第1,188話 「戦女神の遺産⑳」
突如、『至聖所』に、何かが現れる気配がする。
ルウは腕組みをし、何もない空間を見やった。
すると、精神体らしき「もやもや」した正体不明の物体が固まり、徐々に人型となって行く。
やがて、人型は鎧姿をしたひとりの女性を造り出した。
『都市の守護神』と敬われ、『輝く瞳を持つ者』と称えられたひとりの美しい女神……
しかしその性格は自由奔放、とても気が強く、誇り高い。
加えて、傲岸不遜でもあり、己を貶める者には絶対に容赦しない。
異を唱え、反抗したアラクネやメドゥーサに対して、徹底した非道な扱い、冷酷な仕打ちからも明白である。
ルウが感心したように言う。
『ほう、未練の感情から生じた魂の残滓に過ぎぬのに、お前はまだそのような人型になれるのか?』
『魂の残滓? そしてお前だと? 重ね重ね無礼な奴、私の力を軽く見るでない!』
『ふっ』
『うぬぬ、笑うなっ! 人の子の分際で神たる存在に対し、不遜な態度、許さぬぞ!』
『ははっ、不遜はどっちだ? つまらぬ御託はもう聞き飽きた。俺達がここへ来た用件を言おう』
『用件だと!』
『ああ、お前の持つ、呪われし魔法の盾をもらい受ける。さっさと出せ』
ズバリと言い放つルウの要求を聞き、戦女神は美しい眉をひそめる。
『私が持つ盾だと?』
『そうだ、大人しく盾を渡して貰おう』
ルウの勧告を聞き、戦女神は高らかに笑う。
『ははははははっ! 下衆め!』
『…………』
『偉そうにしていても、人の子らしく卑しい欲望に魂を満たした者だ。そんなに私の盾が欲しいのか?』
『ああ、欲しいな』
『ならば!』
『…………』
『地に頭をつけ、ひれ伏せ! そして謝罪し懇願せよ! 己が愚かだった、盾が欲しいと! そうすれば、許した上、譲渡を考えてやらなくもない』
『…………』
『何故、黙ってつっ立っている。さっさと私の前にひれ伏せ。そして許しを乞うのだ』
『…………』
『おおそうだ、良い事を思いついたぞ。お前をあの英雄の代わりに飼ってやろう。守護者として我が聖なる神殿の礎となるが良い。その欲にまみれた薄汚い魂を差し出すのだ』
戦女神のコメントはエスカレートする一方である。
しかしルウはずっと無言であった。
腕組みをしたまま、戦女神をじっと見つめている。
『言う事はそれだけか? では盾を俺の力で奪い取るのみ』
『俺の力? は! ひ弱な人の子が笑わせる!』
『笑うのは結構だが、俺に雷撃は通じない。もう一度でも何度でもやってみせろ』
『はっ!』
ルウが挑発した瞬間!
気合と共に戦女神の手が発光し、大広間が真っ白になった。
と同時に、
どがあああああああああ~~ん!!!
巨大なくい打ち機が地面を突き刺したような大音声と震動が響いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ルウ様!』
『ルウ様!』
背後で見守っていたモーラルとテオドラであったが……
戦女神の最大級の雷撃を受けたルウを案じ、さすがに駆け寄ろうとした。
テオドラは勿論だが、常に泰然自若としたモーラルにも僅かに心配そうな表情が見て取れる。
しかし、ルウは無事のようだ。
立ち尽くしたまま、身動きしていなかったが、左手をさっと動かし、
モーラル達を制止したのだ。
『モーラル、テオドラ、心配は無用だ』
全く無傷のルウを見て戦女神は動揺する。
『な!? な、何故だ! 今度は加減しなかった!』
『だから言っただろう? 論より証拠だって』
『くっ!』
悔しそうな戦女神が、短く呻いた。
父、南の大神が使った最大の御業はやはり通用しなかった。
相手の言う事に偽りはなかったのだ。
配下も全て失い、父譲りの御業も通用しないとなれば、戦女神に残された手は限られて来る。
『〇§ΔΘ……』
戦女神は目を閉じ、何事かを呟いた。
ばきばきばき……
どこかで……何かが割れる音がした。
これは空間が割れる異音だ。
ひゅん!
これまた独特の異音が起こり、戦女神に向かい何かが飛んで来た。
何と、ひと振りの槍である。
戦女神が亜空間に隠していた愛用の槍である。
『魔法を行使する人の子よ、今度は私と武器で戦え!』
『武器……』
ルウが槍に見入った、その時。
ひゅん!!
またも大きな音がして輝く銀色の盾が飛んで来た。
もしや、これが!?
『ルウ様!』
『ルウ様!』
再びモーラルとテオドラがルウの名を呼び合った。
そう……
遂に戦女神は、切り札である『呪われた盾』をルウの前面に押し立てて来たのである。
またこの盾こそが、ルウが探し求めた盾でもある。
飛んで来た盾は丁度、ルウと正対する形となった。
勝利を確信した戦女神はにやりと笑い、高らかに言い放つ。
『愚か者がぁ! 石となれ~ぃ!!!』
ルウと盾に埋め込まれたメドゥーサのデスマスク。
視線が合った。
瞬間!
ルウの身体は強張り、重く固くなったのである。
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