第1,206話 「学園祭⑯」
⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
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『ルウ様』
『ん? モーラル、何だい?』
『ここで……ナディアの事例を思い出してください』
『ナディア……そうか、成る程』
モーラルの指摘を聞き、ルウは「ピン」と来た。
トップになれず、いつも『2番目』だったナディアは心の隙を衝かれ、
悪魔ヴィネと、魂を代償とする契約を結んでしまった。
『はい! ヴィネ同様、闇に住まう悪しき者が、誘惑の甘い手をアルバンへ伸ばしたとしたら……ナディア同様に、心の隙を衝かれ、簡単に取り込まれてしまうでしょう』
『……モーラル、お前の言う通りだ。どんなに強固な意思を持つ者でも、心の隙を衝かれれば脆いし、弱い……実はそれが人間たる証でもあるがな』
『はい! 生徒会長ユルリッシュ・ビガールが召喚した使い魔の変貌も、私の推測を裏付けるものだと確信致しました』
『そうか』
『はい! ビガールが召喚した使い魔は、元々至極普通の犬だった。それが少し前から、赤銅色の巨犬へ著しく風貌が変わったと生徒達からは聞きましたので』
『赤銅色の巨犬か……もしかしたら魔犬ブラッドドッグかもしれないな』
『うふふ、魔犬ブラッドドッグといえば……眷属とする悪魔が居ますよね、ルウ様』
『ああ、犬型をした底意地の悪い奴が確かに居るな。更にそいつの主……しつこい悪魔も絡んでいる……となれば今回のパズルはピースが揃い、一気に完成ってところか?』
ルウとモーラルは『犯人』に心当たりがあるらしい。
『はい! 絶対とは言えませんが、用心するに越したことはないかと!』
『だな! オレリーだけではなく学園全体の安全もある。早めに手を打って、確認し、間を置かずに対応した方が良いだろう』
『ルウ様、私は引き続き調査を続けます。悪魔従士達を含めての対応を宜しくお願い致します』
『了解!』
話が見えて来た。
イフの前提ではあるが、モーラルの言う通り用心するに越したことはない。
ルウは目を閉じたまま、小さく頷いた。
そのまま少し考え込んだルウであったが……
ブランデルの屋敷へ近付いた事を感じ、自然に目を開けた。
ここでフランがじっと見つけて来る。
ルウが何を思案しているのか、ピンと来たらしい。
「念話で話したい」というアイコンタクトであった。
『旦那様、戻ったら夕食後、書斎で……アドリーヌも同席でお願いします』
既に意思疎通しているらしく、アドリーヌもルウへ、
すがるような視線を送って来る。
アドリーヌはまだブランデル邸へ来て日が浅いが……
積極的に家族と触れあおうとしていた。
フランもアドリーヌも、モーラルが、今日の午後ウッラとパウラを連れ、
魔法男子学園理事長アルバン・ボーヴォワールと、同学園生徒会長ユルリッシュ・ビガールの身辺調査へ赴いた事を知っている。
ふたりともオレリーが心配で仕方ないのだ。
『了解』
と笑顔のルウは、念話でフランへ返し、アドリーヌには小さく頷く。
ふたりは安堵して目を合わせ、互いに微笑んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
2時間後……
入浴、夕食とお茶が終わり……
フランとアドリーヌは改めて、書斎にてルウと向かい合っていた。
この3人だと『極めて小規模な職員会議』という趣きがなくもないが……
話の内容は、結構重いモノとなった。
会話は念話で行われている。
あまりふたりに心配をかけたくない。
報告は入れるが、簡潔明瞭にしようとルウは考えていた。
主な内容はふたつである。
『早速だが、報告を受け、俺とモーラルが推測した事も含め話をしよう』
推測が入る事は前もってふたりに伝えてある。
だからふたりに異存はない。
『構いません、お願いします、旦那様』
『私も同じです。お話しして頂くのは、差し障りのないレベルで構いません』
『了解! まず魔法男子学園理事長アルバン・ボーヴォワールだが、アデライド母さんに私怨があったようだ。多分一方的な逆恨みに近いモノだと思う』
『お母さまが?』
『理事長へ? もしかして、逆恨み? ……ですか?』
『うん、特にフランは知っているだろう。アデライド母さんとボーヴォワール理事長は大学の同級生同士だが、単に挨拶をするくらいの知り合いという間柄だ』
『ええ、確かに私の認識でも、お母様とボーヴォワール理事長――子爵は、一応、魔法大学の同級生というか、単なる知り合いにすぎません』
『でも逆恨みとか、嫌ですね』
『だな! 逆恨みしているのは、何かのきっかけで変な思い込みを、ボーヴォワール理事長がしたのだろう』
『う~ん……』
『もしや片思いとか! でもまさか、ですよね?』
『……以前からいろいろ陰口を言っていたらしいが、夏前くらいにとても酷くなったらしい』
『う~ん……重たい人。お母様が可哀そう』
『何だか……最低』
『引き続き、調査は継続する。次に生徒会長ユルリッシュ・ビガールだが、元々召喚魔法は得意だったらしい。だが少し前にユルリッシュの使い魔が変貌を遂げたようだ』
『変貌?』
『旦那様、どういう事でしょう?』
『ユルリッシュの使い魔は普通の犬だった。しかしいつの間にか、赤銅色の巨犬へ変わったというんだ』
『赤銅色の巨犬? 毛並みも大きさも!? それって、もしや魔族では?』
『急に変わったなんて、……充分ありえますよね!』
『ああ、もっと怖ろしい奴が背後に居る可能性もある。それを踏まえて今夜のオレリーへの特別授業は、しっかり対策を練る事に重きを置くよ』
ルウはこの後、異界『エデン』へオレリーと共に赴き、
ふたりきりで授業を行う事となっている。
オレリー自身の魔法ビルドアップは勿論、心のケアも兼ねている。
『旦那様、賢明です。家族全員のバックアップで対抗戦を戦って貰いましょう』
『でも旦那様の個人授業なんて、オレリーが少し羨ましいです』
アドリーヌでけでなく、妻達の何人かは羨ましがった。
だが……
オレリーの為だと理解し、後日ルウが他の形でケアしてくれる事に期待していた。
『既にオレリー達へは伝えたが、こちらは卑怯な手は使わず、基本的にはフェアにやる。充分に警戒しながらな』
と言いながら、ルウには何か『策』があるらしい。
フランとルウは個人授業に混ざりたいと思いながらも……
大きく頷いていたのだった。
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