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第123話 「友情の裏側」

 使い魔『ジェシカ』を見事に召喚したオレリー・ボウを見てルイーズ・ベルチェは羨ましいと同時に闘志を燃やしていた。


 私も……きっと!


「オレリー、よくやったわ。第一段階は合格ね。次は使い魔の呼び出し率の安定化、そして呼び出している間の魔力の省力化の鍛錬ね」


「はいっ! ご指導ありがとうございましたっ!」


 フランの労いの言葉に元気良く答えるオレリー。

 そして副担任であるルウのもとに駆け寄ると楽しそうに話している。


「ねぇ、やっぱり怪しくない?」


 アンナ・ブシェがやっぱりという表情で話し掛けて来た。

 今度はルイーズも納得したように頷いた。


「校長は丸分かりだけど、オレリーもなかなかね」


 ルイーズが呟くとアンナも羨ましそうな表情をする。


「そうよねぇ……やはり恋をすると魔力も上がるのかしら。もしそうなら私も恋をしたいな」


 だけど相手もいないし、もう少ししたら親がセッティングした見合いをする事になるんだろうけどとアンナは寂しそうに呟いた。

 ルイーズにとって商家の1人娘であるアンナとは子供の頃からの気の合う友人である。

 ゆくゆくは『入り婿』を取って家を継ぐという境遇まで似ている2人は、大人になるにつれて更に現実に直面するようになったのだ。


 将来が見えている……


 安定と言う安心感をもたらす言葉と引き換えに自由は失う。

 しかし自由と言う甘美な言葉の裏に実はリスクが付き纏うものだ。

 ルイーズ達はまだその事実を理解していなかった。


「何か人生の先が見えたみたいでつまらないよね」「そうそう」


 普段からそんな会話をして来た2人だが、ここに来てはっきりと傾向が分れて来た。

 魔法使いになってその未来を変えられるかもしれないと足掻くルイーズと相変わらず現状のまま流されるアンナである。


 ―――1時間後


 いよいよルイーズの召喚を行う順番がやって来た。

 彼女は少し緊張した面持ちで召喚エリアに向かう。

 ちなみに今迄クラスの級友が挑戦した結果は成功率3割といった所である。

 いきなり成功したオレリーが珍しいくらいであり、召喚魔法自体が難易度が高い為に成功しない者も少なくはないのだ。


 ルイーズはオレリーと同じ様に呼吸法で精神と身体をほぐした後、タイミングを計って召喚の儀式を始めたのである。


「創世神の御使いであらせられる大天使の加護により、我に忠実なる下僕を賜れたし! 御使いの加護により御国に力と栄光あれ! マルクト・ゲブラー・ホド! 永遠とわに滅ぶ事のない……来たれ、我が下僕よ」


 このような例えも微妙ではあるが彼女に手応えは確かに……あった。


 彼女の手応えの通り、皆が注目している中で異界への通路となっている召喚の魔法陣には精神体アストラルが出現している。

 しかしオレリーの時と違って精神体は実体化せずそのままである。


「どうやら『アンノウン』のようだな」


 ルウの言葉にルイーズが驚いた表情を見せる。


「えええっ!? ア、アンノウン?」


 動揺するルイーズのこころの揺らぎを受けて精神体は不規則に動いていた。

 人間に忠実で思うがままに使役される霊的存在である『アンノウン』と呼ばれる正体不明の者達。

 召喚に成功した『使い魔』のうち、更に約2割弱の割合でしか発生しない貴重な存在なのである。

 ※82話ご参照下さい。


 このような場合はアンノウンを現世に留まらせる為にとりあえず『仮初かりそめの人型』なるものに彼等を封じ込める事が必要となる。

 ルウはすかさずローズウッドの木で出来た人形をルイーズに渡した。

 仮初の人型は何の飾りもない簡単な作りの人形である。

 なかなか起きないイレギュラーではあるが、このような場合も生徒達はしっかりとフランから指導を受けていた。


「アンノウンよ、我がルイーズ・ベルチェの名においてそなたに命じる。この仮初の身体に宿れ。そしてそのことわりを持って我に仕えよ」


 言霊を唱えたルイーズはその人型を宙に放り投げる。


真理エメト!」


 ルイーズの気合の篭った言霊に反応したアンノウンは精神体の身体を『仮初の人型』に吸い込まれて教室の床に落ちた。


起動スタート!」


 更にルイーズが命ずると、ぴょこんと起き上がる『仮初かりそめの人型』


歩けウォーク!」


 続いて下されたルイーズの命でぎくしゃくとした動きで歩き始めた『仮初の人型』は一部の生徒達の失笑を買った。


「何、あれ?」「格好悪~い」「何かチープな感じねぇ」


 思わずルイーズは顔を伏せてしまう。


 そんな声に対して怒ったのがルウである。


「お前達、召喚におけるアンノウンは才能の表れだ。馬鹿にする奴は魔法使い失格だぞ」


 ルウの大きな声に悪口を言っていた生徒達は静かになる。


「今は名前の通り学園の用意した『仮初の人型』に入ってはいるが、このアンノウンのスケールが大きければこれはとても凄い事だ」


 生徒達はやっとルイーズが成し遂げた事を理解したようだ。

 学級委員長であるエステル・ルジュヌが立ち上がって拍手をすると生徒全員も同様に立ち上がって拍手を始めたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園地下1階『学生食堂』12時30分……


 ここは魔法女子学園の学生食堂である。

 年頃の女の子が気にしなくて済むような料理があるかと思えば、魔力があがるといわれる食材ばかりを厳選した料理も何種類かある。

 生徒達はサンドイッチなど弁当を持って来る者を除いてはここで殆どの者が食事をする。

 1度に全生徒に近い300人が食事を摂る事の出来る大規模なものだ。

ちなみに夜は寮生の為に夜の食事を用意していて自炊をしない貴族階級の生徒達には特に好評である。


 その食堂で食事を摂るルイーズの周りには今、人垣が出来ている。

『アンノウン』召喚の件で3時限目の授業が終わった後に是非話をしたいと言って来たエステルがその筆頭である。


 何人もの級友に囲まれにこやかに笑みを返すルイーズ。

 その姿を横目で見ながらアンナはつまらなそうに食事を摂っていた。

 ルイーズが召喚に成功した後、アンナも召喚に挑んだが残念ながら『使い魔』を呼び出すことが出来なかったのである。

 片や見事に成功してちやほやされているルイーズ。


 私の方が『先行組』だったのに何か不公平……


 彼女は失敗の原因を自分の才能や努力には向けず、全てを他の要因に求めて行く。


 何よ、ルイーズったら……たまたま、まぐれで呼べただけじゃない!

 それなのに良い気になってさ。


 少し懲らしめてやろう……アンナはそう考えると暗い目をして笑ったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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