリリアーヌであったが、疑問はすぐ解けた。
少年が、はきはきと自己紹介したからである。
「はい、初めまして! アンナの婚約者ジョルジュ・ドゥメールです。いつも母と姉がお世話になってます」
「ドゥメール!! あら! じゃ、じゃあドゥメールって! もしかしてウチの理事長? そして校長?の!」
「はい、俺の母と姉です。そしてルウ・ブランデルが兄になります」
「そ、それはおめでとうございます! あ、失礼しました! ジョルジュさん、私リリアーヌ・ブリュレです。マルコ・フォンティの婚約者です。魔法女子学園の教師をしています」
「リリアーヌさん、おめでとうございます。俺はマルコさんにはいろいろ良くして貰ってます。ルウ兄上に勝るとも劣らない兄貴みたいな存在です」
ジョルジュの物言いを聞き、マルコが照れる。
「ははは、ジョルジュ様、それは、ほめ過ぎですよ」
「いえ、マルコさんには、魔法使いならではの商売に関しても相談に乗って貰ってます」
魔法使いならでは?
気になったリリアーヌが、ジョルジュに尋ねる。
「魔法使いならではの商売?」
「はい、リリアーヌさん。アンナと結婚して、俺は商人になりますけど、魔法使いの職も捨てませんから」
「え? 魔法使いを捨てない?」
「はい! 俺、欲張りなんです。一流の商人を目指しつつ、必ず上級魔法鑑定士にもなります」
「一流の商人を目指しつつ……必ず上級魔法鑑定士にも……」
「はい! その強みを生かして、絶対にブシェ商会を大きくします」
ジョルジュの決意を聞き、リリアーヌも強い決意が湧いて来る。
魔法使いならではの強み、それを活かしてマルコと共に商人として生きて行こうと思う。
話は更に盛り上がりそうな気配だが、
この場では落ち着いてじっくりとは話せない。
という事で、ここでマルコがひとつ提案。
「皆さん、宜しければ、これからウチの商会でゆっくりお茶でも飲みませんか?」
「おっと、私は用事があるから、失礼するよ。後は若い人同士で話せば良い」
気を利かせたのか、本当に用事があるのか、笑顔のアルマンは辞去を申し出た。
「残念です。ブシェ会頭」
「いや、何の! マルコさん、貴方とはまたすぐ会って仕事をする事となるだろうから」
「ですね!」
「うむ! 禍を転じて福と為すという。ヴィクスマスターの仰るように、この大破壊で我々商人は一層団結するに違いない。更に親交を深めるいい機会だ」
「仰る通りです。今度は私達が! 私達商人が戦う番ですよ」
「はははは、共に戦おう。王都を復興……いや、大破壊前の何倍も栄えさせてみせる!」
アルマンとマルコのやりとりを見て聞いて……
アンナとジョルジュ、そしてリリアーヌはますます商人として生きる決意を新たにしたのである。
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