第1,189話 「戦女神の遺産㉑」
遂に戦女神は……
最後の『切り札』である『呪われた盾』をルウの前面に押し立てて来た。
しかし、この盾こそが、ルウの探し求めていた盾でもある。
いずこからともなく飛んで来た盾は丁度、ルウと正対する形となった。
数え切れないくらいの敵を屠った、『石化の呪い』が間違いなく発動する。
完全な勝利を確信した戦女神は「にやり」と笑い、高らかに言い放つ。
『神たる私に刃向かう愚か者がぁ! モノ言わぬ石像となれ~ぃ!!!』
ルウと盾に埋め込まれたメドゥーサのデスマスク。
双方の視線が合った。
瞬間!
ルウの身体は強張り、重く固くなったように見えた。
『どうだぁ! いくらお前でも我が呪いの力には勝てぬっ! 私に逆らった数多の愚か者と同じ運命をたどるがよいわぁ!!!』
しかし!
ルウの表情は変わらない。
石化する者は、全身に耐えがたい苦痛を感じながら、声にならない叫びをあげ、
悶絶した末、動かぬ骸と化すらしい。
だが……腕組みをしたまま、ルウの穏やかな笑顔は全く変わらないのだ。
否、更に慈愛を込め、無念の表情を浮かべるメドゥーサのデスマスクを見つめている。
『な、何故だ! 何故、石化しないっ!?』
『……………』
『それどころか! お、お前の魔力が! す、凄まじく増しているっ!』
『ふっ……』
小さく笑ったルウを、戦女神は驚愕の眼差しで見つめる。
『わ、わ、分かったぞぉ! お前の身体だ!』
『…………』
『さ、先ほどの雷撃もそうだっ!』
『…………』
『し、信じられんっ! お、お、お前の特異な身体は! 全ての魔力を、き、吸収し! 己の力へと変換しているのかっ!!』
ルウの持つ無敵の肉体……
底知れぬ秘密を見抜いた戦女神へ、ルウは淡々と言い返す。
『……その通りだ。雷撃もメドゥーサへかけられた石化の呪いも……力の根源が、戦女神……お前の魔力ならば俺には通じない』
『う、ううう……』
『もう理解したはずだ。お前の手は完全に尽きた……大人しくその盾を渡せ』
『くっ!』
『渡せば、この世界へ残ったお前の未練を消してやる。但し、行き先は深き地の底、冥界だ』
『ぬぬぬぬ!』
『崇高な志を貫く為、創世神に抗っても地へ堕ちたルシフェルをお前は嘲笑し、冒涜したという。しかし、己の欲望のみに生きた愚かなお前に、彼を笑う権利など全くない』
『う、うがああっ!』
『愚かなる者よ、父の大神、大神の妻ともども、この世界には不適格な神として、闇に満ちた冥界で永遠の責め苦を受けるが良い』
『黙れっ!』
戦女神の叫びと共に、彼女が召喚した魔槍がいきなりルウへ向かって飛翔した。
打つ手が尽きた戦女神の、最後の抵抗といえる反撃である。
しかし魔槍はルウへ届く前に、見えない壁に阻まれたように、重い音を発し、
神殿の床に転がった。
かつて危機に陥ったリーリャを救った際、大悪魔アスモデウスの魔槍を全く寄せ付けず弾いたように。
『あ、ああ……』
『どうやら、素直に盾を渡すという選択肢はないようだな』
『あ、当たり前だ! 私はけして退かぬし、省みぬ! ただ前へ前へと進むだけだ』
『ならば! 戦女神、すぐさま地の底へ堕ちよ!』
『ぬうううっ!』
『地の底最奥で、己の犯した数多の罪を悔いるが良い!』
先ほど屠った英雄同様、裁きとも思える言葉と共に、
ルウの右腕から抜き身の剣が一直線に伸びた。
武装姿の戦女神をあっさりと刺し貫く。
『うぎゃああああああああっ!!!』
戦女神が使い捨てとした半弟の英雄と、全く変わらない断末魔の叫びが大広間に響き渡った。
ぼしゅっ!!!
これまた……
先ほどの英雄同様、何かが破裂するような音がした。
最後の最後まで己の誇りを盾に抵抗した戦女神……
しかし、彼女の魂の残滓は、ルウが放った破邪の剣により呆気なく消滅していたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
戦女神の魂が消滅、『呪われた盾』は支える者が居なくなり……
ゆっくりと大広間の床へ落ち始めた。
それを見て、ルウは指をピンと鳴らした。
盾の落下がぴたりと止まった。
魔力を使い、ルウが落ち行く盾を支えたのだ。
ルウの眼差しが宙に浮く盾を見据え、目を大きく見開いたメドゥーサのデスマスクの視線と絡み合う。
だが……
やはりルウは石化しない。
それを見て、安堵したメドゥーサの口元が、わずかにほころんだ。
……ルウはそんな気がした。
さあ、いよいよ今回の旅の目的が叶う。
穢され、貶められた上、まるで見世物のようにされ……
人間としての尊厳を散々破壊された少女メドゥーサを遥かなる天へ送ろう。
彼女の魂を安寧の世界へ導く為に……
ルウは葬送魔法の言霊を高らかに詠唱する。
『ビナー、ゲブラー、我は知る! 大いなる創世神よ! 冥界の監視者たる忠実な御使いに理を託し、現世に彷徨える魂の欠片に新たなる旅の祝福を! 哀れな少女へ行くべき途を示したまえ!』
ルウの身体が発する魔力波で眩く輝いている。
『昇天!』
ひと呼吸置き、決めの言霊が発せられると……
メドゥーサの魂が宿った『呪われた盾』は、ゆっくりと静かに消えて行ったのであった。
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